映画感想(ネタバレもあったり)

映画コラム/映画イラスト

ドキュメンタリー映画『春画と日本人』日本人は春画を知らない

2023-09-25 | 映画感想

春画と日本人(2018年製作の映画)

上映日:2019年09月28日製作国:日本上映時間:87分
あらすじ21万人が押し寄せ、美術界の大事件となった永青文庫「春画展」(2015年9月開幕)。国内外の貴重作約120点が一堂に会するはじめての試みだったが、開催までの道のりは平坦ではなかった。国内の公私立博物館20館あまりに開催の打診が断られ、摩訶不思議な逆風が吹く。海外で絶大に評価されている春画が、なぜ日本ではすんなりと展示できないのか。本物の展示にかける人々が直面した知られざる苦労から、「春画」を世間…
監督 大墻敦



面白い!
予告編以上の面白さがあります。
(予告編 https://www.youtube.com/watch?v=ZFrYbDeP


とくに二幕目の春画そのものの歴史と
明治維新以降の春画規制の歴史。

西洋に強く憧れ始めた時代。
西洋に追いつこうとして、西洋ではあり得なかった春画を日本が自主規制してしまった。

でも実は西洋では春画は芸術として好まれていた。
(浮世絵のひとつのカテゴリーとして)

****

一方、西洋から入ってきた裸体画については
「西洋=正しい」ってことでOK。

黒田清輝をはじめとして日本画家が裸体画を描き、画壇で正当に評価されます。

春画に至っては猥褻物扱い。

****

春画にどれほどの文化的価値があり、
日本人の歴史が詰まっており
西洋から〝尊敬される〟日本であるかは
どうぞ映画を見てください。

僕も映画観るまでは
春画がこれほどまでに真正面から芸術的文化的価値のあるものとは知りませんでした。

そりゃそうさ、禁忌だったんだもん。
普通に生きてりゃ目に入らないし、
研究結果を目にすることもない。

臭いものに蓋しない国民だったんだよね、日本人って。
よく理解もせず西洋文化に浸かっちゃったから
「判断できない問題」は触れないようにしてきた。

それを美徳として是非さえ問えなくなってしまった。

****

日本国家が注力して春画を燃やしてきたけど
西洋が保存してくれていたから今、春画が生きている。

ただ、買い戻すのにはコストがかかる。

日本が芸術の意味を理解していれば、こんなことにはならなかった。
すでに歴史が教えてくれている、

歴史のお勉強をすればコストがかからない。

****

春画に描かれたオノマトペを淡々と朗読する冒頭からして完全に笑わしにかかってますし
映画全体から春画が持つエネルギーの強さを感じました。





ネタバレは以下に



映画としてみた場合、さすがに録音の杜撰さは受け入れがたい。 
ただ、ドキュメンタリーとしてはこういう側面は許容しなければいけないのかもしれない。

監督の大墻敦さんは映画監督ではない。
桜美林大学の教授とのこと。

 大学の教授が「撮っとかなきゃ!」とカメラを回し始めた勢いがドキュメンタリーには必要なのかと。
だから、許容というか、諦めも必要なんでしょうね。

ただ、、、、、、、せめて春画自体をもっと美しく撮って欲しかった。。。
 ラスト、春画展が終わって、日本にはどこにも行き場のない春画たちを畳むシーンは美しかったですね。

あれを全編やってほしかった。。
まだまだこれからですね、日本での春画の戦いは。

大ヒット間違いナシ! 映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』

2023-09-24 | 映画感想

ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル(2011年製作の映画)Mission: Impossible - Ghost Protocol上映日:2011年12月16日製作国:アメリカ上映時間:132分
監督 ブラッド・バード
脚本 ジョシュ・アッペルバウム アンドレ・ネメック
出演者 トム・クルーズ ジェレミー・レナー サイモン・ペッグ ポーラ・パットン


面白かったぁ(今さら)
息つく暇なく面白いですね!(今さら)
アクションがほんとすごい!(今さら)
しかもコメディもふんだんに入っててリズミカル!(今さら)
これは人気出るよ!大ヒット間違いナシだね!(今さら)

