映画感想(ネタバレもあったり)

映画コラム/映画イラスト

映画『リング・ワンダリング』 笠松将主演の幻想譚 

2021-12-29 | 映画イラスト
リング・ワンダリング(2021年製作の映画)上映日:2022年02月19日製作国:日本上映時間:103分-
監督 金子雅和 脚本 金子雅和 吉村元希
出演者 笠松将 阿部純子 片岡礼子








金子雅和監督らしい壮大な物語

金子雅和監督と言えば美しく迫力のある自然の映像美。音響も良いです。
自然と人間との境界線を舞台にした幻想的な物語が金子監督の作風ですね。

怖いくらいに美しい自然の映像はもちろん健在ですが、今作のテーマは"東京"。
ネタバレできないので、、あまり詳しく書けませんが、、
今作は都会と自然という距離的な横軸ではなくて、3つの時代が入り組んだ縦軸もイメージです。
しかもちょっと世界線も違う時代もあったりします。
広がりのある壮大なこの物語の中心にいるのが、次世代スター俳優 笠松将!


真実をえぐる男 笠松 将
2019年あたりから一気に出演作が増えていますが、僕がインパクトを感じていたのは『カランコエの花』(2018)でした。
『カランコエの花』では悪役と言ってもいいくらいのヤンチャ系で周囲の調和を壊していく役だったと思います。

でも、腫れ物に触れるように当たり障りなく流そうとしているクラスメイトや教師に対して、ズバッと痛いところを突く役どころ。
コントロールが効かない野生的な雰囲気は今作『リング・ワンダリング』でも生かされていましたね。

下手したら、この壮大な物語・不思議な登場人物たちの真ん中にただいるだけの主人公になっていた危険性もあったかと思います。

うまくアウトプットができない人で、基本的にはリアクションをする男。
でもリアクションの演技がすごいし、笑いさえ取れるくらいに面白いので、彼の心の動揺や混乱が観客にもスッと入ってきます。

アウトプットするシーンは、漫画家の役なので「絵を描く」という動作な訳でちょっと地味なんですね。

でも、笠松将自身が絵を描くのが好きで得意らしく、絵を描くということにビビってないし迫力あるし、「絵を描くことでアウトプットする人」という真実味がありました。


片岡礼子、安田顕、阿部純子
ヒロインが阿部純子。二つの時代で二役を演じています。ものすごく古風にも見えるし、現代的な美女にも見えるし、華やかさもあるし憂いもあるし。なんでもできちゃいますね、この人。すごい。

安田顕はメンターですかね。
やはり存在感と温かみがすごい。この役では渋〜い声や表情を見せてくれてるんですが、やっぱちょっっっとだけ面白いってのがずるいですね。

ずるいと言えば片岡礼子。みんな大好き片岡礼子。
『深夜食堂』(2018)、『愛がなんだ』(2018)の片岡礼子が大好き。技巧的って感じじゃないんだけど幅が広い。

ラストシーン
『リング・ワンダリング』のラストシーンはぜひ見逃さないように気をつけてくださいね。
ラストの俯瞰シーンで、この映画がグルッと円環構造に仕上がりますので!
言語化できない感動が押し寄せますので。

リングワンダリングの意味
輪形彷徨とか環形彷徨と呼ばれるもので、方向感覚を失った状態で歩くと円を描くように同じ場所をぐるぐる歩いてしまうという現象。
吹雪で周りが見えないとか、あまりにも広大で目印がない場所だと、利き足に偏って真っ直ぐ歩けずに一方向に曲がって円を描いて戻ってしまうらしい。

映画『稽古場』 コ□ナ禍の空気ムンムン ワークショップから生まれた

2021-12-05 | 映画感想
ワークショップを経て撮影された短編3本のオムニバス映画 稽古場


稽古場
監督中村義洋 足立紳 窪田将治
脚本中村義洋 足立紳 窪田将治
2021年公開 上映時間66分


プロジェクト開始のきっかけは、コ□ナウィルスの影響で緊急事態宣言が発令され、エンタメ業界が打撃を受け大変な状況となった中、中村義洋監督、足立紳監督、窪田将治監督が相談をし、プロジェクトが始動。
演技ワークショップを開催し、16人の俳優部とともに短編映画を制作することになった。
俳優部の受講料は、文化庁の助成(文化芸術活動継続支援金)の経費となり、劇場で公開した際の収益(興行収入)は「コ□ナ禍の影響を受けた俳優部が少しでも収入を得られれば」という思いで参加俳優に均等分配することになっている。
各監督は、予算・時間・設定(稽古場)など、すべてにおいて同条件のもと、演出&制作を行っている。
また劇場公開に向けキャンプファイヤーにてクラウドファンディングを始動させた。
Wikipedia






