映画感想(ネタバレもあったり)

映画コラム/映画イラスト

映画『つばさ』 ネタバレあり100年前の壮絶な女性差別… 第一回アカデミー賞受賞の反戦

2020-10-30 | 映画感想

第1回アカデミー賞(1927年)で作品賞を獲った映画。

当時は芸術作品賞ってのもあってそれは『サンライズ』ってのが獲ってまして、確かに『つばさ』はアクションあり恋愛あり友情あり笑いと涙ありのエンタメ映画でございます。



目次

  1. 意外と面白かったです。
  2. 戦闘機アクションがすごい。
  3. 宝井琴星さんによる講談がついたバージョン
  4. それにしてもとどまるところを知らない女性差別。。
  5. どんだけ製作費かけたんだろう
  6. ノーマンズランドを挟んだ鉄条網地獄と塹壕地獄。
  7. ラストネタバレは以下に。

意外と面白かったです

冒頭
「戦争ってカッコイイ!」「国家って最高!」みたいな感じで始まるので観るのやめようかと思ったのですが、

終盤では戦争の残酷さが描かれるし
反戦のセリフが繰り返されるので
1927年のエンタメ戦争映画でもこんなに色濃く反戦のメッセージがあったんだなと感心しました。



戦闘機アクションがすごい。

地球上に飛行機というものが生まれてそんなに経っていない頃ですから
とにかく空飛んでるだけでも相当な興奮があったはず。

でもそれだけに頼らずにカメラアングルが多彩。

主観もあれば、
操縦士のアップもあれば、
何機もある戦闘機同士の戦いの様子とさらに高いところから撮影したり、
下から撮ってみたりと
ちょっとびっくりするくらいのアクションです。

第一次大戦の戦闘機ですから軽くて頼りない感じ。。
ちょっと紙飛行機くらいに見えるんです。。
それに乗って殺し合いをしてるわけですから余計怖い。。

で、
結構なアクションシーンをやってるんで、心配。。
何人か死んでんじゃねえかってなくらいに、、なんか雑なんですよ。。アクションシーンが。。

車とかも平気でクラッシュしてるんですが、明らかに人間が人形のように飛んでるんです。。骨折はしてると思いますよ。。


宝井琴星さんによる講談がついたバージョン


今回は宝井琴星さんによる講談がついたバージョンを観ました。

本編は無声映画ですから音声のセリフはナシで、
たまに字幕が入る程度。


宝井琴星さんがナレーターとして
めっちゃしゃべるので話はとてもわかりやすい。


セリフも喋るし、話の筋も喋るし、全然関係ないことも喋る。

***

「天晴!飛行士にも武士道精神があったのでありました!」

とか

「石原裕次郎並みの腕っぷしの強さ!」

とか

「お前の彼女、洗濯板だな!などと言っても若い人には伝わらないでしょう」

とか


何時代のどこの国の話なんだと分からなくなるんですが、、それはそれで面白い。

昔はサイレント映画上映には生演奏がついていたり、
複数の俳優がセリフを生で話したり
一人の弁士がナレーションからセリフから全て喋ったり、と
かなり自由度高く映画を楽しんでいたわけですので、
まぁこのバージョンも、当時のリアリティとして楽しめました。



それにしてもとどまるところを知らない女性差別。。


「現代女性ならパンチの一つでも飛んできそうですが
昔の女性は奥ゆかしい!
怒りの心をグッと抑えてひたすら耐え忍ぶのであります!」

「口では拒んでも体は許してしまう悲しい女心!」

「お前も制服を脱いだら女だな〜〜〜」


もう、、すげえなと思いますよ。。

この時代だからしょうがないよね、と思っちゃいますが。

ってことは現代の映画を未来人が観た時も
「この時代って差別すげえな」って思うってことですよね。
「まぁ、古い価値観の人たちだからなぁ」って。。

そんな風に思われんの嫌だ〜。。
現代にも差別主義者たちがいるせいで未来人に現代の映画をバカにされんのか〜〜。。



どんだけ製作費かけたんだろう

140分ありますけど意外と飽きない。

宝井琴星さんの功績がだいぶ大きいと思いますが
やっぱアクションがリアリティがあって面白いんですよ。

町が爆撃されるシーンがあるんですが、
爆撃機目線のアングルがなんか客観的で怖いですし、
当時の爆弾なので、多分火力がそんなにないんですよ。
爆破が「映画的」ではなくて、それがリアルで怖い。。

でも民家は容赦無く破壊されていって、、
どんだけ製作費かけたんだろうって感じ。。

町ひとつなくなってますからね。。


***

ドイツ軍の偵察気球も面白い。

偵察気球なんて標的でしかないはずなんですけど、フワ〜っと飛んでくるんです。
で、もちろん撃たれる。

燃える気球から脱出してパラシュートで地上へ落ちるドイツ軍人。
それがすごい速度で、、すごい衝撃、、骨折だか気絶だかしてますよ。。
大丈夫でしょうか、あの人。。




ノーマンズランドを挟んだ鉄条網地獄と塹壕地獄。

中盤までは空中戦が多くて、それも面白いんですが
後半は塹壕戦になります。


規模がすごい。。
面積もすごいし、人数がすごい。。エキストラ何百人といますよ。。

ホントに豆粒にしか見えない人たちも遠くの方でせっせと戦っているし、足元には死体の山。。

『1917 命をかけた伝令』と規模感はそれほど変わんないですよ。

アクションシーンとかが雑なので、、
ほんとに死んでる人いるんじゃねえかという心配もあって、かなりの迫力。。

このエキストラの人たちのモチベーションって何なんでしょうか。。
たまに現代映画のブルーレイなんか見ると奥の方で「早くおわんねえかな」みたいな顔してるエキストラの人いますけど、
この人たちは命かけて撮影してますよ。。


塹壕目線。歩兵の足しか見えない視界。そこで機銃掃射。音もなく(サイレント映画だからね)倒れる数十人の兵士たち。


ナレーション「連合軍はただひたすら前進を続けます。」


そう、前進し続ける。
なぜなら後退したら味方に撃たれるからね。
「下がったら撃つ。ただ前進しろ」って言われてますから。
進んでも死ぬし後退しても死ぬ。


2020年1月公開の映画『彼らは生きていた』観ましたか?観てくださいね。



ラストネタバレは以下に。




捕虜として捕まっていたデヴィットは隙を見て脱走。
敵機(ドイツ軍機)に乗って基地に戻ろうとしている。

そこに戦いに勝利したジャック。

ドイツ軍の飛行機とみるや否や射撃。

デヴィット「ジャック!俺だ〜」

その声も聞こえぬまま、勝利で興奮してるジャックは攻撃を続け、デヴィットの機は墜落。

教会?
十字架の置いてある家に墜落。

現代の映画だったら家ごと爆破されそうだけど
結構「クシャっ」ってな感じで家にぶつかる。
そのままその家に住めそうな程度の破壊しか起きない。
飛行機が軽いんでしょうね。

