町工場 職人の声

職人と現場人間の想いを誰かに伝えたい!

小説「2023年日本転移」40話

2020年12月31日 | 小説

     40話 中間地帯上陸作戦

橘少佐が総局長に総局本部特別会議室で作戦案の説明
を終了し椅子に座った。
軍組織幹部では無いが巨大組織を作り上げ日本復興に
貢献してる人物との対面は自然に緊張して来る・・・
局長は緑茶を欠かさず飲むと聞いてるが、さて本当か。

「ふむ・・・」
立ち上がり左の小さなテーブルに用意されてるポット
から湯呑に茶を注ぎ盆を対談テーブルの中央に置いた。
「良い説明だった、茶しか無いが飲んでくれ」
茶好きは噂通りだな
「はっ、いただきます」

両手で湯呑を持ち飲む姿はまさしく老人の姿
「説明を受けた第一作戦の戦略目標は流下地域と黒山脈
の中間地帯に内海から上陸し永久根拠地建設で良いか?」
「はい」
「作戦詳細によると上陸地調査と探険建設軍輸送を同時
進行となるが・・・達成期間と輸送力の小さい点かな?」

「海上輸送力は慢性的に不足しており使用できるのは
1万t積載2隻、5000t積載4隻で貨物船6隻、これで
富山拠点、台湾、上陸予定地の3500キロの兵站路です。
少数の小型戦闘艦を作戦に使用しますが輸送量は期待薄。

よって武装探険軍少数を上陸させ海岸部の脅威を調査、
小型戦闘艦1隻を遊弋させ支援を持続し脅威を特定。
輸送船で重武装探険軍を送り上陸点を拡大し拠点化完遂。
ついで建設部隊を投入し岸壁を建設、拠点施設を建設。

海岸拠点建設は探険建設軍と陸軍の共同作戦です。
総局人員の探険建設軍参加は海岸拠点一部建設後で、
およそ作戦開始180日後。14日間の現地説明をもって
外海通路建設開始で推定建設距離は800キロ地勢は不明」

橘少佐は作戦達成を自信をもって説明したが・・・
信じるはずは無いほど現地情報に困難の要素は少ない。
これも杉原の策謀か・・・
「うむ。現時点で最適な作戦と総局も認める、当然だが
これは最重要の作戦で有り秘密管理は最高位である」
「はい、民族の・・・生存が・・・全力を尽くします」

懐から小さな封筒をテーブルに出した
「中を見たまえ・・・」
少佐はこれが何か判らない
「これは?」

「総局と探険建設軍の重要連絡は伝令による。その時に
使用する証明となる、言うならば生きているアイコンと
呼べる時間で変化を続ける動画と付帯情報の塊だ・・・
私は原理さえ判らないが偽造や盗聴はまず不可能だ」
「はっ、受領いたします」
「少佐、総局が送り出すのは若者と年寄だ、お願いする」
「はい、お引き受けいたします」

黒岩石族は長距離移動に苦しんでいた。
命風の暴風で、あんなに簡単に出来た飛行移動を出来ない。
まさかの水生物と同じ地上の地面を滑りながらの移動・・
文明生物に道路など有るはずが無い。
命風を利用しての長距離飛行は文明以前の能力なのだから。
それなのに
山や谷や断崖を地上移動・・・
むろん暴風でも一時的に飛行はできるが高度はわずか数m。
短時間で消耗し地面に着地。
数千mを上り、そして下るの繰り返しに戦士は疲労・・・
北に2100キロ・・・西南に1100キロ・・・そこが悪魔の大地。
無言の合言葉
「恐れるな、悪魔を倒せ」「進もう、進もう、山を越え」
「悪魔を倒し、子を救え」

何時もの山荘。
「杉原さん、岩石族移動から2月は立つが今は何処に居る?」
苦しげだ・・・
「判らんのだが、あの大軍勢だ・・・偵察はまずい」
「うむ・・・偵察で直接こちらに来られたら・・・」
「最悪だ、なにも出来ずに中央領域の壊滅は確実・・・」
「では、内海上空の低空偵察・・・見つけても・・・」
「そうだ、無意味だ・・・偵察を命じてるがね」

茶を飲むと落ち着く
「侵攻は千島からとした防衛体制しか出来ないな・・・」
「今から数百万を本州に動かしても戦力にはならん・・・」
「すでに600万を北海道に投入してる、無理だ・・・」
「岩石族の繁栄を見ると海を渡るのに困難は無いようだ」
「理由は?」
「幾つかの島で岩石族の死体が見つかってる、自然死だな」
「浮かぶはず無いな・・・飛行できるのか?」
「そう・・・飛行できると軍と研究所が・・・」
「飛べるなら、なぜ直接来ない?」
「判らん・・・判らんが北で迎え撃つしか手が無い・・・」

ユウマ家の総領であるユウマは仲間を率いて猟を続けていた。
5か月経てば家に帰れる、ミチに会える。
子が出来るんだ、家族の幸せ、やるぞおー
「うおうーーーー」
仕事を忘れて大声で叫んだ。
タダシも子が出来て同じ気持で叫んだ
「おうーーーー」

竹沢は仕事を抜けるので怠け者の半人前で有名。
長くても理由を付けて1か月ほどで帰港を繰り返す・・・
そんなだから集まるのは怠け者やゴロツキ。
評判は地に落ちて出世の見込みは無い。

余生老人村。
寝たきり老人12人、割れた黒石を胸に食う寝るの繰り返し。
なぜか肌に色つやが・・・
寿命最後の輝きか・・・

 

 

 

 

 

 