**

20年ぶりくらいにこのシリーズ観たわ。
全然新作観てこなかった、面白いんですね。

「その技術をもっと根本的なところに使えば???」
というスーパー科学技術をスパイグッズにしか使わない。

そのばかばかしさを、
アイデア満載のアクションと結構ちゃんと面白いコメディと世界的スターたちの魅力で包んでなおさら楽しい。

スーツ姿のジェレミー・レナーがマジかっこよくて。。

映画『インスペクション ここで生きる』強い真実性

2023-09-24 | 映画感想

インスペクション ここで生きる(2022年製作の映画)The Inspection上映日:2023年08月04日製作国:アメリカ上映時間:95分
監督 エレガンス・ブラットン
脚本 エレガンス・ブラットン
出演者 ジェレミー・ポープ ガブリエル・ユニオン ラウル・カスティーロ マッコール・ロンバーディ アーロン・ドミンゲス ボキーム・ウッドバイン


観たのに書くの忘れてたっ!

テーマが全然単純じゃないのがいいですね。
実話の強さだと思います。

作劇ならもっとシンプルな設定でシンプルなゴールに辿り着いたことでしょう。

**

一番飲み込みづらいのは〝海兵隊〟ですね。。

海兵隊に入って人生のキャリア立て直しました!
仲間もできました!
って言われても、、戦争をする集団なわけで、、、
そこで「自分を確立しました!仲間ができました!」って言われても
どうしてもスカッと爽快な気分にはなれない。。

ある立ち場にいれば気持ち良くさせてくれるような映画ではない。
そういう映画ではない。

**

この映画は監督の半生を映画化したもの。

ゲイであるということで
キリスト教の保守派の母から捨てられ、16歳からホームレスとして生きて、
貧困から抜け出すために選択肢が少ない中で
海兵隊に入隊して、
広報部でカメラを学び、大学に入ったり大学院に編入して就職して、今は映画監督になっている、
という信じられないような力強いサクセスストーリー。

強い真実性が、いろんなテーマが複雑に絡んでそのまま描かれるこの映画の芯になって観客の胸に刺さって取れない。

***

優しくしてくれた上官を好きになっちゃう♪
(好きになっちゃうっていうかイケると思っちゃう)
っていうシーンの浅はかさも良かったですね。

この手の映画ではななかなか描かれないディティールかと思います。
「そういうコトじゃねえし、そういうトコだよ!」っていう。。

**

〝個〟の話なんですよね。
別にこうやって生きましょうとか、これが正解、とか言いたいわけじゃないと思う。
自分の半生を描くことで周囲にある100近くの事象を描いている。

セクシュアルマイノリティであることを自分自身で受け入れるために海兵隊に入らなくていいし
他人に受け入れてもらうためにそのコミュニティの一員にならなくていいはず。
↑別にこれが正しいやり方だと言っている映画ではない。
これだけのことをしなきゃいけないくらいの困難なことだとは言えますね。

映画『モガディシュ 脱出までの14日間』やっぱさすがだな、韓国映画

2023-09-17 | 映画感想

モガディシュ 脱出までの14日間(2021年製作の映画)모가디슈/Escape from Mogadishu
上映日:2022年07月01日
製作国:韓国
監督リュ・スンワン
脚本リュ・スンワン
出演者キム・ユンソク  ホ・ジュノ  チョ・インソン


おもしろっ。
こんなに面白いと思わなかった。
やっぱさすがだな、韓国映画。。

終盤の、
銃撃の中のカーチェイスのカメラワークはもう何度も巻き戻して観た。面白かったぁ。ご
本人たちは決死のカーチェイスなんだけど。。しかも実話だし。。

**

てっきり大使館に閉じ込められてそこから何とか脱出する話かと思いきや
国が反乱軍にクーデターされているから国そのものから逃げなきゃいけないわけね。
スケールがでかい。。

少年兵が遊び半分みたいに撃ってきたり、火炎瓶投げてくるし、
反乱軍なのか政府軍なのかわかりづらいし。。

**

そもそも韓国大使館と北朝鮮大使館が協力し合って脱出しなきゃいけないので大変。

それぞれが国交関係にある国も違うので、
「イタリア大使館に頼めば」
「北(北朝鮮)はイタリアと国交がありません。。」
「エジプト大使館なら」
「南(韓国)は苦労するだろうな」
「もし片方だけ脱出できるとなったら?」
「……全滅は防げます」