で、デヴィットは死にそう。もう助からないなって感じ。

そこにジャックが降りてくる。

墜落した敵機の前で写真撮影。わ〜いってな感じ。

で、操縦していたドイツ兵の顔でも見てやろうと近づくと、それはデヴィット。

「デヴィット生きてたのか!!でもそれを俺が撃ったのか!!」と複雑な表情のジャック。

デヴィットはそんなジャックを見てニッコリ。

「敵から飛行機を奪って逃げてきたんだ」とデヴィット。

ジャック「かすり傷さ!すぐ医者を呼ぶ!」

他の兵「こればかりは仕方のないことです。これが戦争なんです。」

デヴィット「ジャック、しばらくはそばにいてくれ」

ジャック「俺はお前の敵討ちのために。。」

デヴィット「お前は何も悪くない。お前が撃墜したのはドイツの戦闘機だ」

ジャック「お前との友情ほど大切なものはない」

キスすんのか(してる)って感じに抱き合い、互いの顔を愛撫しながら会話。


デヴィット、死亡。

ジャックはデヴィットを抱えて、ドイツの国旗を踏んで、台車に載せてデヴィットを移送。

戦争の喧騒は終わった。
臭い煙ももうない。平和が戻った。

デヴィットの恋人シルヴィアの手紙を読むジャック。
「ジャックは私がジャックを愛していると勘違いしているわ」

ジャック、シルヴィアの気持ちを初めて知って落ち込む。

英雄凱旋帰国!
盛大なパレードで迎えられる。

ジャックが帰ってくることを知っているだろうにパレードに参加しないメアリー。泣いている。

帰宅。
母、父、犬がジャックを温かく迎える。
気丈な母、涙を流す。

母「あなたを憎もうとした。でも悪いのは戦争よ。」

ジャックとメアリーの会話

ジャック「メアリー、ある夜パリで一人の娘と会った。俺は酔っ払っててあれが誰だったのか思い出したくもない。それと。。。」

メアリ「私も戦争を経験したわ。でも誰も責められない。大事なのはこれからの人生でしょ」

二人の前に流れ星が流れる。

ジャック「流星を見たときにするべきことはなんだ」

メアリー「愛する娘にキスをするのよ」

キスする二人。

おわり。



映画『生きちゃった』ネタバレあり 大島優子の命をかけた咆哮(叫び) 

2020-10-20 | 映画感想



今年ベスト10に入りますよ。面白かった。。
大島優子はこの演技で今年の助演女優賞を総ナメにしますよ。絶対にそうなる。そうせざるを得ない。

大島優子のあの咆哮。。。。
生命の叫び。。
もはや生命の危機ですもんね、現状。。






***


主人公が抗う事なく起きたことを全て受け入れていくことで、どんどん地獄になっていく。。

ある調理用具が見えた時の絶望感と言ったら。。
「マジかよ…」と天を仰ぎましたよ。。

でも、面白いんです。。笑っちゃうくらいの地獄だし、実際完全に笑わそうとしてますしね。
「ラブホテル行きたいっ!」とか「大麻やめろー!」とか。。

監督曰く「笑っていいのかどうか定かではない笑い」が散りばめられている、とのこと。

なのでけして、暗くどんよりだけ映画でもないし、ワーワーと喚いているだけの映画でもない。
ブラックコメディと言ってもいいのでは。


****


仲野太賀は、
必要以上にパワフルだったり破綻している人ではなく、
本人はいたって真面目で正しくいようとしてるんだけど、
抑えきれない内面が溢れてきちゃう、みたいな人物がハマりますね。

今回もそんな感じ。
全然ブチギレしていいことが起きても、自分の身の回りを破綻させないように「穏やかに」「建設的に」対応する人。

この役の人物も「日本人だからかなぁ」と言ってますね。
そう、この役は「現代の日本人」。


***


若葉竜也の役は謎の人物ですね。
太賀のイマジナリーフレンドなんじゃないかってくらいに、あんまり実在感のない。不思議なキャラクター。

ラストあたりで「あ、この人はこの人で自分を押し殺して生きてきたわけか…」とわかって、
この不思議な存在感にも理由があったのかなと納得しました。


***


ていうか大島優子なんですよ。この映画は。

〝美味しい役〟ではあるし映画を動かすキャラクターなので、ある程度力のある俳優さんがやれば十分形になる役柄ですよね。

でもでもでも、すごいのさ、大島優子の演技が。。
「うお、大島優子がこんなことするんだ…」ってびっくりしてる自分のいやらしさを粉砕するような演技。。

女優さんの「演技派へ脱皮!」みたいな演技は往々にして「ハイハイわかりましたよ…」って思っちゃうこともあるんです。
「あんたの事情はこの映画と関係ないでしょ…」と言いたくなる。

でもでもでも、大島優子にもなってくると軽やかなんですよ。サラッとしてる。インタビューを読むと相当気合を入れて挑んだ役だそうですが、そういううるささを感じない。

それでいてあの咆哮!雄叫び!雌叫び!

ああいうシーンで「叫ぶ」ってのもよくあるんですけど、あんまり成功例を知らない。
感動ミステリーとかで探偵役がラストに全部の事情を知ってうおおお!って叫ぶ、みたいな。たまに寒いヤツ。。

大島優子の咆哮は、、、映画史に残していいんじゃないですか。
国立映画アーカイブ(https://www.nfaj.go.jp/)に残しておきましょうよ。

少なくとも今年の助演女優賞は一つ残らず大島優子です。決定です。
もし他の人が獲るとしたら渡辺真起子(『37セカンズ』『浅田家!』)です。



****


ラストの切れ味最高でしたね。

僕は映画の終盤は大体「早く終われ」「今終われ」と思いながら観ていて、大体のラストは蛇足だと思っていんですけど、
この切れ味はもうちょっと度肝抜かれましたね。。

いや凄かった。。でもま、描けてますもんね。あの人物があの方向へあの動作をし始めた!っていうのがラストなわけで。
この映画のゴールなわけで。

あの方向へあの動作をした結果がどうなるのかはわかんないんだけど、そこではない、と。
あの方向へあの動作を……、めんどくさいな、、
ラストネタバレは以下に!