小説「2023年日本転移」39話

2020年12月31日 | 小説

             39話 杉原・鈴木、秘密会合

2026年12月22日。
年末の挨拶を理由に鈴木は杉原の小さな山荘を訪問していた。
山荘と言っても昔は6個の集落であり高齢化で廃墟となった山奥の行き止まり。
安定して得られる水を利用し杉原は水田を4枚維持してる。
一つを除き家の多くは潰れた廃屋であり草が生い茂り土に還るのも数年・・・
山荘は土蔵を利用しわずかに住居を追加した廃屋の見た目だ。
江戸時代の様な塗り壁で作られた塀の門を通り庭がある。

運転も要員も秘書課の女性だが名を覚えられずに鈴木は運ばれてきた、
要員が門の内側からお辞儀をした、降りてくださいの印・・・
乗ってきたのは昔なら軽のワンボックスと言われた小さな車なので
自分で開けて降り立った。
今が春か夏なら涼しくて空気も澄んで心地よいのだろうが・・・
冬の真っ最中、雪が浅く積もり木々には氷が付いている寒さ。
門から10mほど案内され山荘に入った。

「いやあ~~~ようこそ、ここでなら気楽に話を出来るのでお呼びした」
少人数の場合は杉原の態度は明るく親しみを感じさせると誰もが知るが会談
となれば気楽な話のはずは無い
「静かで良いところですねえ~」
杉原の作り笑いは芸人以上
「冬は静かすぎて凍るのですよ・・・水が氷るのは普通ですがね~」
土蔵内部の応接間、窓は無くどうみても完全防音の空調付き、電磁遮蔽も?
厚さ15センチの扉が閉じた。

作り笑いどころか表情が消えた
「我が国・・・我が国の現状は・・・絶望するほど・・・悪い・・・」
伝わる真剣さに茶を手にする事も出来ない緊張が走る
「確かに悪いが・・・食料や産業の目途はついて来たのでは?」
泣き出しそうな目をしてる杉原は初めてだ

「まず地形だが、外輪山北方は5万mを超える氷河の山脈で超えるのは不可能、
南方は複雑怪奇な内海水の膨大な流路で不可能。
東方と西方の外輪山にはエネルギー兵器を使用してる種族の存在が高い、
学者たちによれば我が国の総力で戦力を強化しても数時間で我らは消滅と言う。
海岸には黒岩石族と名を付けた個体生物が大繁殖と観察された。
特殊兵器で退ける事は出来てるが・・・破壊は出来てない、何時まで有効化も
判らん。組織が崩れれば普通の巨大凶暴生物が襲ってくる・・・」

聞いて目を閉じて考え、再び開く
「おおよそは会議で知らされてるが・・・」
「時間なのだ・・・黒岩石族の大移動は普通では無い、北方からの大攻撃・・」
驚くべき状況だ
「しかし・・・移動だけなのだろう?」
「移動してる個体を観察したところ・・・8mほどで統一されてる、戦闘集団と
学者と参謀達の意見が一致した・・・」
「北方・・・北海道・・・」
「そうだと判断された。特殊兵器も大群で襲来されたらひとたまりも無い」
「猶予は何日・・・ある?」
「黒岩石族は数を増やしてる・・・動員しながら攻勢開始点に集結中と判断だ。
軍作戦部の予測では300日以内、10月頃、遅れても12月に襲来する」

「それで・・・第二人事総局に要求は何かな?」
「逃げ道・・・逃げ道を開いて欲しい」
「逃げ道・・・作れるのか?」
「可能性は少ないが・・・黒岩石族は動員で北に移動してる。ならば・・・
南方の内海水流路と黒山脈の間を踏破し外海岸に通路を開く。絶望的・・・
成功しても外海岸に逃げ出せるのは500万以下だろう、そこが安全かも判らない」
「すると・・・探検建設隊は6月で踏破するのか・・・」
「多大な困難と犠牲は承知だ、すでに探険建設軍の総指揮官は任命してる」
「ふーむ・・・我らの探険建設隊を早急に組織する事か・・・」
「それを要望する、研究所と技術要員の選択も進んでる」

泣き出しそうなのも判る・・・
地球での困難、転移後の困難を乗り越えられたのに、来たのは絶望。
500万と言うが時間的に100万人の脱出さえ大困難が有る・・・
だが・・・外に出なければ、ここの地球生物は絶滅、人間含めて・・・
早く死んでも良い者達を選び出すしか方法は無い。
「8000人・・・8000人を派遣します」
「鈴木さん・・・外に・・・外に何人かでも逃げ出せると良いですなあ・・・」
「外は・・・外はきっと天国のような楽園ですよ」
「楽園・・・何人かは楽園で生きていけると思いましょう」
「それには国民に未来は明るいと伝えなければ・・・探険建設隊は秘密で」
「得意ですよ、食料や産業、通信や交通も発展中だから宣伝は容易い」

国民が知るのは映像で見る凶暴な大型海生生物の狩猟であり食料確保。

探険建設隊は台湾にも秘密で急速に組織された。

 

 

 

 

 

 

 


小説「2023年日本転移」38話

2020年12月31日 | 小説

            38話 橘少佐

2027年1月4日
黒山脈と黒岩石族に対し政府秘密会議で合意が形成された。
黒岩石族は生物集団であり台地上の黒岩と海岸及び海洋生物を
捕食し岩石質及び有機物の構成で頑強凶暴で集団生活を営む。
生活形態は狩猟で有り農業形態は観察されてない。
個体どうしの通信方法は不明。可能通信距離も不明。
現在の所は観察探険隊を避けた事例が在る。

