映画感想(ネタバレもあったり)

映画コラム/映画イラスト

映画『雪山の絆』「多くの報道が無思慮で強引な方法で我々の食事に焦点を合わせた」

2024-03-20 | 映画感想

雪山の絆 上映日:2023年12月22日  製作国:ウルグアイ スペイン チリ 
監督 フアン・アントニオ・バヨナ(J・A・バヨナ)
脚本 フアン・アントニオ・バヨナ(J・A・バヨナ) ベルナ・ビラプラーナ  ハイメ・マルケス  ニコラス・カサリエゴ
原作 パブロ・ヴィエルチ
出演者 エンゾ・ヴォグリンシク  アグスティン・パルデッラ  マティアス・レカルト  エステバン・ビリャル  ディディエゴ・ベゲッツィ  フェルナンド・コンティヒアニ・ガルシア  エステバン・ククリスカ  フランシスコ・ロメロ  ラファエル・フェダーマン  ヴァレンティノ・アロンソ




映画『生きてこそ』で描かれたウルグアイ空軍機571便遭難事故なんですね。


『生きてこそ』観てないんですが。

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この事故と
彼・彼女らのサバイバルと
ある決断と
その後その決断を受け入れた人たちの物語ですね。

僕はその決断についてどうのこうのと意見を言う立場にないし
何か言いたい気持ちも正直あまりない。

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生還したナンド・パラードが自著『アンデスの奇蹟』にこう記している。

事実上、我々の生還は国家のプライドの問題となった。
我々の試練は輝かしい冒険譚として祝われていた。
…私はあの山脈には栄光などなかったと彼らに説明する方法を知らなかった。
それは、全ての醜悪さと、恐怖と、自暴自棄と、とても多くの罪無き人々が死にゆくのを見る不快だった。
また、私は報道が我々が生存するために食べたものに関することを扇動したことに動揺した。
我々の救出後すぐに、カトリック教会の職員たちは、教義に照らしても我々が死者の肉を食べたことは罪に当たらないと発表した。ロベルトが山で論争したように、教会は罪は自分たちが死にゆくことを許容することにあると世界に発表した。
私にとっての素晴らしい満足だった出来事は、死んだ少年の両親の多くが、我々が生き残るために選択した行為を理解し、受け入れたことを世界に公表し支持を表明したという事実だった。
…これらのジェスチャーにもかかわらず、

多くの報道が無思慮で強引な方法で我々の食事に焦点を合わせた。
中には薄気味悪い写真を一面に飾り、恐ろしい見出しで報道した新聞もあった。
(Wikipediaより)


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彼らの決断を周囲も受け入れ、
彼らが信じている宗教にも許され、
法的にも無罪、もしくは訴えられもしていないのであれば
この物語は完結しているもので
やはりこの出来事について僕は何かを語る気が起きない。

ただ、
生存者の方々が割と映像化や書籍化に協力的な感じがするので
勝手な想像ですが、
なかったことにしたいとか忘れて欲しいと言う方向ではなく
むしろ何度でも語られて伝えていきたいと思っているのではないかと思うので

こうして新たに映画化され、
賞レースを賑わし、多くの観客に見られるのは何かの効力があるのでしょう。

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てことで、
映画としてどうかというと、確かに素晴らしく見応えがあった。


「…もう大丈夫です…」っていうくらいに色んなことが起きてその都度キツイので。。

ラストは知ってるので安心して観れるってのはありますし。

過剰な演出がなかったのも良かったです。
尾根からの景色を見て大絶望するシーンがあんですが、劇伴ナシ、セリフもナシ。
山々を観ただけで観客はわかる。大絶望。
観客を信じてくれてるのも嬉しい。

無名の若手俳優たちが本気の演技アンサンブルも素晴らしかったです。

ドキュメンタリー映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』

2024-03-19 | 映画感想

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実(2020年製作の映画)
監督 豊島圭介
ナレーション 東出昌大
出演者 三島由紀夫 芥正彦 木村修 橋爪大三郎 篠原裕 宮澤章友 原昭弘 椎根和 清水寛 小川邦雄