監督がインタビューでハッキリと答えていますね。「厚久は僕の考える日本人そのものの象徴でもある」と。

〜〜

もはや我々は大切なものをいろんな外圧から剥ぎ取られ、いよいよ最後の一つまで手が伸びかかっている。要するに日本、日本人は、それほどヤバいところまで来ているという認識の反映です。
そう思わない人もいると思いますが、僕はそう確信しています。
ほとんど悪い冗談のような世界です。
(中略)
声を上げようにも、もはや言葉がないのかもしれない。それでも争い続けるしかないと思いますね。

〜〜

公式サイトのインタビューより引用。




***


奈津美が殺害され、娘の鈴とも引き離された厚久。

厚久「ラブホテルに行きたい!」
武田と一緒に、奈津美が殺害されたホテルの一室へ。
奈津美を弔う。

厚久「英語でなら言えるかも。I love my wife.」


後日、奈津美の実家で暮らす鈴を訪ねるが、車で前を通っただけ。
「鈴はあそこで暮らすのが幸せなんだ」と自分を納得させようとする。

しかし武田の言葉によって、厚久は自分の心を閉じていた扉を開ける。
溜めていた思いが心から溢れ出てくる。

助手席のドアを開け、鈴のいる方へ走り出す。

武田の顔。

おわり。


***



ラストのこの切れ味、ホント最高!

本当に最後の最後に残った本当に大事なもの、娘を失いたくない!と娘の方向へ走っていく厚久ですよ。

それを見れない武田。「見てらんねぇ」みたいなこと言いましたね。で、ほんとに見えなくなりましたね、映画終わりました。

武田の視点だったんですね。謎の人物武田は観客だったのでしょうか。

映画『アイヌモシリ』ネタバレあり 日本の北方少数民族アイヌの今を描いた

2020-10-20 | ネタバレあり
阿寒アイヌコタン

20年くらい前に、この映画の舞台となる阿寒アイヌコタン(https://www.akanainu.jp/)に行ったことがありました。
ただ家族と車で北海道を回る中での一つの地点としてだったので、アイヌの人たちが経営してる土産物屋を見て回っただけで、アイヌのことを知るとか体感するみたいな時間はありませんでした。
が、
その中に木彫りの店がありまして、工房もありまして、
床にゴザ的なものを敷いたアイヌの初老の男性が木彫りをされてまして、
その姿に圧倒されたのは覚えてます。
体も大きいし、大柄の文様の衣装をざっくり着てるのでさらに大きく見えるし
一回も切ったことありませんみたいな大量の髭と
和人ののっぺり顔とは対極の彫りの深い顔に深い皴。
これがアイヌの人なんだ!とその時の衝撃と一緒に記憶しました。

と、同時に
「ほぼ自然」「ほぼ世界」みたいなこんな存在感のある人が狭い土産物屋で木彫りして観光客を迎え入れている姿を見て、自分も若いながらも罪悪感を感じました。
その居心地の悪さもあってサッとその店は出てしまいました。

***

上記のことはやはり「よく知らない」からなんですよね。
僕が罪悪感を覚えたのは日本政府による少数民族への「同化政策」があったからですけど、
正直その知識も浅いものですし、
どっちのこともそんなに知らないのに勝手に罪悪感だけ感じてサッとその場を離れるなんて、何とも浅はかな、何の良いことも生まれない薄ら馬鹿な行為でした。
と、この映画を見て20年前のことを思い出しました。


美しい自然と人物の内面を映す撮影

さて、
この映画、語るべきポイントが多いんですが、
まず日本・アメリカ・中国の制作です。

特に撮影監督は、
エリザベス・モス『ハースメル』やロバート・パティンソン『グッド・タイム』のショーン・プライス・ウィリアムズという方。

ニューヨークを舞台にした映画で下層で生きる人物たちを撮ってきた人。
監督曰く「アイヌに対する固定概念が全くない人に撮影してほしいという気持ち」で依頼したとのこと。

映像はものすごく綺麗だし迫力あるんですけど
あんまり寄り添いすぎてもいなくてドライなとこもあって
そのドライさによって残酷なシーンも多くて
視点がたくさんあるのでアイヌというものを多面的に見ることができたかと思います。

***

実際のアイヌの方が多く出演されています

主役のカントを演じた下倉幹人をはじめ、その実母である下倉絵美や秋辺デボ、全員アイヌの方。

歌や踊りなどの表現をやられてる方々なので堂々としてますし、変な照れもなく自然な演技が素晴らしい。
リリー・フランキーと三浦透子がちょい役で出てくると、、異質。。。
特にリリー・フランキーはナチュラル演技を得意とする俳優ですけど、この映画のナチュラル(自然)の中にいると作り物臭が途端に吹き出す。
これが意図されたものなのかはわかりませんが、、
この役は新聞記者という役ですし、外部の人間ってことなので、この違和感は正しい効能を生んでいると言えると思います。

***

監督はアイヌの人たちの意見をめちゃくちゃ聞きながら制作したとのこと。

観ていてその安心感はありました。
不当に切り取られたアイヌ描写を観せられてるわけじゃないんだろうな、というのは映画を観ていてどういうわけだか感じていました。
画面に出るんですかね、そういうのも。
たぶんそれは「アイヌとはこれなのだ!」っていうのを一方的に押し付けてくる映画ではなかったからでしょう。
アイヌつっても広い北海道でいろんな地域差もあるだろうし、
同じ地域でも個人差あるだろうし、
そういう混濁したものや一人一人の「迷い」をそのまま映していたのがリアルで良かったし、観る側としてはとてもありがたかったです。



何よりもこの作品をアイヌ以外の人が見てどう思うのかが一番大事なこと

主役の下倉幹人「アイヌ文化っていうより存在としてのアイヌを見てもらいたい」
秋辺デボ「何よりもこの作品をアイヌ以外の人が見てどう思うのかが一番大事なこと。」
とインタビューでおっしゃってまして、
確かに、
一つの価値観を押し付けてくる映画ではないので、観終わった後自由に考えを巡らせることができます。

下倉絵美「アイヌの人々の一人一人の中にはたくさんのストーリーがあります。今後も様々な表現を通してアイヌの視点から作られた作品が形になっていくことを期待します」
とのこと。

様々な視点で撮られたこの映画もまた一つの視点でしかない、と。
まだまだ語られていないアイヌの物語を観たいです。
日本映画は年間700本くらい作られてるんだから、、「またその話??」みたいな映画じゃなくて、全然語られていない物語を映画にしてほしいなぁ。