航空偵察によれば黒岩と黒山脈は同質と考えられる。
上空で電磁気的物理的攻撃を電子装置に受けた事は明白であり
自然現象と敵対意識の要因が考えられる。
注目すべきは敵対意思の本体はどこか?あるいは誰か?
地球の歴史を参考にすれば狩猟民が上空に至る複雑強力な攻撃力
を持つのは疑義が在る。黒岩石族以上の種族が存在する可能性は
高いと考えられる。そのような種族の領域に安易な侵入は危険。

政府として外輪陸地に進出は慎重の上に慎重を要する。
よって友人上空偵察は無期限中止とし無人偵察は最小限とする。
外輪陸地にエネルギー兵器を運用する種族が存在と考えられる、
軍および研究所の検討によれば戦闘になった場合は日本壊滅で
ありエネルギー効果は地下30mまでの生物消滅と推測。
これは植物を含む全生物の消滅であり破滅である。

無策で過ごせる余裕は日本に無い。
世界を知る目的で外輪陸地に調査隊を送り物理的生物的調査を
必要とする。不明種族の注視を集めない為に電子機器は不採用、
調査機器と武器類も同様の配慮を要する。

エネルギー兵器攻撃に備え避難路として内海水流下地域周辺を
調査する拠点を内海岸に設け外海岸まで調査を進め通路を確保。
軍事的状況は絶望的であり避難路建設を実現しても軍作戦課の
試算によれば外海岸への避難人数は500万以下・・・


第二人事総局本部。
外は信州にしては暖かく空には白い雲・・・鳥の声も・・・
うーん・・・緑茶は良いなあ、縁側で猫がいれば・・・
ピコンの音で現実逃避は御終いだ。
「出頭のみなさまが第一会議室にそろいました」
「うん、今いく」
とは言ったが半分の茶を残すつもりは無い、貧乏くさいと言う
目つきで秘書たちが見るが価値ある物は大切なのだ。
時間が何だ・・・椅子を立ったのは1分後、長官室を出た
「さて、会議室は?」
「こちらです、先導します」
拡大に次ぐ拡大で部屋の場所さえ老人には記憶できん。
頭は以前よりはっきりしてるがやる事が多すぎる。

第一会議室の配置はいつもと同じだ。
V字型の上の位置に議長の机、参加者はV字型に着席する
議長席歩むと全員が立つ。
一礼すると全員が礼
いつも通り全員が歳よりで70歳ぐらいか?
「知り合いの方々もおられるでしょうが特技でお呼びしました」
「特技と言われても自分は剣術だが?」
「自分も剣術だが西洋古代剣術だ・・・」
「柔術だ・・・です」
「私は我流の動物柔術なんだが・・・」
「私は・・・昔古代兵器と戦術を・・・」

8名全員が呼び出された訳を知りたいようだが当然だな
「それが特技ですよ、調査隊を出すのですが隊員に伝授して
欲しいのですよ」
「基礎訓練か?自衛隊・・・日本軍で教えてるのになぜ?」
「えー軍に剣術や古代戦術の教程は無いのですよ」
「小銃と機関銃の時代に?」
「いやいや、戦車と戦闘機の時代だぞ」
「75ミリ核砲弾が作られたと10年前に聞いたぞ」
疑問の答えも無く声が途絶えた
「えー戦争では無く・・・調査隊なので護身術とお考えを」
「うむ・・・護身術なら多少役立つか・・・」
「なるほど、知らない場所に行くなら格闘術は心強いな」
「動物柔術も使う事も・・・」
納得したようだ
「沼田に調査隊訓練所が在りますのでお連れします」
全員に断る選択肢は無いようだ、格闘術は下火だったからな。
わずか30分の会議で8人が出発した。

橘技術少佐はわからぬまま作戦部36具足課の部屋に歩いた。
噂に出てくる無用の尉官、左官のゴミ捨て場・・・
まだ30だし大失敗や事故も無いのになあ。
扉の前で10秒間直立不動、ノックなどしない、開けた
「橘少佐、出頭しました」
妙な部屋だな?
制服や軍靴や軍帽は判るが・・・麦わら帽子や脚絆は?
軍足と軍手は判るが今時の軍で使うか?
あれはこん棒?昔の海軍バット・・・根性棒か・・・
正面の机に一人、右に一人、正面が課長の中佐だ
「入れ」
中佐の前に立つ
「休め」
両手を後ろに足を開いて顎を引いて中佐の言葉を待つ
「只今より橘少佐は36課に移動する、良いな」
うわ・・・何てことだ・・・
「はい!」
「よろしい、少佐の優秀さは36課にも届いてるよ、結構結構」
何が結構なんだか目がくらみそうだ・・・努力が無駄に・・・
中佐が笑った
「納得して無いな、私も36課で落ち込んだものだよ・・・」
「尋ねてもよろしいでしょうか?」
「許可する」
「他の課員はどちらに?」
「外だよ、あーーー出張と言うかだな、ここには居ない」
ため息も出ない・・・怒りが出てきて中佐を睨んだ
「自分の任務はどこでしょうか?」
馬耳東風に腹が立つ
「まあ、そう怒るな。会議ボックスに入りたまえ」
左奥に秘密会話用の会議ボックスは在るのだが必要あるのか?
座ると中佐が机から細いケーブルを引いてきて座り遮蔽を降ろす
在るのは中型モニターだけ。
真赤な色で最高国家機密の表示、専用キーボードが有効になる。
「橘少佐、作戦行動に必要な情報を記憶したまえ、話は後だ」
橘少佐は一人残された
「・・・」