ってのがスリリングで面白い。
実話なので面白いって言いにくいんですが。。

台湾映画『エドワード・ヤンの恋愛時代 4K レストア版』この映画を好きな人が多いのもわかる。が、、

2023-09-17 | 映画感想

エドワード・ヤンの恋愛時代 4K レストア版(1994年製作の映画)獨立時代/A Confucian Confusion Restored Version上映日:
製作国:台湾
上映時間:129分
監督エドワード・ヤン
脚本エドワード・ヤン
出演者チェン・シャンチー ニー・シューチュン ワン・ウェイミン



メインキャストは7人くらいかな。
無理無理無理。
誰と誰が付き合ってて誰を狙ってて誰が別れそうなのか、、
追いつくので必死ですよ。。

あいつらめっちゃ喋るし。。
しかも画面はほぼフィックスで、おそらく全シーンが長回し。

情報量が多いのに画面に動きがないから、眠くて眠くて。。
目玉取り出してキンキンに冷やしたウィルキンソンで洗いたかったですよ。

**

邦題は『恋愛時代』。

原題は『独立時代』。
1980年代、民主化によって台湾独立運動が加速。
この映画の公開は1994年。

さらに英語タイトルは『A Confucian Confusion』。
「儒教の混乱」。
昔ながらの儒教的感覚と急激な経済発展とに齟齬が生まれてきたよぉってことかな。

**

表面的に観るとトレンディドラマです。
3日間の出来事だけど、全員あまり寝ないので話がどんどん進んでいく。

で、偶然出会う。
全員スタンド使いなのではって言うくらいに引き合う。
逆にすれ違いとか「連絡が取れない!」とかはほぼなかったかと。

すぐ会う、すぐめちゃ喋る、すぐ寝る(セクシーな意味で)。
とてもドラマ的な世界。

リアリティよりも自由を謳歌する若者のエネルギーを表現してるんでしょうね。

**

原題の『独立時代』の方が意味は伝わる。

女性たちも男や恋愛に縛られていない。
自分で選択肢自分で苦しむ。
その苦しみや悩みは自分が独立した人間だからこそ。

**

この映画を好きな人が多いのもわかる。
が、、眠かった。。。

シャークネード ラストチェーンソー4DXを楽しみ切るためのコツのようなもの

2023-09-11 | 映画イラスト
星5個つけたんですけど、「落ち着け、おれ」と思って4.5にしときました。
(5でもいいじゃねぇかと思うんですけどそれをやったら人類としてどうなのかと心配にもなって…)

***

シャークネードシリーズの6作目。完結編。
1〜5は観ていません。(だってDVDになってないんだもん…)

なので突然6作目を観て、突然完結したのですが、無問題!
僕はこの『シャークネード ラスト・チェーンソー 4DX』を楽しみ切ることに成功しました!

冒頭で知らない人たち(映画の主人公たち)が〝シャークネード1号〟を倒すために恐竜時代にタイムスリップして、プテラノドンに乗りながらシャークネード と戦い始めるのです。

ここで僕は思いました「脳ミソいらない」。
脊髄だけでいい。
観るんじゃない浴びろ、と。

俳優さんたちはいたって真剣でこのシャークネードワールドを愛して嬉々として真面目にこのワールドの住人になっています。
なので、少なくとも「みんなやる気ないけど作ることになったから作った映画」などではなく、ものすごい熱量で作られた映画だというのはビショビショ伝わるのです。

****

主人公の元妻がサメに喰われながら目からレーザービームを出すのには驚きました。
僕知らなかったので。元妻が目からレーザービーム出せるって。
(予告編にはありますね)

****

中学生の頃に自分でレンタルビデオの会員になって『三銃士』を借りたとことから自分の映画歴が始まっているのですが
『シャークネード』を観てから自分の〝映画観〟というのが変わったように思います。

何がどう変わったのかを真剣に考えるつもりもないんですが、、何かが確かに良い方に変化しました。
きっと何年後かに「俺が変わったのはシャークネードを観た2018年10月だったなぁ」って思うんでしょうね(たぶん思わない)。

映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』原作も女性!監督も脚本家もプロデューサーも女性! 