ラストネタバレ、イオマンテについては以下に


映画『サーミの血』でもサーミ人の生贄の儀式については描かれてなかったですね。やっぱ生贄の儀式ってのが一番ギャップのある事柄ですよね。。
監督もイオマンテを入れるかどうか相当悩んだそうですが、現代社会では忘れてしまいがちな「命」を表現するものとして描いたそうです。
イオマンテ。
アイヌでは人間以外の全ては神様。人間が作った道具でさえもそれぞれ神様。
そもそもアイヌとは「人」という意味。
自分たちは自然の中で「人」という一つの要素でしかない、という認識なんですね。
で、
熊の神様は熊の毛皮を来てアイヌの村にやってくるんだそう。
熊の毛皮を着てるから熊に見えている。
カムイ(神)への尊敬の気持ちや美しい精神を持ったアイヌ(人)にしか熊は射てない。
矢が当たらない。
矢が当たらないアイヌ(人)は精神が悪く、カムイへの畏敬が足りない。
美しい精神のアイヌ(人)が放った矢であれば、カムイ(熊)は「受け取る」。
思いっきり体に刺さってるんだけど、あれは受け取ってるってことなんですね。
で、
アイヌの人たちは熊のカムイが身につけていた毛皮や肉をありがたくいただきまして、
カムイの魂を「お酒やご馳走、歌、踊りなどでもてなして神の国(カムイモシリ)にお返しする」と。
神の国(カムイモシリ)に帰った熊のカムイは
「アイヌ、めっちゃ楽しかったわぁ!厚遇されたわぁ!最高!」と他のカムイたちに自慢する。
すると「え、マジで!行きたい!」ってことになって
他のカムイたちは熊の毛皮と肉を身につけてアイヌの村(アイヌモシリ)に来てくれる、というループなのだそうです。
***
少年カント君は自分が世話していた子熊のチビがイオマンテによって殺されると知り、裏切られた!とデボを拒絶します。
イオマンテの当日。
デボはカントを訪ねますが、カントは無視。
デボ「気が向いたらおいで」と。
カントは父が集めていたイオマンテの様子を収録したNHKの番組ビデオを見る。
熊が縄で引っ張られて動きを封じられて暴れている。
そこに矢を放つ男たち。
体に刺さりさらに暴れ絶叫する熊。
熊の鳴き声ってなんか人間の声に似てましたね。。なんかそれも痛々しさに輪をかけて。。
そして絶命する熊。
『ミッドサマー』っぽい感じでみんなで熊を担ぎ上げて移動。
その後は上記の通りの儀式を行う。
ビデオを観終わったカントは走る。
しかしもう熊は殺され、雪の上には血が。
そこに父が現れる。死んだ父。
抱き合う2人。
アイヌモシリとカムイモシリが近づいた瞬間。
そして日常が再び始まる。1人の朝食を食べ、食器を台所へ運び、学校へ向かう。
冒頭の学校での進路相談の際
「ここから出られればなんでもいい」と言っていたカント君。
その気持ちに変化があったのでしょうか。
どういう変化があったのかを明らかにしないのもこの映画のいいところですね。
おわり

映画『浅田家!』ネタバレあり

2020-10-20 | ネタバレあり
中野量太監督作はどういうわけだか、
俳優の演技が素晴らしい。

今回もみんな素晴らしいし、
とくに渡辺真起子と北村 有起哉、すごかったですね。。

渡辺真起子は『37セカンズ』と合わせて助演女優賞かっさらっていきそうなんですが、、
残念ながら今年の助演女優賞は『生きちゃった』の大島優子が一つ残らず獲っちゃうんです。。決定なんです。。


**


さて。
中野量太監督作は、

『湯を沸かすほどの熱い愛』125分。
『長いお別れ』127分。

と、長い。
まぁ情報量が多いので仕方ないなとは思っていました。

『湯を…』の松坂桃李いらねぇんじゃねえかと思うんですが、
やっぱ松坂桃李の演技がすごいので
必要な気がしちゃう。

『長い…』もだらだらやってたわけではなく、ちょっとおかしいくらいにシーンをサッサと切り上げてたし、
コメディでリズムも作っていて、
それでも127分なので、ま、しゃあないのかなと思ってました。


**


ただ、今回は、、、、、理由なくだらだらと長い。。

ひとつひとつのシーンのキレが悪い。。
まだ序盤なのに終盤くらいのねっとりしたテンポなのできつかった。。

家族写真を撮りはじめるまでの話が長い長い。。。

なんかずっとねっとりねば〜っとしたテンポでした。。


**



ギャグも正直そんなにウケてなかったですよ。。。
イントロはほんと寒かった。。。

一人で観に行ってたら帰ってましたよ。。
連れがいたんでね。帰れなかったけど。

子役の演技も寒かったし、
「コメディでございます」っていう音楽もほんと寒かった。。
 
ギャグが滑った時の劇場の空気ってほんと辛いので、、
やめていただきたい。。。


**


主役のキャラクターが結構クズなのに、、、
周りの全員が彼にひたすら優しい。

ただただ猶予を与えられて、
ただただ許容されていく。。


俳優さんたちの演技がそれぞれ素晴らしいし、
エピソードがそれぞれ良い話ではあるし
東日本大震災の写真修復ボランティアの話も出てくるわけだから

なんか全体的に良い話のような空気が出てるけど、、

なんかずっとフワフワしてるような、、核心を掴めてない感じありました。


その自信のなさが、音楽のうるささや、演出の臭さを生み出してたんですかね。。



**



ラストネタバレは以下に。


冒頭でお父さんの通夜から始まりまして、
終盤でお父さんが半身不随になったりもして
ラストでまたお父さんの通夜の場面に戻ります。
たぶんギャグなんだろうなと思ってはいたけど
ほんとにギャグで、、
お父さんは死んでなくて
通夜の場面を再現して「浅田家」の写真撮影のシーンでした、というオチ。。。
全然笑い起きてなかったですよ。。
その前までに全然観客の気持ちをつかめてなかったから、なんだよ茶番かよって感じで、ほんとシラ〜っとした空気が流れました。。。
で、エンドロール。
浅田家の写真が一枚一枚また表示されるんですが、、もうすでにそれぞれ3回ずつくらい観てますから。。。いまさら何を思えばいいの??
ここはホントの浅田家の写真でしょうよ。。
ご本人の写真でしょうよ。。
「あ、ほんとだったんだ!」ってのが感動になっただろうし
その再現度の高さに感心もしたはずなのに、、
何回も観た俳優たちの再現写真をまた見せられても。。。
あと、根本的に
俳優さんたちが消防士になったり、極道になったりするのって、面白くないんですよ。
それが俳優の普通の仕事だから。
素人の一般人がレーサーになったり、泥棒に扮してるのが、バカバカしくて、でもそれを家族みんなでやってるとこに感動があるわけでしょ。。
エンドロールは絶対ご本人たちの写真でしょうよ。。
ご本人写真を一枚も出さないのなら何かしら意思があるのかなぁと慮れたかもしれないけど、
なぜか一枚だけ、病院の写真だけ最後に表示されて、、
中途半端。。。
いやはやいやはや、、、、残念しました。。。