少佐が出たのは6時間後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


小説「2023年日本転移」37話

2020年12月31日 | 小説

            37話 第二人事局北海道局長

第二人事局北海道局長、吉田はどう対応するかを4日迷った。
家体制の集団・・・特に北見集団で家同士の反目が酷い・・・
政治的に分ければ持続的な規約派とその場暴力派。
約束や法律と事態発生に支配力で対処の違いともいえる。
平和で安定した北海道なら約束と規約を広めるべきだが・・・
日本全体がまだまだ安定には遠い、特に北海道の資材回収は
もともとの質や量が少なかった上に野生動物の凶暴化により
混乱は収まらず重要拠点に力を投入しようやく地域を保全。

この状況では規約より暴力こそ価値は高い。
といって暴力が力を持てば規約を滅ぼし広域組織は消える。
北見か・・・
ユウマ家と竹沢家の反目は強まり他家も両勢力に付いてる。
両家とも有力な軍事能力を持つ。
黒岩石族には竹やりに過ぎない武装とユウマと竹沢は知らない、
若いから規約を選んでも武装で心は舞い上がってるだろう・・・
対処を間違えれば政治的暴力的大混乱の発生に至る。

すでに反目を超える対立に近い。
難しいのは北海道全域で同じような反目対立問題が在る事。
局の部下達が解消対策を出せない事・・・
うーむ、どうにもならん。
大変動前は農機修理工場とジャガイモ農家の経営者、
組織内部の派閥対立解消法や防止法を全く知らない。
機械とジャガイモに反目や対立問題は無かった・・・
しかも今は初期と違い数千人が反目してる。
どうやって解消し防止すれば良いのだろう?

2日眠れず不眠病かと恐怖した。
これではいかん。対処をあきらめて総局長に指示を仰ごう。

第二人事総局本部。
左側長机を占める旧式だが新品の中型モニター2台を眺め感慨に
耽る、旧式とはいえようやく量産を実現した・・・
光ケーブルで北海道や四国や九州に大量通信も確立。
第一優先の食料生産も農場整備と肥料工場、農薬工場増強により
収量は増え続けてる。1年だ、あと1年あれば食料は充足する。
暗雲は・・・黒岩石族の侵攻・・・来襲されたら絶望だ・・・
通信確立。だから・・・せめて逃げる道を・・・
杉原の指導で大勢の飢え死にという恐怖は避ける事が出来た。
人生終了の底辺老人が役に立った、これ程の満足は初めてだ・。

モニターに優先通信の大きな赤い表示と鋭い警告音が出た。
鈴木の脳は瞬間的に覚醒した。
初めての優先通信、重大事態に息が止まった。
通信専用キーボードのキーを打つ。

北海道局長、吉田の執務室映像・・・
瞬間的応答に吉田が固まる
「い、急ぎの報告が、有りまして・・・」
局内報告なら軍事では無いな、襲来の緊急では無い、一安心だ。
「しばらくですね、文書にしがたい事ですね?」
「文書は・・・まずいのです・・・」

頷いた、局長の会話は文書にそぐわない
「秘匿通信稼働は有り難いですね、安心して話せますからねえ」
「実はどう対処すれば良いのか迷う案件が有りまして・・・」
「ふーむ、迷いますか・・・」
「総局長もご存知でしょうが私は・・・人間関係は苦手で・・」
「ああ、人間関係は誰でも難しい。杉原総理もこぼす時が・・」
いくらか気楽になった感じで話し始めた
「実は、家集団の行動を規約で決めようと言う者達と・・・
その場の出来る事つまり力で決めようという反目と対立が・・」
頷いた
「予想されていたし軽い対立は常識と言えるほど多い・・・
連絡されたのは重大で深刻な事態に進みそうという・・・」
「その通りです。おそらく1年以内に暴力の応酬に・・・」

「まずいですね。こちらでも考えましょう」
「ありがたい!お願いいたします」
「北海道は難しくて重要な地域、無益な損害は出せませんよ」
「どうか、よろしく・・・」
連絡するまで何日も苦しんだのだろう・・・やつれてる。
「考えを纏めてこちらから連絡しましょう」
「お待ちしております、では・・・」

右の茶棚で茶を入れようと腰を浮かせてから思いだした。
(そうだった・・・総局長が自分で茶を入れるのはよろしく無い
と大勢の部下たちに要求され茶棚を無くしたんだ・・・)
内部キーボードで飲食管理のボタンを押した
「いつもの茶を頼む」
「お持ちいたします」
局長用の小さなくつろぎ空間でゆったり座って待つ事1分。
秘書の一人が運んできた、30ぐらいかな・・・
一人分の茶を運んでくるのに若い者を選んでるのか。
(まあ訪問して来る年寄連中には緊張するか・・・)

茶は良い・・・自殺したくなる貧乏も茶で超えたようなものだ。
さて、対立問題は全国で起きている。
犯罪者として罪を課す余裕など日本には無い。
こんな事で杉原総理に仕事を増やせない・・・
罪では無く、当事者を日本から居なくすれば解決できる、
解決できなくても影響を小さく出来るし損害を秘密にも・・・

翌日、作戦課に秘密動員準備の総局長命令が出た。
対立問題の首魁集団を全国規模で調査し同時動員を可能とせよ。
猶予は2027年2月1日。

 

 

 

 

 

 

 

 


小説「2023年日本転移」36話

2020年12月31日 | 小説

               36話 ドザドグ大文明

日本はもちろん黒岩石族でさえ何も知らない大文明が黒山脈の
山中深くに1400万年に渡り発展を続けていた。
真紅岩族と呼び合う半球形で3~30mの完全岩石族。
身体構造に有機物は全く無い、黒岩石と命風結晶でできている。
命風を自在に結晶化し利用する体であり文明だ。