「リアクション・マスター」 松木大輔 中垣内彩加 望月めいり 廣田琴美 金城大和


「しちゃったね」 仁科かりん 横江泰宣 中野歩 宮地真緒 西村佳祐 田中偉登


「パッション・ゲーム」 遠山泰市 財田ありさ 穴田結海 白戸達也 安倍乙


個人的には しちゃったね が面白かった。

主役なのに何の主導権も持たせてもらえてない横江泰宣さんが面白く、話もどこへいくかわかんなくて。

コ□ナ禍ならではのキスシーンもスリリングで可笑しいのにやはりちょっと寂しさもあり。

稽古場という閉じられた空間、けして発表の場ではなくただただ準備することしかできない空間。

コ□ナ禍では多くの人がこの状況にあったと思います。

この3本の映画はコ□ナ禍の空気をムンムンと記録した生々しいものになっていると思います。




映画『ONODA 一万夜を越えて』反戦のメッセージで貫かれた

2021-12-02 | 映画感想
ONODA 一万夜を越えて(2021年製作の映画)ONODA
上映日:2021年10月08日製作国:フランス日本ドイツベルギーイタリア上映時間:174分
監督 アルチュール・アラリ
出演者 遠藤雄弥 津田寛治 仲野太賀(太賀) 松浦祐也 千葉哲也 カトウシンスケ 井之脇海 足立智充

目次

  1. 「そういう人を賛美するような映画だったら僕は参加したくないな」by松浦祐也さん
  2. 今年ベスト10級なのは間違いナシッ!
  3. ダーティな部分も
  4. 感情が揺さぶられる
  5. 人間というものは
  6. 俳優全員最高
  7. 「自分が外国人だから実現できた、ということはあるかもしれない」


「そういう人を賛美するような映画だったら僕は参加したくないな」by松浦祐也さん


小野田寛郎に関してそんなに詳しいわけではないですが、NHKのドキュメンタリー「ハイビジョン特集 生き抜く 小野田寛郎」をちょうど昨年観ていました。

同じく残留日本兵で終戦から28年グアムに潜伏していた横井庄一とごっちゃになってたレベルで、
横井庄一は終戦を知らなかった(?)けど、
小野田寛郎は終戦を知っていたけど次の戦争に向けて潜伏しながらスパイ活動を続けていた人だったり、
帰国後は戦後日本の極右勢力の英雄として扱われていた人だったと知りました。

この映画『ONODA 一万夜を越えて』が、戦争や日本軍を礼賛する系の映画だったらヤだなと思って敬遠していました。
しかし、↓コチラの動画で


出演されている松浦祐也さんが「オーディションに声をかけられていたけど、(中略)そういう人を賛美するような映画だったら僕は参加したくないな」とおっしゃっていて、
森直人さんも「ヒロイックな小野田像になっていたら辛いな、と」ともおっしゃっていまして、

↑この箇所を見て「じゃあ僕もきっとこの映画大丈夫そうだ」と思いましたし、とにかく絶賛されていたので、上映時間179分ってのは怖かったですが、、観に行きましたよ!



今年ベスト10級なのは間違いナシッ!

原作はフランス人ジャーナリストのベルナール・サンドロンによる『ONODA 30 ans seul en guerre(小野田――その孤独な30年戦争)』。
監督もフランスのアルチュール・アラリ。

フランス、ドイツ、 ベルギー、イタリア、日本の合作映画です。

制作が日本やフィリピンではなくヨーロッパ諸国であることで、すごく客観的な視点になっていてそれがとても良かったです。

史実をそのまま描けばストレートに反戦のメッセージになる ってことがわかっている映画の作りでした。

上映時間3時間ずっと根底には反戦のメッセージが貫かれているんだけど
史実に基づく過酷で皮肉な展開で3時間ホントに飽きなかったです。

人物描写もとても豊かで、ユーモアもあるし、
4人が残ってからは2対2のバディ対決みたいにもなってきて、
かな〜りBLチックな艶かしい描写も入ってきたりして、、
特にこの4人のことが観客は好きになっていくだろうし、
そうすると一人一人減っていくのが辛く寂しくなる。。