映画『82年生まれ、キム・ジヨン』 私だから苦しいのではなく「女性」だから苦しい 

2020-10-15 | 映画感想
原作小説はこれから読みます。

感想書かないと忘れそうなので、書いときます。





女性差別の釣瓶打ち!物凄いのさ。

画面で行われていることは『第三夫人と髪飾り』と同じ。

ただ
『第三夫人と髪飾り』は1800年代のベトナムの話だったので
「現代でも変わらないのではないでしょうか?」という脳内変換が必要だったんですが。


でもこの映画は、思いっきりビキビキの現代劇。
生活水準も低くもなくそんなに高くもなくって感じ。
ほとんどの人がビッチリと自分と合致してしまう。

まさに「今」の差別問題としてゴンゴンガンガン羅列していく。



****


これが韓国映画のすごいとこですよね。
『 パラサイト 半地下の家族』でもそうだったけど、

現代社会の問題提起を
「昔話」として描いて「今でも通じるのでは?」と投げかけたりするのではなく、
怪奇映画として描いて「我々の社会でも起きていることでは?」と投げかけるのではなく、

現代劇として描いておきながらも、絵的な美しさや迫力は十分あって、登場人物のキャラクターも面白く描ける。



****


主演のチョン・ユミが超絶美人でしかも旦那がコンユ、それでもこれだけ追い詰められている、というのが表現できている点で、美男美女であることの意味もわかる。
「幸せなはず」という圧力が思いっきりかけられてる分、もしかしたら不自由かもしれない。


****


チョン・ユミさんは超絶美しいし可愛いんですけどちょっと顔に個性がない(失礼…)。。

それも今回の映画ではぴったり。

基本的に松本若菜に見えるし、たまに松岡茉優にも見えるし、蓮佛美沙子にも見えるし、麻生久美子に見えたりもする。

しかも彼女はたまに体を乗っ取られて、他の女性の言葉を代弁する役でもある。

巫女的な存在であり、今で言うとリツイッターのようなことをやってる。

彼女の独自の存在感てのがない。


空虚さを抱えていながらも感情を押し殺した演技が素晴らしかった。


***



この人物は「女性」という大きなカテゴリーに苦しめられている。
キム・ジヨンだから苦しいのではなく、「女性」だから苦しい。

個人である前に「女性」ってことで道が絶たれる。
ラストで希望を掴むまでそれは続く。


ラストに希望があることで、それまでの苦しみが際立つと思うので、希望のあるラストはいいと思いますけどね。



***



あと、
原作小説よりも男性が優しく描かれているそうですね。


旦那の好人物ぶりはちょっとSF(空想科学小説)レベルでしたけど、
他の男たちは十分クソでしたけどね。。
クソっていうかアホ?
見えない力によってアホにされてるって感じでしたよ、男たち。

これよりもひどいの?小説での描写は。。



で、
旦那がこれだけ好人物であっても苦しみは軽減されない、ってことの方が地獄じゃない?

だから映画の方が地獄なのではないかと思ってしまう(原作まだ読んでない状態なので)。



***


レディースデイってこともあって客席はほとんど女性。


姑とか差別意識バリバリのスポンサーとかがあまりにも言動がひどいので
僕はちょっと笑っちゃたりしたんですが、
全然笑いが起きない。。

たぶん笑えないんでしょうね。。。
現実と重なり過ぎて笑う余裕もきっとなかったんでしょう。。


***


なんか、
結婚がゴールっていう考え方も弱まってきてはいるけど
まだ結婚したら「おめでとう〜!」「幸せ〜!」ってこの世の終わりみたいにお祝いしてますよね。。

代わりにこの映画を一族郎党で鑑賞したらええねん。

『TENET テネット』で学ぶ物理学

2020-10-13 | ネタバレあり
『TENET テネット』

逆行組への憧れ

下に色々文句書きますけど、
結果やっぱ面白かったです。。

スクリーン出るときに、
後ろ向きに歩いて出ました。マジで。

逆行組への憧れ。

だれか気づいて笑ってくれた人いたかしらん。。



『TENET テネット』で学ぶ物理学

さて
冒頭で、皆さんご存知のみたいな感じでエントロピーが出てきたときにもう怪しいと思いましたけど、、
やっぱ難しいですよ。











**

理解しなくていい映画の作りではない

理解しなくていい
感じろ
っていう映画でもないと思うんです、ホントは。

そう思いたい気持ちは僕にもありますし、
映画内でもこういうセリフありますけど。

登場人物たち、めっっっちゃ喋ってるから。

こうするためにああしよう
ああしたいからこうしよう
ああなる前にこうしよう
こうしてる間にああしよう

ってのを
スパイなのに電車の中とか、人が結構いるところですんごい喋ってるから。
で、
それをわかってないとサスペンスを感じられないので、、、、
わかんなくていいんだよ❤️
っていう映画ではないと思います。




画面の面白さをのびのび楽しめない

話が複雑すぎて、ついていくので必死。。
画面の面白さをのびのび楽しめない。
画面で行われてることは大迫力の面白いことなのに
「意味わかんない!」
「どういうこと!」ってのがストレスになっちゃう。。
ストレスってのは
画面で行われてる「爽快感」とは逆方向の感情なので、
やはりこれは
やってることと映ってるもののバランスが悪いってことじゃない?




大林宣彦作品は「とにかく目を開けてりゃいい」

僕は大林宣彦作品(近年の、ですかね)は「とにかく目を開けてりゃいい」と書きましたけど
それは
大林監督作は意外と終盤でものすごく丁寧に伏線の回収をしてくれたり
重要なことは何度も手を替え品を替え、強烈に観客に伝えてくれるので
とにかく見てりゃ、メッセージを受けることができる。



「目を開けてりゃいい」映画では絶対にない。。。。

でも『TENET テネット』は
観客はかなり能動的に話に追いつこうとしなきゃいけないし
観終わった後も「あれはどうだったのか」って考えたり調べたりしなきゃいけないらしいし
「目を開けてりゃいい」映画では絶対にない。。。。

さらに重要なのは、、
あ、これはネタバレに、なるのかな、、
では下の方に。。。。










ネタバレ

結局辻褄合ってないらしいじゃないですか。。
「難しいだろ、寝ろ」とか。。
どうせ考えてもわかんないよって映画の中で言ってるけど、、、
じゃなんでこんなに理屈っぽくやっちゃんたんだろ。。
もっと爽快方面に張り切った話の作り方に出来なかったかね。。
それができないのがノーランのこじらせだよね。そうだよね。
いいよ、ノーラン!