2023-09-05 | ネタバレあり


SHE SAID/シー・セッド その名を暴け(2022年製作の映画)She Said上映日:2023年01月13日製作国:アメリカ
監督 マリア・シュラーダー
脚本 レベッカ・レンキェヴィチ
原作 ジョディ・カンター ミーガン・トゥーイー
出演者 キャリー・マリガン ゾーイ・カザン パトリシア・クラークソン



たまたま『ウーマン・トーキング 私たちの選択』を観た後だったのでとてもシンクロしていました。
ていうかどっちも現代の話なんだけど…。
むしろ1992年から始まる『シー・セッド』の方が古い。。
どうしても『ウーマン・トーキング』が1800年代くらいにしか見えなくて。。

**

MeToo自体はアメリカの市民活動家タラナ・バークさんの活動をきっかけに2007年から地道に「MeToo」が提唱されてきた、とのこと。
世界的ムーブメント#MeTooが起こったのは2017年。
ニューヨーク・タイムズの記者ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーが映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ告発記事を発表したことがきっかけ。

**

映画界がきっかけだったし世界的なニュースでもあったので、もちろん情報はたくさん入ってきてました。
ただ、特に日本では#MeTooを潰そうとする言説も目立っていたし
冷笑系も多かった。

**

ワインスタインの事件の流れが時系列で描かれていたので、とてもわかりやすかった。
ラストでは、問題意識を再認識しつつも
ある種のカタルシスも感じられるので
社会派エンタメ作としても楽しめました。

**

記者が2人とも女性だったのが「彼女たちが話し始めた」という結果に早く結びつけた大きな要因の一つだと思う。
そもそも男はこの問題に取り組めたかどうか疑問だし
同じ女性だからこそ取材する側もされる側も信頼できる部分もあったのでは。
てことは、ニューヨークタイムズで記者としてバリバリ働く女性がいたってことがとても大事なことなんですね。
『ウーマントーキング』での女性には学校に通わせないってのはかなり極端に思えるけど
実際そういう国もまだあるだろうし
受験で女子生徒の点数を低くしていたのは日本だし、
女性の社会進出を邪魔する動きや思想はいまだにある。
だからこそ、女性が働く現場にたくさんいるってことが、女性の声が無視されない社会の形成には大事なんだと思いました。

**

特に
この映画は原作も女性(記者の2人)、
監督も脚本家もプロデューサーも女性。

『ウーマン・トーキング』も原作、監督、脚本家、プロデューサーが女性。

映画『ウーマン・トーキング 私たちの選択』 ネタバレあり 宗教に限らず「考えるな」「疑問を持つな」は一般社会の中でも隷従のための便利な言葉として使われているでしょう

2023-09-05 | ネタバレあり

ウーマン・トーキング 私たちの選択(2022年製作の映画)Women Talking
監督 サラ・ポーリー
脚本 サラ・ポーリー
原作 ミリアム・トウズ
出演者 ルーニー・マーラ クレア・フォイ ジェシー・バックリー ベン・ウィショー フランシス・マクドーマンド


戯曲的という批判(?)もあるけど、
こういう閉ざされたシチュエーションなんだし、
彼女たちが「話す」ことが一番のモーション(動作)なわけだし、
話すってことは、「考える」「考えを持つ」ってことで、
それは厳格なキリスト教徒である彼女らにとっては禁忌に近いことだったわけで。
***
「2005年から2009年にボリビアで起きた実際の事件を元に描かれている」っていう説明を何度読んでも、どうしても映像を見ると少なくとも1800年代くらいに見えちゃう。。
映像というよりは、
女性たちが学校に通わせてもらえないとか、
地球儀も見せてもらえないとか、
文字の読み書きができないとか、
性の話ができないとか、
男に隷従しているなどの描写が到底2000年代の話に思えない。。
キリスト教の一派「メノナイト」のボリビアのコミューンでの事件なので相当特殊ではあるけど、
上記の女性差別に関しては、一般社会でもまるっきりありえない昔の差別の話って感じもしないのも事実ですよね。
この映画の製作者であるフランシス・マクドーマンドもそのように考えたことでしょう。
(メノナイトでも都市部で一般的なレベルでの質素な暮らしをしている人も多いとのこと)
***

