子ひつじは迷わない 走るひつじが1ぴき (角川スニーカー文庫) 価格:¥ 580(税込) 発売日:2010-10-30 |
読了。
第15回スニーカー大賞で大賞を受賞した作品。
だいぶ前に買いはしたものの積んでいたんですが、年をまたいでようやく崩しました。
で、かなり面白かったよ!!!!
や、正直あまり期待していなかったので、良い意味で意表を突かれました。同じくスニーカー大賞を受賞した『涼宮ハルヒの憂鬱』ほどの衝撃はありませんでしたが、すっごく伸びしろを感じさせる作品です。
どうしてかっていうと、『涼宮ハルヒ』がそれまでのオタク文化を作中で皮肉ることで味つけした〝メタ〟で〝邪道〟な作品だったのに対して、『子ひつじ』はどこまでも〝王道〟で〝正統派〟なラノベだったから。まあ、派手さに欠けるので大ヒットはしないと思いますけど、好きな人はすっごくハマるタイプの作品なんじゃないかなと。
この『子ひつじは迷わない』は、ザックリとひとつのジャンルに分類すると、いわゆる「日常の謎」系のお話。同系統の代表作としては、ライトノベルではないですが、創元推理文庫の北村薫さんや加納朋子さんの『空飛ぶ馬』や『ななつのこ』などのシリーズがパッと思い浮かびます。これまたザックリと説明を加えると、「日常の中で起こる何気ない謎が物語のキーになっている」、「作品に安楽椅子探偵が登場する」、「単独のエピソードが連続しているように見えて、実は全ての〝事件〟が繋がっている」等々の要素が含まれる作品ということですね。
そして話の本筋からはそれるんですが、誤解を恐れずに言うと「北村薫や加納朋子みたいな作品ってライトノベルで書いたらウケそうだよね」という話を常々友人としていたのですよ。なので、「まさに!」という感じの色を持った作品がスニーカー大賞を受賞したことに驚きました。面白かったことにも驚きました。もっと言ってしまうと、ゴチャゴチャと設定ばかり凝った作品や、流行りモノをオマージュしたような作品ばかりが並ぶ電撃系の新作に比べると、角川の底力を感じさせるチョイスになっているような気がしました。ただ単に僕の趣味に合っているだけとも言いますが。
そんなこんなで以下雑感。
・僕が個人的に考える「日常の謎」系のウィークポイントって、何よりもキャラクターを立たせるのが難しいということだったりする。というのも、ラノベに限らず推理要素の含まれた作品というのは、とかく登場人物がトリックや謎解き、物語の進行における単なる駒になりがちで、これは一般小説ならともかく、キャラクターの魅力が生命線であるライトノベルでは致命的な欠陥となるのだ。
・ぶっちゃけ『子ひつじ』も導入の二つのエピソードはそんな印象で、序盤から色々と思わせぶりなバックボーンをチラつかせてはいたものの、主人公の真一郎とヒロインの佐々原、そして安楽椅子探偵(そしてヒロインでもある)の仙波のキャラクターと関係性が薄く感じてしまい、やはりこの系統の作品をラノベ風にアレンジするのは難しいのかなあ、と思ったりもした。
・が、三話までの前振りを受け止めきった四話を読んで、この印象が一変。ちゃんとキャラは立っているし、メインキャラ同士の関係性も表裏あわせてしっかりと考えられている。それによって、あとは個人の趣味嗜好(読者がキャラクターを気に入るか、否か)の問題というところまでしっかり押し上げることができているのはスゴイ。かつ、ラノベ風に、主人公がヒロインに好意を寄せられている、というラブコメ要素も折り込んであるのがスゴイ。
・こうなってくると、気になるというか残された疑問は「どうして真一郎が仙波に好意を抱いているのか」という部分しかなく、あれだけ悪し様に扱われている相手に執着するのは、ラノベ的には疑問を挟む余地がなくとも、常識的にはオカシイ。しかし、コレも種明かししておくべきだと思う一方で、なんとなく最初はしっかり書いていたけど受賞が決まってから続刊のために敢えて残した(編集の意向で残させた)のではないかなという気もする。これだけカチッとしたプロットを立てられる作家さんが、その穴を放置するとは思えないんだよなあ。このへんの話は次巻を読むまで保留!
・唯一引っかかったのは、全体的に「通じ合っている相手だけが察することが可能」みたいなやや遠回りなやり取りや心情描写が多く、こういうのをあまり多用しすぎると鼻につくかもしれないなあという点。言葉の裏を読む必要があるシーンも少なくないので、良くも悪くも斜め読みしにくい作品だと思う。
気に入ったので続きも買ってくるという結論に至る。
ちゅうか2巻が出たの、ついこの間なのね。
ある意味読んだタイミングがよかったですねということで一つ。