「もう一度、国の運命と自分の運命がリンクしているという、ある種の陶酔感、高揚感みたいなものをもう一回経験したいっていう欠落感みたいなものが、あの世代(1930年代生まれ)にはある」
by内田樹

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全共闘という言葉はよく聞くし
なんとなくのイメージもあるけどよく知らない。
僕は78年生まれ。

全共闘って小学生の時に『ぼくらの七日間戦争』(小説版)を読んで、ちょっとノスタルジックに語られてるので初めて触れた程度。

あとは浅間山荘とかにつながって
映画などで見知って、あ〜怖い…という印象。

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『独立少年合唱団』に全共闘のことが出てきましてイマイチ掴めなかったので
全共闘について知れる映画はないかと検索したら
これが出てきましたので観ました。

『三島由紀夫vs東大全共闘〜50年目の真実〜』。

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討論自体の熱情もすごいんですけど
文字量!
語彙力!

そして言葉がひとつひとつイキイキとして語られていることに驚きました。

で、ちゃんと討論をしてる。
相手の話を聞いている。
そしてちゃんと答えている!

↑こんな当たり前のことを、、、
いまの日本でどこで行われてるんだろう。。

今は
SNSでの短い言葉での叩き合いとか
冷笑とか
論破とか、
到底人と人が有機的に繋がる気のないことばかり横行してる。。

真逆!!

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この映画に出てくる人たちが言ってることに共感はできないけど
話を聞けばどういう思考回路なのかはわかってくる。

全否定したい極端な思想もあるけど
そこに至るまでの、ある種の人間的な気持ちをつかめると、
単なる敵、もしくはヤバいヤツだと思っていた人が対話できる相手に感じられるかもしれない。

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てか、三島由紀夫が◯◯したのは45歳だって!
僕いま45歳。

映画『独立少年合唱団』不発性を受け入れる 

2024-03-19 | 映画感想

独立少年合唱団(2000年製作の映画)製作国:日本
監督 緒方明
脚本 青木研次
出演者 伊藤淳史 藤間宇宙 香川照之(市川中車) 滝沢涼子 國村隼 泉谷しげる 岡本喜八 光石研



「自分の手であの戦争を裁かなかったんだ
そんな国で何にも起こるわけないんだよ
何にも起こらないで
ゆっくり発狂していくんだ」

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VHSしかなくてずっっと観れずにいた『独立少年合唱団』。

『いつか読書する日』の緒方明監督作!!
長年待ちすぎて期待が高すぎた???

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外国映画と思って観たらとても興味深いし雰囲気もあります。
下手したらクーリンチェ感もあるかも。

ただ女性(女学生)の扱いがドン引きだし
全共闘についてもよく知らないので、、
話についていけない。。

特にやはり女性の描き方が男の欲望の鏡でしかなくて、、
観ててきつかった。。

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で、全共闘について知らないのはある程度僕が悪い。

僕は78年生まれだし
リアルで知らなくて当然だし
全共闘については「なんかあったよねそういうの感」でずっっとその名称を聞いていただけ。

あとはもう連合赤軍の話になって
それは映画で見知ってはいたけど
やっぱ怖い話という印象。

ということで
『三島由紀夫vs東大全共闘〜50年目の真実〜』を観ました。

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『独立少年合唱団』における全共闘は〝不発感〟の象徴なんでしょうね。
あの時の俺ら結局何もならなかったなぁ的な。

でも、たとえ何にもならなかったという結果が一時的に出たとしてもそれもひとつの過程だよな、感。

全共闘を(ざっっくりとですが)知ることで、『独立少年合唱団』のことも少しわかりました。

『ALERT失踪者緊急警報』相関図 本格クライム・ミステリー

2024-03-18 | 映画イラスト
【Dlifeにて日本初放送】3/25 22時〜 本格クライム・ミステリー『#ALERT失踪者緊急警報』はただの犯罪ドラマじゃない?… 
FILMAGA(フィルマガ) 


こちらの記事の相関図 イラスト を描かせていただきました!
 てか、キースじゃなくね?