「なんでそんなこと言うの?
まるで私に選択肢があったかのように!」

「全能の神だというなら何で子供と女性を助けないの?
自分の子供や他の子供達を守るために邪悪な者を殺すことが罪だというなら私はこの命をかけてでも神に抗議する。」

**
6/2(金)公開『ウーマン・トーキング 私たちの選択』特別インタビュー映像【ルーニー・マーラ、クレア・フォイ、ジェシー・バックリー】第95回アカデミー賞®脚色賞受賞!!赦すか、闘うか、それとも去るか―― 2010年、自給自足で生活するキリスト教一派の村でwww.youtube.com



以下、衝撃が過ぎるので読まな方がいい場合もあるかと思います


















2010年。自給自足で生活するあるキリスト教一派の村で、
少女に家畜用の睡眠薬で眠っているところをレイプすることが日常になっていた。妊娠することもあった。
知識のない少女たちは自分が何をされたのかもわからないし、
男たちには「嘘」もしくは「悪魔の仕業」だとされた。
しかも薄々勘づいていた大人の女性たちは自分たちも被害を受けつつ全体のために黙ってきたことから、少女たちを黙らせてきた。

しかしある時、
眠らされていたある少女が目覚めてレイプ犯を見て、今までの犯行(レイプ犯は何人もいる)を隠せなくなり、
男たちは村から一時的に追放される。

男たちと闘うか
女たちが去るか
赦すか。
彼女たちはそれをひたすら話し合う。
でも十分な時間はない。

「女性は考えることを許される。
女の子は学校で読み書きを習う。
学校には世界地図を掲示して自分がいるところがわかるようにする」

「自分を疑うよう仕向けられた。それが一番辛かった」

「全能の神だというなら何で子供と女性を助けないの?」

「私は地獄に堕ちてもいい。男が私の4歳の娘の体で欲望を果たそうとするならその前にその男を殺す。」


**

ネタバレは以下に。





ジェシー・バックリーの終盤のセリフ
「私たちには3つの権利がある。
子供の安全を守ること。
私たちが揺らぐことのない信仰を持つこと。
そして、自ら考えること。」
外界を知らず文字の読み書きもできない彼女らが、
人生をかけて守ってきた信仰を捨てることでしか
自分たちの自由や安全が守られないわけではない、ということに気づいていくんですね。
信仰があっても自分で考えていい、と。
「考えるな」「疑問を持つな」ってのは宗教の中ではよく出てくることですけど、
宗教に限らず「考えるな」「疑問を持つな」は一般社会の中でも隷従のための便利な言葉として使われているでしょう。
自分で考えていいし、信念を貫いていい、と。
それが信仰や社会の仕組みを壊すことにはならない、と。


イラン映画『君は行く先を知らない』ラストネタバレあり 隠喩家族はどこへ行く 

2023-09-04 | 映画イラスト
君は行く先を知らない(2021年製作の映画)Jaddeh Khaki/Hit the Road
製作国:イラン 上映時間:93分
監督 パナー・パナヒ
脚本 パナー・パナヒ
出演者 モハマド・ハッサン・マージュニ パンテア・パナヒハ ヤラン・サルラク アミン・シミアル



◼️映画『人生タクシー』のイランの名匠ジャファル・パナヒ監督の息子のパナー・パナヒのデビュー作。







検閲の厳しいイランにあって映画作りはとても難しく、
同じくイランの監督アスガー・ファルハディ監督はイランという国の特異性をうま〜く滲ませて傑作サスペンス映画をたくさん作っています。


父のジャファル・パナヒはイランの政治体制を批判する映画を作ったとして上映禁止からの逮捕、
そしてイラン国内では映画撮影が禁止され、
さらに2022年7月11日に再び逮捕。


