映画感想(ネタバレもあったり)

映画コラム/映画イラスト

映画『燃ゆる女の肖像』ラストネタバレあり 「描くのです!」って言われたもう1人の画家

2022-09-13 | 映画イラスト
燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
Portrait de la jeune fille en feu上映日:2020年12月04日製作国:フランス上映時間:120分


【ネタバレあり】四コマ映画『燃ゆる女の肖像』 → https://4koma-eiga.jp/fourcell2/entry_detail.htm?id=2859
 



【ネタバレあり】四コマ映画『燃ゆる女の肖像』 → https://4koma-eiga.jp/fourcell2/entry_detail.htm?id=2859

現代よりも情報量もなく正しい知識もなかったであろう1700年代で、同性愛者、ましてや女性が生きるのは、ほとんど暗闇を手探りで進むようなことだったんだろうなと思いました。

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■異常に精細な音と映像


衣装の生地のそれぞれ風合いまでが克明に映されてました。
ドレスってこんなにもいろんな種類の生地で作られていたのかと初めて知りました。

それらの全てを精細に映す撮影が素晴らしかった。海も、砂も、岩も、ほつれた髪の一本も、腕毛さえも、全部鮮明に映す。

あと、音も。
黒炭が紙を滑る音。筆で絵の具を混ぜる音、掬う音。ドレスが擦れ合う音。鼻息。唇が触れあう音。離れる音。
ASMRか!ってくらいの微細な音でした。

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■不在の男性による抑圧

ここまで全ての音を録って、物を映しているのに、男だけはほとんど映していません。
(序盤と終盤に出てきますが話には関わってこない)

男は映らないけど男に支配された世界。

この映画に悪人は出てこない。
娘たちを閉じ込めていたあのお母さんも悪役としては描かれていなかった。

女性の集団に対してすぐに「本当は仲悪いんでしょ?」と揶揄したり
「女同士のプライドを賭けた戦い!」を男が高みの見物をするような映画も多いですけど
この映画の女性たちは皆同じく苦しみながら連帯していました。


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■地
面スレスレのスカート

あの時代の女性のスカートって見るたびに異様に思うんですが、ほんとに地面スレスレ。
あれで泥道も草原も砂浜も歩く。どう考えても汚いし、不便だったはず。
でも女性はスカートを脱ぐことは許されなかった。あのスカートは抑圧の象徴に見えます。

そのスカートが燃えました。

ちょうど裾から火がついて、このままスカートが燃えてしまえば「自由」になるけど、それは命を危険に晒すもの。
自由か死か。
その数秒後、女性たちによって火は消されます。
スカートは燃えなかったけど、エロイーズとマリアンヌの心にはむしろ火がついてしまいました。


で、初キスからの、どうみても女性器の形を模したような岩の割れ目に2人は吸い込まれてのキス。

キスもなんか、あんまりいやらしく見えなかったです。
あんまりみたことのない雰囲気でした。
男目線で撮られないからでしょうか。



ラストネタバレ


純白のドレスを着たエロイーズはほとんど幽霊みたいな雰囲気で結婚へと進みます。
マリアンヌは絵の先生として生計を立てつつ、画商のオークション(?)に出品。
女性画家の絵は売れないってことで父の名前で。
マリアンヌの知人っぽい初老の男性のみ話しかけてきましたが、他は誰もマリアンヌの絵を見ません。
その会場にエロイーズの肖像画があることを知るマリアンヌ。走り寄ります。
そこにはエロイーズとおそらく彼女の娘であろう可愛らしい少女。目力は彼女譲りに見えます。
エロイーズの手には本が。マリアンヌが拘っていた手です。人差し指が28ページを開いています。
28ページにはマリアンヌの自画像が描いてあるのです。もしかしたらいつかマリアンヌが見るかもしれない。伝われ、マリアンヌへ!とメッセージをこめた28ページ。
画家「あの、奥さん、、その本、、めくれてますけど…」
エロイーズ「いいのです。全て描いてください」
画家「はぁ…」
エロイーズ「何ページが開かれていますか?」
画家「え、あ、28ページです…」
エロイーズ「描いてください」
画家「はぁ…(怖い人だなぁ)」
っていうやりとりがあったかも。
ラスト。オーケストラ。
マリアンヌに勧められたオーケストラ演奏会にエロイーズが来ます。
初めてなのか、何度目なのかはわかりません。
それをマリアンヌが遠い席から発見します。
エロイーズはマリアンヌに気付きません。
でも、オーケストラの演奏が始まるとエロイーズは記憶の中のマリアンヌを呼び出します。
鮮明に撮影された皮膚、髪、唇が離れた時の唾液。
ソファと服が擦れる音、呼吸音、彼女と一緒に聞いたさざなみ。
これらがこのシーンで効いてきます。
マリアンヌは双眼鏡でその状態のエロイーズを観察します。
でも、もう画家とモデルという観察ではありません。
「明らかに私のことを思い出してるっ!私のこと思い出してああなってるっ!」という喜びがマリアンヌはあったことでしょう。

画面には恍惚とするエロイーズの顔しか映っていませんが、観客にもエロイーズとマリアンヌとの逢瀬が鮮明に蘇ります。
ほとんどオルガズムのような表情で映画はおわり。

***

その後の2人をこの映画は決めていません。
会場の出口で張っていればマリアンヌはエロイーズと再会することは容易いでしょう。
でも、再会したところで結ばれるのは難しいですよね。時代的にも、経済的にも。

再会も、再び結ばれることもないけど、確かにお互いを思い合う愛があることを確認できたラストですね。

***

差別、抑圧の苦しみを描きつつ、心の自由さを描いた
差別と抑圧の苦しみが描かれた映画ですが、自虐的な人物はいませんでした。
「私たちみたいな人間は一人で生きていくしかないのよ!」などという呪いの言葉を誰も言いません。
呪いの言葉で苦しみの中に閉じ込めようとする人物はいません。
本来誰もが自由であり心の自由は誰にも奪われないのだと伝えてくれる、傑作映画でございました!!



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