映画『デューン 砂の惑星PART2』 ナウシカの王蟲に対する敬意みたいなもの

2024-03-16 | 映画感想

デューン 砂の惑星PART2(2024年製作の映画)Dune: Part Two
監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
脚本 ジョン・スペイツ ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演者 ティモシー・シャラメ ゼンデイヤ レベッカ・ファーガソン ジョシュ・ブローリン オースティン・バトラー フローレンス・ピュー


僕は砂虫推しなんですよね。
とにかく砂虫に出てきて欲しかった。

正直、プラスチックで作られたゴンゴンゴンって打ち付ける機械で砂虫を呼び寄せる行為も
砂虫に対して失礼な気がしたし

そりゃ砂虫ボードに俺も乗りたいけど
あんな大きな砂虫(東京駅くらいあるでしょ)をそれこそ砂粒くらいの人間が思い通りに操縦できるってことにも
天動説を信じてた人間の驕りも感じた。

絶望的にデカい、絶望的に強い存在としての砂虫であって欲しかったのに、
ドラえもんの道具か
もしくは電動キックボードくらいの存在になっていて、、あ〜ぁって感じ。。

3割くらいの確率で
乗り終えたあと砂虫に喰われちゃう危険性があるならまだしも、、
どこでも乗り捨て可能な電動キックボードだったよね。。

超便利乗り物。。

ナウシカで言うところの王蟲に対する敬意みたいなものが感じられないんよね。。

当然虫より人間の方が上みたいな思想が、、全然好きじゃない。

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アクションも前作よりは良いし
映像も
衣装デザインも
美術も
音楽も素晴らしいですよ。
素晴らしいんですよ。

ただ、話がどうでもよかった。。

しきたりとかルールとか予言とかが羅列されてって
その通りになったり
話の流れ上、その通りにならなかったり。。

ガザとかウクライナとか
オッペンハイマーによって再び俎上に上がっている核兵器などの
めっっちゃくちゃリアルな痛み、苦しみが思い起こされる今。この今!

この映像を「やっほーいっ!フォーっ!」って楽しめちゃう俺の状況って、、、って自省しちゃうよね。。

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原作は1965年発表のものだもんね。

デザイン(美術、衣装、音楽)は頑張ってるけど
やっぱ物語やメッセージは今の時代には追いつけてないんじゃない?

それとも3でなんとかする予定??

映画『伯爵』アカデミー賞撮影賞ノミネート作 エレガントでロマンチック 

2024-03-06 | 映画感想

伯爵(2023年製作の映画)El Conde製作国:チリ
監督 パブロ・ラライン
脚本 ギエルモ・カルデロン パブロ・ラライン
出演者 ハイメ・バデル グロリア・ムンチマイヤー アルフレード・カストロ


アカデミー賞撮影賞ノミネート作だけあって映像が素晴らしい。
ずっとエレガントでロマンチック。

吸血鬼の飛翔シーンもCGじゃなくてワイヤーなのとこもいいですね。
人間臭さもあるしおかしみもあるし、やっぱりロマンチック。

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監督はチリの映画監督のパブロ・ラライン。
この映画の主人公は、チリの 独裁者アウグスト。
彼が実は250歳の吸血鬼だったってことにした風刺映画。

ヴェネチアの脚本賞も取ってますね。
そりゃそうだ、面白いもん。

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始まってしばらくずっと楽しいんですが
中盤で停止。

明らかに勢いがダウン。
画面もフィックスだしバストアップ多め。
物語も明らかに失速。

でもこれはわざとなんだろうなと信頼しながら耐えました。
それくらい冒頭が素晴らしかったから。

そしたら、あの飛翔よ!!
この飛翔のための、溜めだったのか!と。
あぁもう好き。

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ラストネタバレは以下に。


サッチャーも出てきて、実はチリの独裁者アウグストのお母さんでした。 そして彼女も吸血鬼でした。
というラスト。

きっと特大の風刺なんだと思いますが、、、歴史を知らなすぎて。。

ごめんなさい。。




映画『哀れなるものたち』 これを2000円で観れるのは安い。。

2024-03-06 | ネタバレあり

哀れなるものたち(2023年製作の映画)Poor Things
監督 ヨルゴス・ランティモス
脚本 トニー・マクナマラ
原作 アラスター・グレイ
プロデューサー エド・ギニー ヨルゴス・ランティモス アンドリュー・ロウ エマ・ストーン
出演者 エマ・ストーン マーク・ラファロ ウィレム・デフォー