30年間の潜伏期間とさらに陸軍中野学校での学習期間の回想シーンもあるので、3時間でも目一杯情報は詰め込まれています。

サクサクと展開して飽きてる暇はないです。



ダーティな部分も

潜伏期間中にフィリピン人を殺害した事件もちゃんと描かれています。
しかもその描写がすごく丁寧でした。

人を殺すということ、人が死ぬということをすごく時間を使って描いていて、
それ故に恐怖が増すし、命に重みが増すし、
それは「反戦」のメッセージへとつながっていく。
人間や生死をちゃんと描けばそれは反戦になる。



感情が揺さぶられる

陸軍中野学校は秘密戦と呼ばれるスパイを育成する学校で、小野田寛郎はそこの卒業生。
他の日本兵と違って「絶対に死ぬことは許されない」と教わっていた。

とにかく上官からの指令を守って30年も孤独の中で任務を遂行し続けていた男に対して、正直ちょっと尊敬の念も感じ始めてくるんです。。

簡単に「なんて愚かなんだろう」と切り捨てられなくなってきます。

ラスト、小野田寛郎ひとりになったところで、空気の読めない感じの仲野太賀が現れた時に
「小塚や島田、赤津が繋いできたこの世界を壊さないでほしい」と思ってしまいました。
自分がちょっと小野田寛郎側の気分になっちゃってることに動揺しました。



ラストシーンでも「反戦」や「戦争の愚かさ」は声高には語られません。

ただただ淡々と史実に基づくにシーンを重ねていって、俳優の表情を映し、キャラクターの目に映るものをカメラが追っていくだけです。

上官役のイッセー尾形が陸軍中野学校時代にはキリッとビシッとしていたのに、30年後に再会した時はシャツをボタンもちゃんと閉じられていない状態で変わり果てた姿で小野田寛郎の前に現れる、という残酷でとても皮肉なシーン。

自分が信じていたものが今やこんな感じになっちゃってんのかよ!と知る残酷なシーン。
でも小野田はそのリアクションができない。
それを認められない。

おそらくこの上官なんかよりもっと上の崇高な国体思想(?)に仕えている自分をイメージしたのではないかな、と思いました。



人間というものは

戦争というものは人間をこんな風にしてしまうし
人間ってのはこんな風になってしまうものである。

それは史実が証明している。

ならばどうしたら2度と繰り返さずに済むか。

その一つが「忘れない」ってことなのでしょう。





俳優全員最高

最後に、俳優全員最高。

青年期の小野田を演じた遠藤雄弥の、自分の中に揺らぎがあることを外に出してはいけない!という1秒も緩まない緊張感ある演技。
その遠藤雄弥の演技をサラッと引き続きさらに月日の積み重ねも感じさせた津田寛治。
思い返してみるとほとんどセリフなかったはず。
でも観客は顔を見ただけで自動的に想像し始めてしまう、この男の感情を。

助演の皆さんも全員素晴らしかったですが、筆頭は松浦祐也。
リーダー小野田に支える犬のような視線でありつつ、常にちょっとふざけてるように見える軽さ。その全てがとても人間らしくて愛らしかった。
助演賞獲って欲しいんだけどなぁ!

一応この映画フランス映画ってことになるんよね。国内の賞は厳しいかぁ。。

そしてこの映画の中で一番異質な存在仲野太賀。
2018年11月から2019年3月までカンボジアで撮影されていたとのことなので、ドラマ「今日から俺は!!」の撮影の後にカンボジアに行ってるんですね。
小野田をはじめとする4人が作り上げてきたジャングルの中の世界観を壊しにくるという難役。
しかも「なんなのこいつ!」っていう空気読まないキャラ。
それを持ち前の人懐っこさと真実味で演じてました。


「自分が外国人だから実現できた、ということはあるかもしれない」
アラリ監督も「自分が外国人だから実現できた、ということはあるかもしれない」と言っているとのこと。

イッセー尾形が語る『ONODA 一万夜を越えて』撮影秘話!「小野田さんの半生を“純粋体験”してほしい」 | BANGER!!!
https://www.banger.jp/movie/65918/


確かに日本ではこの題材を映画化できる文化的な土壌がないと思いますし、結果的にフランス人監督が撮ったことで客観性が生まれて、普遍的で複雑な反戦映画になったと思います。