映画『ドクター・ドリトル 狂闘地獄曼荼羅編』

2020-10-09 | 映画感想
知る人ぞ知る新世界国際劇場にて観てきました。

昔懐かしい手書きポスターが話題になることが多い映画館です。
(まぁこの映画館のホントの個性はもっとディープですが、、)


今回『ドクター・ドリトル』を観ましたが、
タイトルは『ドクター・ドリトル狂闘地獄曼荼羅編』となっていました。




普通の『ドクター・ドリトル』を観てないんですが
たぶん『狂闘地獄曼荼羅編』も同じ内容だと思うので
『ドクター・ドリトル』として感想書きますね。


**



狂闘地獄曼荼羅編。

狂って闘う地獄ってはちょっと言い過ぎかなと思うんですが、、
〝曼荼羅〟ってのはこの映画のたしかに確信をついたものかと思います。


曼荼羅ってのは、
主となる存在を中心として同心円的(正方形の場合ありますが)に主じゃないものが配置されるという、
宗教画です。


この映画でいうと、
主たる存在ってのは「人間」。

その周りに主じゃないものとして「動物たち」が配置されている、
ということです。


**


ドリトル先生は動物の言葉がわかる人。
聞き取れるし自分も話せる。

実際はガウガウやキーキーと発音しているようですが、
ドリトル先生(人間)の視点で
ドリトル先生も動物も人間の言葉を話しているという絵面になっています。

**


猿の言葉、オウムの言葉も別の言語のようなのです。
動物は種類によって言葉が通じない。
(猿の言葉では○○、オウムの言葉では□□みたいなセリフもあるので)

この映画では
ドリトル先生が動物の言葉がわかるというだけの設定のはすですが、
なぜか言語が違うはずの種類の違う動物同士も会話ができています。


**


で、1番の謎と問題点は、
動物が人間化してることです。

単に言葉がわかるだけの設定なのに
動物と会話できると途端に動物たちは人間化します。

白熊が人間のように日光浴したりします。

そして
人間にとって便利に活躍してくれるし、
人間にちょうどいいスリルを与えてくれるし
人間に説教もしてくれるし
人間に最高の感動をくれる。



どうなのよ。



言葉がわかるってだけですよ。。。

なんで突然野生性を失って人間化しちゃうのさ。


****


ドリトル先生が動物たちの怪我治して動物たちが感謝して仲良くなるってことかもしれないけど
いちいち人間化させることないでしょうよ。


例えばオウムなら感謝して「ありがとう!」っつってジャングルにバサバサと飛んでいくでしょうよ。

それが動物とのお付き合いじゃん。



**



ペット化や家畜化じゃなくて、人間化しちゃうんよね。。

同化させちゃってんのよ。。


それぞれの動物の歴史や文化関係なく、
人間にとって不都合な個性は消して
人間にとってちょうどいい個性は残して
人間化させて、、

それを「仲間」みたいな感じでユートピアとして描いてるわけでしょ。。。。

全然ユートピアじゃないよ!同化政策じゃん!
狂闘地獄曼荼羅だよ!良いタイトル!


ネタバレあり 映画『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』誰がどこで嘘を?そもそもその必要が?

2020-10-06 | ネタバレあり




初グザヴィエ・ドランです。初めてグザヴィエ見ました。
噂ではいつもこんな感じらしいですね。
こんな感じってのはおそらく
監督自身のセクシュアリティと
シングルマザーとして自分を育ててくれた母、
そして、うるせー外野たち。

でしょうかね。

**

とにかく大人数でいることが嫌いなようですね。。
5、6人集まっただけですぐパニックになる。
すぐ嫌〜な空気になって、さらにもっと嫌な感じになって解散。
わかりますねえ、ぼくもこういう集会苦手。。
上限は4人ですね。
相当仲良くてギリ5人。

**

他の映画がどうなのかわかりませんが
ドラン監督自身がめっちゃ怒ってます。
自分を拒否する外野、
興味本位で近づいてくるだけの外野に
終始怒ってる。

**

母親との関係は急にかなりファンタジックに美化されていますね。
作文読んで思いを通じ合わせるなんて相当トラディショナルな展開。。
お母さんに対するこんがらかった愛憎の結果ですかね。


ネタバレは以下に

ジョン、クラブでハメ外して
さらに外に出てウィルとカーセックス。
ウィルとジョンは学生時代ホッケーをやっていた。
ウィルはジョンのこと覚えていた。
ジョンは覚えていなかった。
ジョン「これ以上は続けられない」と別れを告げる。
ウィル、涙を堪えてる。しかし受け入れる。
***
青年ルパート:永遠に続く嘘の人生を生きるなんて、抜け出さなきゃ。仮面が崩れるだろ
オードリー(記者):ドノヴァン氏のことは同情するけど、先進国での不幸な出来事でしかないわ。
オードリー、彼女はコンゴ出身の政治ジャーナリスト。芸能スキャンダルだと見下している。
青年ルパート:あなたは正義のために戦っていて僕の戦いは嘘?これは不寛容の物語。大衆の支持を失うことを恐れる業界が、何十年も無知で狭量な体質を変えない物語だ。
 僕らは贅沢な悩みに没頭か?特権の概念とはつまり同情に値する経験をしないで済むことか!病んでるよ!だからこそ考えないと!
 求めるものは同じ。変化と衝撃。恐怖、無知、同性愛嫌悪、戦うのはあなた一人!?
オードリー、90分のテープを裏返しにして録音再開。1時間後に飛行に乗る予定だったが、取材続行。

***
ルパート、教室の前で発表。
大スターのジョン・F・ドノヴァンからファンレターの返事が来て、6年近く文通が続いていることを話す。
ジョンは僕の友人だ。
クラスメイトも担任も信じない。
担任:どうして嘘を?
ルパート:嘘じゃない。リュックに手紙が入ってる!
悪友がルパートのリュックから手紙を盗んでバスに乗って帰っちゃう。
ルパート:先生!事実なんです!
ルパート、手紙を取り返すために悪友の家に侵入。しかし、すぐに見つかって警察へ連れて行かれる。
 警察官が笑いながら手紙を朗読する。

