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小説「2023年日本転移」32話

2020年12月31日 | 小説

             32話 避難洞窟2

族長、呪術師、大戦士の前で地上偵察隊の6人が身動きせずに報告していた。
互いの姿をかろうじて判別できる暗闇に近い洞窟に広場と言える広い空間が
あり完全な100m球形だった。
地下に向かう6本の洞窟から命風が暴風と言える勢いで噴出している。
絶対に必要な命風だが、これほど多いと体を動かせずやがて死んでしまう。
水平に伸びる12本の洞窟に避難民が座り込み動きを止め報告に耳を澄ました。
族長の白い首飾りが動いた
「それで出られそうか?」
「山脈や沿岸から命風が強風となり内海に向かい吹いてます・・・
地上から命が吸い出されてるのかも?我らの体からも命が・・・」
呪術師の腰から白石のいくつかが落ちた
「なんと・・・おお、なんという事だ!古き伝承、命の奈落・・悪魔の谷!」
大戦士含めて全員が呪術師を見た
「悪魔の谷・・・」
子供の頃より何度も聞かされた種族全滅の危機となった悪魔の谷、それは
命風を吸い込み続け、やがて種族の体から生命を吸い出すという大悪魔。
それが自然現象なのか意志ある存在かは判らないが種族最大の恐怖であり脅威。
部族だけでなく東族の危機、いや西族含め全生物の破滅の危機・・・
わららが滅びれば海や陸に住む水生物など一瞬で消える。

「呪術で詳細は判るか?」
「無理だ族長、命風の乱れで知るのが呪術だが、命風の大部分が吸われ消える」
「では詳細で無く、大領域呪術を使えるか?」
大領域呪術の言葉に避難民全員が息を止めた・・・
「・・・うむ・・・一度なら単独で使えるだろう」
「無理を頼みたい」
「私も歳だ、良かろう・・・後は弟子に任せよう」

呪術師の白い石すべてが浮き上がり頭上で渦巻、命風を呼び寄せ体内に
向きを整え、すべてが呪術師に吸い込まれ続けた。
地上で見る太陽が3周した頃、命風の吸収は止まり体が赤く輝いた。
暗闇の広い空間は眩しい閃光に満たされ太陽1周を過ぎ呪術師の石は落下した。
闇に戻った静かな空間にうめき声が響いた
「うーーーむむ・・・恐ろしい奈落、悪魔の谷だ!海の真ん中の広い陸地・・・
そここそが悪魔の谷だ!あれ程の命風の暴風をすべて飲み込んでいる、
全ての命を吸われてしまう。海の3ぶんの1程も有る広さ・・・
だが赤ちゃんは谷に生きてる。ああーーー世界の終わりだ・・・」
呪術師は気絶した。大呪術は長い、長い眠りをもたらす事は必然・・・

族長は言葉を失った、なんという事だ・・・どうしようも無い。
伝承に在る悪魔の谷は体10個の岩だ、戦士4000名が岩に突撃し粉砕により
かろうじて種族は生き延びた。その生存者は220名・・・
絶望が空間を支配した。
それを絶叫が破った
「いやよ、絶対に生きてる!あかちゃん、赤ちゃん、私の赤ちゃん!」
狂ったように叫び続ける声は続いた。

族長は考え始めた、何かをしなければ命を吸われる前に絶望で種族は死ぬ。
「風が、風が弱くなったら赤ちゃんを救いだそう!種族の赤ちゃんを!」
大戦士とは以心伝心
「そうだ!悪魔の谷がなんだ!戦士なら死を恐れるな、全滅しても戦うのが
戦士だ!東族、いや西族と連合してでも谷を埋め、赤ちゃんを救おう!」
「だが、どうやって救う?」
「伝承では吸い込むのが弱くなったので突撃した!吸い込みは弱くなる!」
族長が見回してから静かに言葉を出した
「命風の強弱に注目する、呪術で全種族と連絡を取る、呪術で詳細を知る。
全戦士が水生物に乗って海を渡り・・・悪魔の谷に突撃し決死隊が救出する」

やがて東族120000が団結し絶望を胸に悪魔の谷への突撃を覚悟した。

 

 

 

 


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