これを2000円で観れるのは安い。。


6000円ですって言われても「…わかりましたよ!」って払いますよ。
それくらいものを観ました。

演技から映像から音楽から美術から、僕が気づかないような何から何まで、目から耳から極上体験でした。

サウンドもほんと良かったんだよな。
美術もホント素晴らしかった。
眼福とはまさにこのこと!

『カリガリ博士』感ありましたね、美術が。

**

ただ、ランティモスファンとしてはちょい物足りない。。

前作同様ランティモス監督の中ではかなりわかりやすい。
何をやってるのか何が言いたいのかが常にわかりやすい。

2023年はマーゴット・ロビーが『バービー』を作り、


エマ・ストーンは『哀れなるものたち』を演じた、
っていうくらいにフェミニズム的にも語れる。

が、
主役の女性ベラが一番強く泣き叫ぶのは「格差社会を知った時」です。
語りたいのはフェミニズムだけではなさそう。

**


ラストネタバレは以下に。


夫がヤギにされてしまったことについては、、
そこまでしなくても……
男だって戦争に行かされたりして辛いんだから……
とちょっと思ってしまった自分の男脳に気づいたことも含めて面白かった。

『夜明けのすべて』 『ラースと、その彼女』感あり

2024-03-06 | ネタバレあり

夜明けのすべて(2024年製作の映画)上映日:2024年02月09日
監督 三宅唱
脚本 和田清人 三宅唱
原作 瀬尾まいこ
出演者 松村北斗 上白石萌音 渋川清彦




珍しい人たちを映画に引っ張り出して

珍しい人たちを映画に引っ張り出して
マジョリティに苦しめらる様子をさんざん描いといて
ラストで死ぬ、

で何故か観客は「感動したー」と感想を書く、

みたいな映画がずっと作られてきたし
日本では数年前まであったけれども、、
いやはやようやくここまで来たもんだ。

原作小説があってのことだけど
監督によって原作がよくても映画でズタボロにしちゃうパターンもあるもんね。

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原作は未読だけど
おそらく原作がこのトーンなんでしょうね。

このトーンを映画にするのって本当に難しいと思う。
単なるほっこりあたたか雰囲気癒しムービーになりかねないもんね。

映像がとにかくずっと素晴らしい。
フィルムかなぁ。
音楽も素晴らしい。

俳優も全員すごいけど、特筆すべきは松村北斗!

何なのこの人。
なんでこんなことが軽々とできちゃうの。。

これこそ雰囲気だけでやっちゃって大失敗しそうなのに。
(なのにファンだけは「美しい涙だったぁ」とか言いそう)

マジでとてつもないレベルの演技をなさったと思うんですけど。。
何なの天才なの?

**

『ラースと、その彼女』感がありますね。


〝ヘンな人〟を周りが優しく受け止める感じ。
基本的には嫌な人が出てこない感じ。

それで言うと僕の好みなのかこれは、
今作はちょっと周りが善人過ぎな感じがありました。

露骨に嫌な人が出てこなくてもいいけど
もうちょい社会構造的な生きづらさみたいなものも描いても良かったかな、と。



ちょいネタバレは以下に

栗田科学の社員さんたちがみんな温かいんだけど、、 申し訳ないんですが、、
足立智充さんにどうしても狂気を感じてしまいまして。。。
だいたい僕が観てきた足立さんは後半で狂ってくるんで。。
そう言う意味もあって全体的にこの映画は温かく優しいだけすぎたかなぁ、、と。。


↓狂気の足立さん。