***
ジョンとウィルのことがネットニュースに出てしまう。
***

母もジョンとの手紙を信じてくれない。
母:どれくらい文通を?
ルパート:ざっと100通!
母:なぜ黙ってたの!なぜ嘘をつくの!そんなに私が嫌いなの!
ルパート:父さんに会う時間もない。学校からも友人からも引き離されてイギリスにきた。
 母さんは突然自分が敗者だと気付いたんだ。
 手紙を隠してたのは、母さんが騒いで唯一僕を気にかけてくれる人に手紙を書くなと言うからだ!
 こんな人生つまらない。
 母さんの小さな夢と考え方が嫌いだ!
母:オーディションはなしよ
ルパート:どうせうまく行かない。母さんと同じだ!
玄関にマスコミが殺到。
「ジョンと文通してた!?」
TVでも報じられる。

***

ジョン、ストレスから難聴が発症してしまう。
ドラマ撮影中。
セリフ合わせがうまく行かない。
スタッフ:子供と文通だって?
ジョンはスタッフの声が聞こえなかった。
ジョンはウィルのことでみんな騒いでいると思っている。
『子役への手紙と危険な性行為がJFD最大の秘密』と言うタイトルのネット記事が出ている。
学校での喧嘩から全てが明るみに!
共演者の女優リズがネット記事を読んでくれた。リズは辛そう。リズはジョンの味方。
ショックを受けるジョン。
ジョン:クロナゼパム(パニック障害の薬)、もしくはザナックス(抗不安剤)を持ってるかい?
リズ:オーガニックしか持ってないわ
嫌な俳優:忙しい週末だな!
嫌な俳優がずっと嫌なことを言ってくる。
ジョン、切れちゃって嫌な俳優に馬乗りになって殴り続ける。
誰もそれを止められない。その様子をスマホで撮影するスタッフもいる。
そこにマネージャーのバーバラ現れて、全てを把握する。
バーバラ:クソッ!
****
バーバラの助言でテレビのインタビュー番組に出演するジョン。
ジョン:子供の文通相手だ。最高じゃないか。
モニターを見るバーバラ。「イマイチだわ」みたいな表情。
次の番組。
ジョン:イギリスの子供と文通してるって?あり得ると思うかい?記事は全部読んだけど…
文通のことを否定するジョン。

***
その番組を見ていたルパートは、涙を流す。
部屋のポスターを泣き叫びながら全部破る。
それを見て心配する母。
***

記者オードリー:彼から謝罪か説明の手紙は?
青年ルパート:来たけど、彼にも事情があって…
オードリー:それから何が?

***

母:今日は老人ホームを訪ねるのよ(子役の仕事)。騒ぎの気分転換にもなるわ。
ルパート:彼が手紙は嘘だと…
母:そう言う業界なのよ。手紙を忘れて。
母は、自分を拒絶した業界を憎んでいる。憎んでいるのにいまだに憧れてもいる。
母:私はどんな退屈な女でもあなたを助けに行く。成功を逃したし、お父さんとも別れたけど平気。あなたが傷つくのだけは耐えられない。

***

ある日、ルパートは学校に来なかった。
ルパートが担任へ置き手紙
「先生、心配しないで。オーディションでロンドンに行く」
担任、母を訪ねる。
母:ロンドンの夫に連絡します!きっと彼が。。
担任:ルパート君には輝かしい未来が見えます。〝運命〟です。
母:あの子、私を恥じてるでしょうね。
担任:お母様のサインがない作文がありました。〝手本〟と言うテーマの。
母:5年間も年上の男性と文通していた子です。
ルパートが母について書いた作文を母に渡す。

***

手本となるのは、唯一、僕の母サム・ターナー。
つらつらと母を褒め称えた文章が続く作文。

母、それを読んでロンドンへ一直線。
ルパートを探す。
ルパートが母を見つけて駆け寄り、抱きしめ合う。
母:ごめんなさい。馬鹿だったわ。

***
マネージャーのバーバラがジョンから離れることに。
ジョンは業界とのツテがなくなってしまう。

バーバラ:40年以上、巻き込まれるのを避けてきた。
 この床、そのラグ、全て私の人生。私はこの生き方を選んだ。
 私が生きられるのはこの人生だった。
 正しいと思える仕事ができるから。
 私は嘘つきじゃない。
 彼らのようになりたいの?ジョン。
 他者をはねつけるような人。
 それは行き止まりよ。
 私には無理。
 あなたにはできるのかも。私にはごめんだわ。
 負のスパイラルに陥って消えていった友を多く見てきた。
 ブラックホールの奥へ。
 才能と時間の無駄。
 どうせ戻せない。
 他のマネージャーを見つけることよ。

***

ジョン、ウィルの家を訪ねる。
ウィルの家では弟の誕生日会が開かれている最中。家族が集まって幸せな感じ。
ジョン:この出来事全て、マスコミのことすべてがわからない
ウィル:電話に出て欲しかった
ジョン:忙しくて。。
ウィル:君のやるべきことをやって。まだ若い。誰かの〝秘密の存在〟は君の目指す場所じゃない。君を家の中に通したいけど。。

ウィルはこの事件でカミングアウトさせられた。それでも家族とうまくやっている。おそらくちゃんと家族とぶつかった成果。
ジョンはマスコミからぬるぬると逃げた。
ウィルとジョンには溝が。
ジョンはウィルの家に入れない。
ジョン:いいんだ
ウィル:ごめんよ
扉が閉まる

***
記者オードリー:ウィルは今どこで何をしているの?
青年ルパート:故郷で演技以外の仕事をしていると言う噂も。
青年ルパート:バーバラが後悔しているのはジョンを切ったことより、彼を知らなかったこと。
 病が、過去が知れ渡ったとき周囲の皆がそう思った。
 俳優は何をさらけ出せば?
 そもそもその必要がある?