文明初期は命風で意思疎通していたが自然の真紅結晶発見と
理解により真紅風理論と技術は急速に進捗し文明の根幹が実現。
1000万年の昔から真紅族は真紅通信を大規模に使用した結果
500万年以前に体は黒を超えて真っ赤と変わり真紅に到達。

増殖は単体分裂であり2個の1m幼体を分離し1センチの真紅結晶
多数に老いた体は変化し命を終える。
歴史と死の集積が真紅谷を作り真紅風が柔らかく吹き上がる。
真紅族の大部分は黒山脈の洞窟を好む。

生きる糧は命風と真紅風であり文明はそれからすべてを得てる。
地上に出てるのは自然主義者や任務で出てる観察体。
観察体は12m半球だが体表に10センチの遠隔観察球を多数持つ。
観察体の遠隔操作で空中、海中、地中でさえ移動し通信する。
はるか高空に2個在る月は偉大な観察体が大昔に集団で持上げた
遠隔観察球であることは真紅族の常識だ。 

世界の表面を詳細に観察できるのは当然で普通なので今では
誰一人通信を受けようとしない。命風が吹くのは黒島だけであり
文明を築いたのも真紅族だけなのは300万年の常識。
内海の岩石族は体に有機物を持つ生物として未熟な野蛮族だ。
水生物でさえ僅かに命風を吸収し命の終わりに未熟結晶を残す。
命風吸収能力が低い野蛮族は水生物の未熟結晶で体を補う。

観察体は任務に就いたばかりで1万年さえ過ぎてない・・・
2個の月から受信し命風を記録し真紅風に注意する変化ない日々。
時々思うのは偉大な観察体が大勢で巨大観察球を空に持ち上げた
理由だ、何度も考えたが理由の欠片さえ判らない。
表面を詳細に観察できるのは判るが何の役に立つのだろう?
洞窟を1個増やす方が有意義では?
自問自答に答えは無い・・・ため息に相当する灰色の風が出た。

ん?
月の受信と命風に変化が在る。
命風の変化が野蛮族の移動を起したのか?
意識が緊張して行く、これは思考体と調整体に知らせる事態だ、

 

 

 


小説「2023年日本転移」35話

2020年12月31日 | 小説

          35話 2026年12月20日

杉原は拡大会議で一安心していた。

偵察を重ねた事で内海の状況が判明してきた。
東西200キロ南北7500キロの大体楕円形で海面は外海より1500m
高い。南西と南東の広い範囲から大量の海水が流れ落ちてる。
そこ以外は外海より高度9000~14000mに山脈が続く。
内海周囲は多数の島が存在し空を除いて100m超える動物が多種
存在してる。陸地は大型動物は少ない。
植物は島の方が繁栄してるように見える。陸観察は不十分だ。
海洋大型動物の繁殖力は大きくて地球常識を大きく超えてる。
狩猟続けても資源枯渇は無いと考えられる。
島に黒い岩石動物は居ない。
黒岩石族は海岸から山脈の間が生活圏と観察された。

誰一人知らない事だが水生物は日本転移以前は6mが最大級だった
が転移後に急速な巨大化により10~30倍の大きさを得た。
体内に存在した毛細血管の様な命風通路が巨大化を防いだから。
生物としての強度は小さい時の方が数十倍強かった。
黒岩石族から見れば水生物の強度は変わらず問題外に弱い。

偵察機損傷は高度で無く不規則に起きる事が判明した。
統計的に内海高度3000以上で数は増えると観察された。
原因は電磁気だけでなく物理的外力も時により作用と判明。
山脈や谷の偵察は細心の注意と高度な戦略判断を要すと結論。
外輪山の外周偵察は完全に停止。
偵察部隊に対して内海上空と南方海水流路の偵察優先を指令。
南東の流路と山脈の間に低木から大森林の連続を確認。

「総理として、いつもの現状確認から始める、偵察はどうか?」
「軍として偵察に変更は無い、手元資料の通りだ」
「ふむ、ようやく安定した観察を得たな、任務に感謝する」
軍代表の数人の顔が明るくなった。
「黒岩石族の研究はいかがか?」
持参資料を手に持つが震えてる
「・・・えー何と言いますか・・・調べて判明したのは岩石と
有機物の集合体と言いますか・・・」

空軍が噛みついた
「集合体?明確に説明願いたい!」
ビクンとした拍子に資料を落とし慌てて拾う
「えー集合体と言いましたが85%は岩石でして残りが多種多様の
タンパク系有機物・・・で・・・有りまして・・・」
海軍が睨んだ
「判りやすく願いたい!構造は判明したのか?」
「えーーー単純な見かけの構造は判りましたが機能は不明で」
陸軍が口を開きかけたが総理が制した
「単純で良いので説明を聞きたい」
「黒岩石族ですが、個体部が岩石で可動部が有機物で出来ており
まして触手に関しては内部が有機物で外側が岩石の鱗・・・
まあ、蛇の皮みたいな構造であります・・・」

研究所代表以外の全員が首を傾げた。
総理が疑問を尋ねる
「岩石と言うが内臓はどうなってるのか?」
「単純に言いますと口の様な開閉できる穴がありまして・・・
内部は単純な空間で周りから先端に岩石の付いた多数の触手に
よりすり潰し完全吸収すると考えます、完全能力の胃腸であり
出口は不要という事です・・・」

