神社めぐりの情熱は、ときとして蒐集熱の色合いを帯びる。
例えば、「日置神社」「倭文神社」「丹生神社」等々の式内社は全国に複数あるが、たまたま何社かを参詣しているうちに、全部、行きたくなってくる心理は、コレクションを完璧にしようとする蒐集家のそれに似ている。また、参詣する神社を決めるとき、まだネット上に情報がアップされていないような珍しい神社を選ぼうとする心理は、そのまま珍しいコインや切手を集めたがる蒐集家のそれである。もしかすると、神社マニアが山頂や離島などにある貴重な神社の画像をブログにアップする満足感は、蝶のコレクターが珍しい蝶の標本を作るときに味わうそれに比すべきかもしれない。
かく言う私も、あらゆる蒐集癖からは無縁なつもりであるが、しかし、「ワニが関係する神社」「ケタ神社」「安産祈願のために箒を奉納する神社」の3っだけは、たとえどんなに行くのに苦労する場所にあろうとも、参詣リストを完全にする労を惜しまないつもりである。
ただ、このうち「安産祈願のために箒を奉納する神社」の数は非常に少ない。「蟹守土俗再考」でも触れたとおり、管見で全国にたったの6社しかない。そして、そういうなかで先日、愛知県蒲郡市一色町に鎮座する宝喜神社に参詣してきた。
当社は事代主命を祀る神社で、『三河国神名帳』宝飯郡に登載のある「原木天神」ともされる。あるいは「宝喜(ほうき)」という社名に附会されて、安産祈願で箒を奉納する信仰が見られないかと期待して行ったのだが、完全にアテが外れた。もしも、そういう信仰があれば、境内に看板でもあって紹介されていそうだし、奉納された箒も目に付きそうだが、そういうものはなかった。ぬう、残念。
それだけのネタさ。
宝喜神社
祭神は事代主命
宝喜神社々殿
『愛知縣神社名鑑』にある由緒は次のとおり
「創建は明らかではないが、「集説」に従五位上原木天神、宝飯郡に坐すと記す。一色村のホウ木大明神はこの社か「和名抄」越後国原木(阿良木)と、一色の隣村に荒木という地あり。今宝喜神社という。明和五年(一七六八)九月の棟札に奉建立氏神拝殿とあり。天保十三年(一八四二)の物には奉再建御社とあるのみ。黒印二石を有した。明治九年、村社に列格し、昭和三年六月二日、告示第四四号以て供進社に指定された。」
・『愛知縣神社名鑑』p805