てな感じで、
検閲との闘い自体を映画に包含させてきたとも言えそうなイラン映画。
1984年テヘラン生まれのパナー・パナヒ監督はちょっと違う。


***


隠喩的な表現や見えないところで描かれるイラン社会の特異性などは引き継がれているものの、
全体としてはとても軽やか。


中盤までは予告編の印象そのままにオフビートな笑いに満ちたロードムービーとしてただ楽しいだけで観れちゃうかもしれない。




◼️父、母、兄、弟、犬という隠喩家族


主人公はこの4人家族(プラス犬)。
まず彼らには役名がない。
Mom 、Dad、 Little Brother、Big Brotherでしかない。
特定の誰かではないということ。




父は、前世代の男性。
足を骨折してギブスをはめています。
母曰く「もう治ってるはず」とのこと。
社会の中で動きづらい男性。
でも偉そうにはできる。


母、女性。
女性はこの母だけということ自体メッセージがありそう。
泣いて笑って家族の面倒を見てこまごまと動き回り常に心配をしている。


兄は、現代の若者。
この兄は謎。
あまり喋らないし覇気もない。
ボ〜ッとしているし何も先のこと考えていないように見える。
けど「ここにいてはいけない」という本能なのか、現代的な価値観なのか、それに突き動かされている。


弟は、生命が原初的に持っている自由の象徴に思えました。
とにかく元気。エネルギーの塊。うるせーしウザいことも多い。
でもこれが人間がそもそも持っている自由さなんだと思いました。
しかし、すぐ上の世代の兄はボ〜ッとしてるし、父世代は動けない。この子もそうなってしまうのか。


犬は、病気で死にそうという設定なので、弱い立場の人間ということでしょうか。
老人を含めた社会的弱者。
そもそもこの車に乗せる予定ではなかったとか、終盤の展開などを思い返すと、社会的弱者に対してどういう社会構造なのかが描かれているように思います。




あと、父&母と弟が年齢差ありすぎ。
なんか理由があるのかと思ったら、ない。。
失礼ながら相っっっ当な高齢出産ってことになっちゃうと思うんだけど。。
なので、やっぱりこの家族は隠喩としての存在でしょうね。


****


コメディとしてずっと面白いですし、
ディテールもこだわっていて、霧のシーンがあるんですが霧もすごいいい演技をしてましたよ。
スタッフに霧を操る能力者がいたんでしょうか。
エンヤ婆がいたんですかね。


バイクのシーン。
シーンの佳境でほぼ霧で真っ白になってシーンも終わりでは霧がさ〜っと去っていく。
シーンも意味とも合いすぎていて、、誰かスタンド使いがいたか、映画の神様が微笑んだんでしょうね。扇風機でどうにかなる広大さではなかったし。。


***


あとは、毎度イラン映画を見ると思うんですが、俳優さんが演技素晴らしい。


詳しくは知らないんですが、国内でドラマとか演劇とか演技する場が豊かなんでしょうね。
ものすごく自然に、だけどちゃんと俳優としても重厚さもあって凄いんですよね。。


アスガー・ファルハディ監督作はもちろん、ジャファル・パナヒの『人生タクシー』でも全員うまいなぁと感動していました。




映画イラスト『君は行く先を知らない』→https://note.com/fukuihiroshi/n/n1e85ea995b87






ラストネタバレは以下に!



ネタバレっつってもこの映画全然ハッキリしたことは教えてくれてないのですが、、、
まぁ兄は亡命業者を使って近隣国に亡命したんでしょうね。

マスクの男と羊飼いの男が亡命業者。
かなりルールがしっかりしているようで同じような家族が8組くらいいましたね。

それぞれ車で見送りに来ていて、近くの野営地でキャンプしてました。

で、結局どこに行くか父と母には知らされずに兄はバイクに乗せられて去って行きました。
最後の挨拶もできぬまま。

「あの子が行ってしまった!」と母が嘆きました。
悲しみを振り払うように懐メロを3人で歌いながら、昔は湖だった砂漠を車で走ります。

途中、犬の容体が急激に悪化し、
(死んでないように見えたんですけど…)死んだ犬の死体を砂漠に埋めます。
犬が動いちゃっただけ?死んでないように見えたんですよね。。
だとしたら生き埋め?安楽死的な?

そもそもこの旅の前に、病気だから安楽死をさせる予定だったし。。

前述の通り、犬が社会的弱者の隠喩だとしたら、なかなかキツイ描写です。。
そして車は走り出す。

映画は終わり。