陸軍が発言した
「尋ねるが、脳とか筋肉とか感覚器官は判明したのか?」
発言意図は全員が理解した、弱点が判れば!
「えーーー研究に力を尽くしておりますが・・・不明です。
神経系統も脳の有無もエネルギー系統も不明です・・・
しかし生物構造で有る事は研究員全員が一致しております」
空軍が怒鳴った
「なにが生物構造だ!動き回って爆弾が通用しないのは始めから
判ってるんだ!弱点だ、弱点はどこなんだ!」

「総理としての考えだが、黒岩石族を無視して良いのでは?」
「空軍として無視と言うのは・・・納得が・・・」
「むろん多大の犠牲と労力の意味を忘れたりはしないが・・・
現状で黒岩石族の活動は低調で状況に変化は無い」
食料大臣が珍しく発言
「海洋狩猟で食料確保しておりますが農業生産確立は遠い・・
将来の脅威は重大ではありますが現在は農産に注力願いたい」
軍代表達は不満げだが発言を止めた。

杉原は考えを述べても良い時期と想いを決めた。
「第一の優先は農産確保としたい。第二が海洋狩猟。
黒岩石族の脅威は重大であり日本民族滅亡も充分有り得る!
本土防衛は・・・全戦力投入しても実現は絶望だ・・・
逃げられなくても逃げ道を用意する努力は政府の責務だ。

そこで・・・
南方流路と山脈の間に在る地帯を偵察しながら外海岸まで通路
を開く。航空偵察によれば低木で地形変化も他よりは少ない。
戦闘を出来る柔軟な指揮を経験した小部隊の地上偵察隊。
第三として内外通路建設を提案したい。」
軍代表の機嫌が良くなった
「脅威に対応する案として賛成する!」
全員が賛成した。研究所まで賛成したのは外海に対する興味か?


黒岩石族は史上空前の大動員と移動準備を進めていた。
大呪術師によれば命風暴風もようやく北方でわずかに弱まった。
拡大大族長会議で進撃は北の悪魔大地からと決定された。
東黒岩石族6万が北への移動準備を整えた。

谷岩石族800万が命風暴風を防ぎつつ北山脈の谷に集結を始めた。
先行研究部隊が秘密裏に水生物を捉え海上輸送の実験を進めた。
悪魔の谷を岩石族800万の死と引き換えにわずかな活路を開く!
黒岩石戦士と家族や親せきは100%の別れに体表がひび割れた。

東黒岩石族の残り6万は悪魔の谷弱体化の一瞬に東から突撃し
悪魔の谷から赤ちゃん3人を助け出す決意で燃えた。
たとえ黒岩石族全滅でも赤ちゃん3人を助け出し故郷に帰る。
赤ちゃんに将来は無くても黒岩石族の暮らしを与えるのだ。
1000万年の黒岩石族文明が滅びるのは100%・・・
生存者が居たとしても幼くて文明を維持できず海岸の野生動物
の様に成るだろう・・・悪魔の谷から水生物が来れば動物も
植物も全滅して荒野となるのだ・・・絶望は巨大で深い。


ユウマとタダシは互いに子が生まれる喜びを持って海洋狩猟に
赴いていた。もうずいぶん慣れて不安は無い熟練の狩猟師。
獲物は豊富、港に帰れば大漁に感謝され喜ばれた。
順風満帆とはこういう事だ。

少し気になるのは集団略奪で生き延びた連中の竹沢家・・・
生存者からの略奪を繰り返し強姦も平気、なのに生き延びた。
収容所に入ったのは16人ぐらいでユウマ家と同じ規模。
竹沢良雄の暴力で維持されてる集団。
竹沢にまで銃器や物資を支給してる政府・・・
北見の集まりでも気が合わない悪人たち。
要領も良い・・・商売は酒場と海洋狩猟で形は出来てる。

 

特別高齢者の12人。
看護婦が叫んだ
「まあ、大変!おじいちゃん達の黒石が割れてる・・・」
「ほんとだ・・・どうしよう?」
「3個とも割れてるよ」
「ねえ・・・4個に割れてるよね」
「うん、そうね」
「ということはさあ・・・12個なんだからあ・・・」
「あっそうかあ・・・爺ちゃん達と同じだよねえ」
「ねえねえ、袋を編んでさあ、お守りに上げようよ」
「それ良いわね、爺ちゃん達この黒石大好きだもんね」
黒石首飾りは爺ちゃん達の胸に置かれた
「うーーーうーーー」それは喜びの声。

 

 

 

 

 

 

 


小説「2023年日本転移」34話

2020年12月31日 | 小説

     34話 幸せな暮らし

2026年5月15日。北海道北見。
数か月ぶりの怪物猟一斉休止で大勢が領地や町に戻っていた。
ユウマとミチも互いの愛を確かめ合って1週間。
領地運営は順調、護衛要員も増えて2か月前に部隊に組織した、
13人で分隊、小隊は4個分隊、中隊は6個小隊、擲弾分隊2個、
自走重機関銃分隊2個、25ミリ自走対空機関砲分隊2個、75自走砲4両、中隊偵察分隊2個、中隊司令部分隊2個、通信隊、補給隊、
整備隊、衛生隊、主計隊、各種車両・・・
1個中隊の規模であるのに人数は700名、対怪物戦闘は重戦闘。

どういう訳か中央領域に武装強化と部隊化を要求したら質問無し
に許可と装備が届き始めたと聞いてユウマは考え込んだ・・・
危機とはいっても軍隊並みの武器、まだ混乱中なのにどうして
支給してきたのか?
治安維持や護衛なら重装備はおかしい。
外海岸の怪物が押し寄せてくるならこの武器でも不足だ。
別の場所に訓練用地を得られるなら規模拡大に不平は無い。

