ラパロスコピストの夢

大阪梅田で子宮内膜症と闘うラパロスコピストのblog
子宮内膜症、子宮筋腫に対する腹腔鏡下手術はどこまで進歩できるか?

はじめにお読みください

健保連大阪中央病院に勤務するラパロスコピスト(腹腔鏡術者)のブログです。婦人科腹腔鏡下手術、子宮内膜症、慢性骨盤痛等の治療を専門としています。

このブログでは腹腔鏡下手術、子宮内膜症、子宮筋腫に関する基本的な事柄については解説していません。まず、下記のウェブサイトをご覧になることをお勧めします。
日本子宮内膜症協会
子宮筋腫・内膜症体験者の会 たんぽぽ

手術を希望される方はこちらをご覧ください。

医療相談、ご質問にはお答えしませんのでご了承ください。

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Q&A「子宮内膜症手術に対する術前GnRHaの投与」

2006-12-07 | Q&A
★質問
はじめまして、お忙しい所失礼します。
○○県内の総合病院で腹腔鏡手術をしようと思っています。

腹腔鏡手術の前に癒着している病巣を剥がれやすくするためにGnRHアゴニストの「ゾラデックス」の注射をするのは、よく行われる治療法なのでしょうか?副作用の強い薬と言う事は認識してますので、いざ使うとなると躊躇しています。

私は3○歳独身です。出産経験はありません。
症状として、生理痛があり、特に1,2日目。鎮痛剤を1回飲めば痛みは緩和されます。性交痛もあります。臨床診断で子宮内膜症(チョコレートのう胞)4期と診断されています。左右5cmほどチョコがある。(セカンドオピニオンを聞いた病院では片方は8cmと言われました。)

4、5年前に初めて子宮内膜症と診断されスプレキュア点鼻薬を1クール使いました。その時に、副作用が少しでました。1クール終わった時点で内膜症は小さくなっているとのことで、その病院には行かなくなり、今年○月に行った病院で、卵巣が腫れていると言われました。それ以降2、3件の病院でセカンドオピニオンを聞き、「3○歳以上でこの程度卵巣が腫れていると癌化することがある」と聞いたので、手術をしようと思っています。
現在通っている病院で手術を申し込んだところ、ここではあまりにも腹腔鏡手術が殺到している為、今は手術を今は受付できないとの事。○月まで予約でいっぱいらしいのです。(○月以降の予定は未定)「どちらにしても、すぐには手術できないので、その間にゾラデックスで4ヶ月ほど生理を止めましょう。」と言われ、次回の生理(来週中には始まる予定)を待っている所です。

ご回答頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。

★回答
GnRHaの術前投与は日本国内では比較的よく行われています。(子宮内膜症に対するGnRHaの術前投与の有用性が認められているわけではありません。)

子宮や卵巣の血流が少なくなるために、剥離操作による出血が少なくなるとか、術後の癒着が軽くなると言われています。また、月経を止めることで、手術までにチョコレート嚢胞が破裂することは予防できるかもしれません。

しかしながら、GnRHaを投与することにより子宮内膜症病変が小さくなり(あるいは一時的に消失する)、小さな病変を見逃してしまう可能性も指摘されています。また、子宮内膜症病変が萎縮するためにかえって癒着剥離がしにくくなるという医師もいます。

卵巣チョコレート嚢胞を核出するだけであれば、GnRHaを使おうと使うまいと結果はあまり変わらないかもしれません。しかし、骨盤痛や月経痛がひどい場合には、原因となる子宮内膜症病変が小さくなり、手術時に見逃してしまい術後に再度出てくるということがありえます。(とくに腹膜病変)

そこで私個人としては、子宮内膜症手術時のGnRHaの術前投与はおおむね以下の場合2-3ヶ月間投与しています。
1.月経痛、骨盤痛などの疼痛が我慢できず、手術日まで待てない。(もしくはチョコの破裂を予防したい)
2.子宮腺筋症、子宮筋腫などが大きくて、腹腔内のスペースが小さくなり手術が困難になる可能性がある。
3.チョコレート嚢胞が大きかったり、多房性であったりして、手術時の出血が多くなることが予想される。

子宮内膜症以外では子宮筋腫の術前にもよく使われますが、筋腫が小さく、子宮の血流も少なくなるために出血が少なくなり術後癒着も軽くなると考えています。(しかし、これも筋腫が小さくなり、ごく小さな筋腫は見逃す可能性もあり。また、筋腫が核出しにくくなることがある。)

結局は、これらの利点と欠点を考えて、術者の好み(と技量)で決めることになります。術前に一回だけというのもあれば、ルーチンに6ヶ月間としている施設もあります。

私個人としては、両側5cmのチョコ核出と癒着剥離ということだけであれば、わざわざGnRHaを使うほどでもないと思います。

※ご相談に対する回答は個人情報を削除した上で、メールマガジンやブログで紹介させていただくことがあります。ブログのコメントでのご質問、匿名のメールには回答いたしませんのでご了承ください。
コメント (1)
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