***

スーパーヒーローのJ.ハーヴェスト役が他の俳優に決まってしまった。
ジョンに内定していたのだが。。
ジョン、落ち込む。

***

青年ルパート:ジョンはその後しばらく姿を消した。
 しばらく手紙は来なかった。

寂れたダイナーで、緑のペンを使って手紙を書くジョンの姿。

青年ルパート:また習慣が戻った。僕はオーディションを再開した。幸運が重なり、NYに呼び戻された。
 初めてジョンに会えるんだと興奮した。
***
ダイナーの厨房で手紙を書くジョン。そこに謎の老人が現れる。

老人:人気俳優だ!孫が好きでね。
ジョン:わかりません。先のことが。何もかも間違ってしまった。ずっと思っていた。僕がいる場所はは誰かから奪った場所じゃないかと。
老人:物事は単純だ。人間は複雑にする。過ちに気づけたのならもう他の人とは違う。私の目に写っているのは一人の青年。
その仕事は孫にとっては宝物だ。過ちを正すのは君と神の務めだろう。奪えるわけがない。君のために用意された場所なんだから。
ジョン:あなたを見かけたことがない
老人:でも目の前にいる。帰りたまえ。君は若い。一人で食べるのはわびしい。

***
ジョン、ジョンの母グレースを訪ねる。
ジョン、花束を持っている。
グレース:今夜は文句なしに最高の夜だわ。
グレース:あなたは言ってる、何度も。あなたと私は別の惑星から来たと。
 私はこの惑星の人間なのよ。そしてあなたが来たのは、私から。
 母親は息子とは友達になれない。
 でも、私は誰よりもあなたがわかる。
ジョン:ママ、風呂を用意して。昔みたいに綴りゲームをしよう
グレース:そうしたい?
ジョン:今夜泊まっても?
グレース:一生いてもいいわ
和解する母と息子。

***

NYのルパートと母。
ルパート:ジョンは返事を書いたと思う?
母:フロントが連絡するって

****
ジョンと兄、母。
風呂場。
ジョンだけ湯船に浸かり葉っぱをやってる。
綴りゲーム(スペルゲーム)をする3人。
母:ジョン、大丈夫?
ジョン:物事がちょっと変わってるだけ
母:あなたはあなたでいればいい
ラジカセから流れる曲を兄弟二人で歌う(Lifehouseの「Hanging By A Moment」)。
〝たった一つのために生きて、何もわからず走り続ける♪〟
それが彼らが見た最後のジョンの姿。
母の表情のアップ。
スーザン・サランドン、素晴らしい表情。

***
NY。
フロントから電話。
母:どうぞ届けてください
フロント係が部屋を訪ねる。
ルパートは寝ている。
母:まだ息子には見せたくないの。正気を失うから。
 その手紙はジョン・F・ドノヴァン氏から?
フロント係:いいえ、ミス・ターナーさん。若い男性がルパートさんにお渡ししろと。生憎です。
黒い封筒。宛名は白か銀のインクで「To Rupart Truner」と書いてある。
ルパートが隣の部屋で寝ているのを確認して、こっそり封を開ける母。
中身は緑のインク。

〜〜〜〜

もう長いこと眠っていない。
眠る時間を見つけないと。
考えるためにも。
僕は人生に全てを捧げた。
演技、キャリア、評判に。
気を使い、友人や家族にもそうした。
でも自分を大切にすることを忘れていた。
少年たちが大人になること、僕は有名人になった。
どうかルパート、君にも人に認められ、満たされる人生を祈る。
何よりも、生きて欲しい。
偽る前に生きること。
偽ることは避けられない。ある程度の嘘は最高のパフォーマンス。
(カットバックで幼少期のジョンと家族の写真が出てくる)
そして時には嘘も純粋で美しい。
君はまだ純粋すぎる。
僕には君の空想がわかる。
君の願望も知っている。
君の失望も知っている。
いずれ感じて避けられない孤独もわかる。
ルパート、君ほど印象的な少年を知らない。
君ほど思慮深い仲間も知らない。
素晴らしい友人だ。
僕はこう思う。
僕たちの友情の最高の成果は、たぶん一人として理解しないだろう。君がそれを望むまで。
(チラチラとルパートの方を見ながら読み進める母。涙が落ちて、緑のインクが滲む)
君に合う道を必ず見つける。じき僕は再び姿を現す。

〜〜〜

***

ジョンの部屋を訪ねる女性。
ジョンが部屋の中で死亡している。
***
ルパートと母がニュース番組でジョンの訃報を知る。
部屋からジョンの遺体が運び出される様子。
それを見る母とルパート。顔を見合わせる。ジョンは死んでいた。
***
〜〜〜

僕には眠りが必要だ。ひたすら眠りたい。そしてやり直す。
君の友 ジョンより

〜〜〜
***

取材のテープが止まる。
記者オードリー:彼は・・・
青年ルパート:自殺だった?誰にもわからない
オードリー:もし彼が絶望で死を選んだとしても、それは安易な解釈よ。
青年ルパート:ほんとに眠りたかったのかも。最悪のミスを犯したのかも(死因は薬の過剰摂取)
オードリー:最後の手紙には希望が感じられる
青年ルパート:だからこそあなたも理解すると思う。僕はこの解釈を信じようと思う。
オードリー:わかったわ、ルパート。あなたのキャリアと人生、望むものを手に入れて。
青年ルパート:もう手に入れた
青年ルパートがオードリーとハグ。挨拶して店を出る。

店の外では金髪サングラスの最高イケメンがバイクに乗って待っている。
その後ろに乗る青年ルパート。親密。まぁ恋人でしょうね。
オードリー、その様子を見て、あらまぁ♡的な表情。
イケメンがオードリーに手を振る。オードリー手を振り返す。
青年ルパート、イケメンの方に顎を乗っけてバイクは走り去る。
オードリー、笑顔。

おわり


手紙は誰が…?そもそもその必要が?
う〜ん、何度見ても、こうやって書き起こしてみても、、ジョンとルパートが文通していたかどうか強力に信じられる要因はないですね。。
ジョンがルパートのことを考えているシーンが一度もないってのが一番引っかかる。
あの手紙の全てはルパートが自分で自分に宛てた手紙かと。
特に最後の手紙はほんとにルパートが誰かに言って欲しい言葉の羅列だった。
ルパートにはそれを書く文章力もあるし。
ジョンはルパートにとって「空想の友人」だったのではないか。

ジョンにも突然謎の老人が現れる。
メンターと呼ばれる、主役に助言を与えて導く役。だいたい男性の老人。この映画でもそう。
この老人は突然現れて、良いことを言って、突然消える。
ジョンも言う。「あなたを見たことがない」

フロント係は「若い男性」が手紙を届けに来た、と。
あんなにも幼いルパートを「若い男性」と言い表すのも無理があるけど、、
ルパートが自分で書いた手紙を自分でフロントに預けたのか。。
母は手紙を読んで、「え、これルパートが自分で書いてるじゃん・・」って気づいたのでは、それであの涙では。。

ジョンとルパートは文通をしていなかったし、会ったこともないし、ジョンに限ってはルパートのことを知りもしなかったけど、二人は同じ感情で繋がっていた。
でもそうすると、、、
青年ルパートがまとめた本ってのは全部嘘ってことになる。。
記者オードリーは全部騙されたってこと???
そんな話ある???
うーむ〜〜〜。。。

まぁ、どっちにでも取れるように話が作られてるんでしょうね。
全てがわかるわけではないし
「そもそもその必要が?」ってことでしょうか。