人数は増えたが怪物猟と護衛で収入は充分、中隊訓練も順調だ。
素人農場も順調・・・陸の怪物も活動は低いと発表された。
2か月は帰れない苦しい怪物猟を選んで良かった。
きっと幸せが来ると感じる・・・

16日。
ミチが夕食後の茶を飲み終えて見つめてきた
「あのね・・・出来たの・・・今3か月」
体が固まった
「そうか・・・うん・・・そうか」
「そうか・・だけ?」
「う、うれしいさ・・・」
「それ、うれしい顔?」
「うれしいけど、いきなりだから・・・」
「うん、なんか変な感じだよね、お父さんとお母さんかあ」
「丈夫ならどっちでも良いよ」
「うん・・・」
抱き合って静かに眠るのがこれほど幸せなのだと二人で感じた。

 

 

 

 

 

 


小説「2023年日本転移」33話

2020年12月31日 | 小説

            33話 パニックの谷族

山裾から海岸に繁栄する東族とは別に谷や盆地を居住地としている谷族が
困惑から恐怖に変わりつつ有った。穏やかな命風が強さを増し続け暴風と
言える強さが何十日も続いた経験や伝承は一つも無いのだから・・・
暴風は山を下り谷や盆地で数倍の暴風となり海に消えていく。
東族領域から60キロ内陸、山脈の谷に偵察決死隊100名が集結した。
谷だけでなく山脈部族の大部分が偵察に賛同し実現。
北の大呪術師テンカ、氷河の大仙人キルカ、北大洞窟のトルイ、
黒湖の呪術師スイカ、南の大魔術師ホルイ、南大洞窟のホミル、赤胡のカミル
、無言の大仙人も偵察隊に参加し各地の谷と盆地と集落の呪術師と戦士達。
隊長は無言の大仙人タルカ。副隊長は大戦士ダンガル。

暴風の谷を進む盾となる志願した戦士2000名が決死隊を山裾まで守るのだ。
肉壁となりわが身の命で命風の暴風を大きく遮る。
どれほど消耗するか長老たちにさえ判らない・・・死人も出るだろう。
2026年6月1日、2100名が進発!
6月15日、谷の出口に到達、複合大呪術が始まった。
内海の全域を網羅する詳細感知呪術であり命がけの複合方式。
6月20日、大呪術師を含む呪術師全員が気絶した・・・
21日、大仙人タルカが目覚めた
「恐ろしい・・・世界の絶望だ・・・我らは一人残らず滅びる定め・・・
内海の真ん中に悪魔の土地が生まれた・・・命風はそこに消えてる。
2000万年続いてきた生物のすべてが滅びてしまう・・・
恐ろしいのはその土地に多数の水生物が生きてる事だ」

「そんな!俺達でも死んでしまう命風の暴風だぞ!
水生物が生きれるはず無い」
「普通の水生物では無いのだよ・・・恐ろしいと言うのは・・・
水生物が命風の暴風を平気で吸収してる事だ・・・」
「馬鹿な!俺たちでさえ吸収できる強さを超えてるのに・・・」
「土地だけではない水生物さえ命風を吸い込んでる・・・
歴史空前の大怪物だ!やつらが山や谷に押し寄せてきたら?」
「・・・俺たちの命も吸い出される・・・」
「だから言うのだ・・・世界の絶望と」
「どうしよう?」
「どうすれば良いんだ」
「俺達の命は命風に削られ空を飛ぶ事さえ出来なくなってる・・・」
「海を超える手立ては無いよ・・・」
うなだれていたタルカが青く発光し発言を制した

「どなたかな?命風の暴風をついて術を通すのは?」
「東族の大呪術師マイサの弟子、キルン。悪魔の谷撃滅の参加を求めてる」
「キルンに尋ねれる、悪魔の谷は判るが、撃滅とは?方法が在るのか?」
「はるかな伝承に撃滅の方法は在る!」
「おお、おお・・・我らに希望が在るのだな・・・方法は?」
「伝承では戦士が一丸となり最大速度で突撃し悪魔岩を砕いたと在る」
「・・・何人の戦士が・・・」
「数千人が突撃し全員が・・・死んだ。種族の生き残りはわずか・・・」
「・・・陸地は広いぞ・・・」
「勝算が無くても東族は突撃する!無抵抗で滅びてたまるか!」
「若いのだな・・・谷族の長老たちに伝えよう・・・東族の勇気を」
「待っている、たとえ一人の戦士でも歓迎する!」

「大仙人タルカ、何かの連絡が?」
「来たとも!東族は全戦士が突撃し悪魔を滅ぼす考えだ」
「悪魔を滅ぼす・・・そっま事・・・出来るのか?」
「東族の伝承に悪魔の岩を滅ぼした話が在るそうだ・・・」
「滅ぼせたのか!」
「そう伝えてきたよ・・・戦士に勇気が必要と言ってたが」
「勇気なら負けないぞ!」
「そうだとも!突撃で滅ぼせるなら死など恐れない!」
「谷へ帰ろう、伝えなければな」
2026年7月29日、谷へ帰還。
命風で死んだ者40、意識不明63。
偵察は大成功。
山脈全域に広く住む谷族に呼びかけが広がる

・・・世界を救う悪魔討伐に勇気ある戦士を求む・・・

(我が大仙人タルカ?ただの嘘つきじゃ・・・)
(単なる願望でも・・・絶望よりは良いからの・・・)


やがて悪魔の恐怖が世界に認識され大軍勢が作られた。
谷族戦士含む1200万が東族と共闘し悪魔撃滅に突撃する準備が進んだ。

 

 

 


小説「2023年日本転移」32話

2020年12月31日 | 小説

             32話 避難洞窟2

族長、呪術師、大戦士の前で地上偵察隊の6人が身動きせずに報告していた。
互いの姿をかろうじて判別できる暗闇に近い洞窟に広場と言える広い空間が
あり完全な100m球形だった。
地下に向かう6本の洞窟から命風が暴風と言える勢いで噴出している。
絶対に必要な命風だが、これほど多いと体を動かせずやがて死んでしまう。
水平に伸びる12本の洞窟に避難民が座り込み動きを止め報告に耳を澄ました。
族長の白い首飾りが動いた
「それで出られそうか?」
「山脈や沿岸から命風が強風となり内海に向かい吹いてます・・・
地上から命が吸い出されてるのかも?我らの体からも命が・・・」
呪術師の腰から白石のいくつかが落ちた
「なんと・・・おお、なんという事だ!古き伝承、命の奈落・・悪魔の谷!」
大戦士含めて全員が呪術師を見た
「悪魔の谷・・・」
子供の頃より何度も聞かされた種族全滅の危機となった悪魔の谷、それは
命風を吸い込み続け、やがて種族の体から生命を吸い出すという大悪魔。
それが自然現象なのか意志ある存在かは判らないが種族最大の恐怖であり脅威。
部族だけでなく東族の危機、いや西族含め全生物の破滅の危機・・・
わららが滅びれば海や陸に住む水生物など一瞬で消える。

「呪術で詳細は判るか?」
「無理だ族長、命風の乱れで知るのが呪術だが、命風の大部分が吸われ消える」
「では詳細で無く、大領域呪術を使えるか?」
大領域呪術の言葉に避難民全員が息を止めた・・・
「・・・うむ・・・一度なら単独で使えるだろう」
「無理を頼みたい」
「私も歳だ、良かろう・・・後は弟子に任せよう」

呪術師の白い石すべてが浮き上がり頭上で渦巻、命風を呼び寄せ体内に
向きを整え、すべてが呪術師に吸い込まれ続けた。
地上で見る太陽が3周した頃、命風の吸収は止まり体が赤く輝いた。
暗闇の広い空間は眩しい閃光に満たされ太陽1周を過ぎ呪術師の石は落下した。
闇に戻った静かな空間にうめき声が響いた
「うーーーむむ・・・恐ろしい奈落、悪魔の谷だ!海の真ん中の広い陸地・・・
そここそが悪魔の谷だ!あれ程の命風の暴風をすべて飲み込んでいる、
全ての命を吸われてしまう。海の3ぶんの1程も有る広さ・・・
だが赤ちゃんは谷に生きてる。ああーーー世界の終わりだ・・・」
呪術師は気絶した。大呪術は長い、長い眠りをもたらす事は必然・・・

族長は言葉を失った、なんという事だ・・・どうしようも無い。
伝承に在る悪魔の谷は体10個の岩だ、戦士4000名が岩に突撃し粉砕により
かろうじて種族は生き延びた。その生存者は220名・・・
絶望が空間を支配した。
それを絶叫が破った
「いやよ、絶対に生きてる!あかちゃん、赤ちゃん、私の赤ちゃん!」
狂ったように叫び続ける声は続いた。

族長は考え始めた、何かをしなければ命を吸われる前に絶望で種族は死ぬ。
「風が、風が弱くなったら赤ちゃんを救いだそう!種族の赤ちゃんを!」
大戦士とは以心伝心
「そうだ!悪魔の谷がなんだ!戦士なら死を恐れるな、全滅しても戦うのが
戦士だ!東族、いや西族と連合してでも谷を埋め、赤ちゃんを救おう!」
「だが、どうやって救う?」
「伝承では吸い込むのが弱くなったので突撃した!吸い込みは弱くなる!」
族長が見回してから静かに言葉を出した
「命風の強弱に注目する、呪術で全種族と連絡を取る、呪術で詳細を知る。
全戦士が水生物に乗って海を渡り・・・悪魔の谷に突撃し決死隊が救出する」

やがて東族120000が団結し絶望を胸に悪魔の谷への突撃を覚悟した。

 

 

 

 


小説「2023年日本転移」31話

2020年12月31日 | 小説

             31話 第101航空団第1爆撃隊

大災害で壊滅した仙台空港で新開発の双発爆撃機60機が爆撃訓練を重ねていた。
モスキート戦闘爆撃機を少し大きくしたもので航空用ディーゼルエンジン。
搭載量は2.4トンであり1トン爆弾2発を積む。
照準器は完全光学式であり計算は機械と光学を複合した全機械式照準器。
機体は竹とベニア板と強化ダンボールで作られてる。
限界高度は12000mで地球なら5500mに相当する。
設計巡航高度は6000m、水平爆撃1800m最大速度は高度8000mで時速670キロ。
通信は飛行灯の点滅通信で色と感覚で伝達。
操縦系と爆撃操作は全て人力か機械式で電機や油圧は無い。
爆弾だけで機体に武装は全く無いのだ・・・
爆弾も無誘導爆弾であり水平爆撃の命中率は?

小隊は10機で編成され乗員は40名。30機で1個中隊を構成。
2個中隊が日替わりで猛訓練に励んでいた。
待機日の第二中隊長が離陸していく轟音が過ぎた後、滑走路の側で独り言
「まさかプロペラ機の時代とはな・・・電子装置が無力・・・敵は強大だ!」
「レーザーも鉄鋼爆弾も対戦車砲弾も無効と聞いたが・・・1トン爆弾も・・」