特殊相対性理論・電磁気学・数学

物理の暗黒面や面白い問題など。

不思議なベクトル解析の公式について

2019-03-04 22:44:24 | 解析(ベクトル解析)

0. はじめに

 ベクトル解析の公式はグリーンの定理に始まって、ストークスの定理、ガウスの定理が定番
 である。しかし、次のような不思議な公式が時々見かけるが、証明は無く違和感を持っていた。

 あるサイトで、1つの公式の簡明な証明が載っていた。その手法を使うと、これらの 公式の
 証明ができることに気が付いた。赤文字の式は証明も載っているよく知られた一般的な公式
 である。

1. 部分積分の公式

   ∫(∇f)g・dr= [fg](r=rsre) - ∫f∇g・dr (積分はrsre) ・・・・(1.1)
      ここで、[fg](r=rsre) = (fg)r=re– (fg)r=rs である。
   ∫(∇f×F)・dS = ∫fF・dr - ∫f(∇×F)・dS     ・・・・・・・・(1.2)
   ∫∇f・Fdv = ∲fF・dS - ∫f∇・F dv      ・・・・・・・・・(1.3)
   (F×G)・dS= ∫(∇×F)・G dv - ∫F・(∇×G)dv  ・・・・・・・・(1.4)

2. グリーンの公式

   ∫(fΔg + grad f・grad g)dv = ∫f(∂g/∂n)dS ・・・・・(2.1)
   ∫(fΔg- gΔf)dv = {f(∂g/∂n)-g(∂f/∂n))dS  ・・・・(2.2)


   (1.3)で、F=∇g とおくと、(2.1)が得られ、(2.1)で f,g を入れ替えて差を取れば(2.2)
   が得られる。∂g/∂n=∇g・n である。

3. ガウスの定理

   ∫div Fdv=F・dS=Fn dS   ・・・・・・・(3.1)
   ∫grad f dv=∲fdS=∲fndS    ・・・・・・・・ (3.2)
   ∫rot F dv=∲dS×F= -∲F×dS   ・・・・・・・・(3.3)

4. ストークスの定理

   ∫rot F・dS=F・dr      ・・・・・・・・(4.1)
   ∫(n×∇)f dS=∲f dr      ・・・・・・・・(4.2)
   ∫(n×∇)×F dS=∲dr×F      ・・・・・・・(4.3)
   ∫∇f×n dS=∲r∇f・dr      ・・・・・・・(4.4)


5.  部分積分の公式(1項)の証明

  区間[a,b]で定義された曲線を r=< x(t),y(t),z(t) > とする。 rs=< x(a),y(a),z(a) > ,
  re=( x(b),y(b),z(b) ) とする。 d(fg)/dt=(df/dt)g+f(dg/dt) に連鎖律
    df/dt=(∂xf)dx/dt+(∂yf)dy/dt+(∂zf)dz/dt=(∇f)・dr/dt

  ここで、省略記号、∂x=∂/∂xなどを使った。これらにより
    d(fg)/dt= (∇f)g・dr/dt + f (∇g)・dr/dt
  となり、両辺を区間[a, b]で積分すると(1.1)を得る。

  公式 ∇×(fF)=∇f×F+f∇×F を面積分して、左辺に(4.1)を使うと
    ∲fF・dr=∫∇f×F・dS +∫f∇×F・dS となって、(1.2)を得る。

  公式 ∇・(fF)=∇f・F+f∇・F 体積分して、左辺に(3.1)を使うと
    ∲fF・dS=∫∇f・Fdv+∫f∇・Fdv となって、(1.3)を得る。

  最後の式は、ポィンティングベクトルとエネルギー式の関係を導くときに使われている手順に
  沿って、公式 div(F×G)=(rot F)・GF・(rot G)を体積分して、左辺に(3.1)を使うと(1.4)
  が得られる。

6. 変形ガウスの定理の証明

 6.1 (3.2)式の証明

  最初に手がかりとなった証明を見たのは(3.2)である。それはベクトルの各成分の等式を計算し、
  最後にベクトルに戻すという手順である。(3.1)で、F=fexexはx方向の単位ベクトル)とすると
    ∫∂xf dv=∲fexndSとなる。つまり、{∫∇f dv}x={∲fn dS}x
  ここで、{A}xはベクトルAのx成分。同様に、F=fey, F=fez
  して
    {∫∇f dv}y={∲f ndS}y、{∫∇f dv}z={∲f ndS}z

  つまり、{ }内のベクトルの各成分が等しいので、ベクトルも等しい。ゆえに
    ∫∇f dv=∫grad f dv=∲fndS=∲fdS
  となって、(3.2)式を得る。

 6.2 (3.3)式の証明

  (1.4)で、G=ex とすると(公式 A・(B×C)=(A×B)・C を使って)
    左辺=∲(F×ex)・dS=∲(dS×F)・ex={∲(dS×F)}x
    右辺=∫(rot F)・ex dv –∫F・(rot ex)dv =∫(rot F)・ex dv – 0 ={∫(rot F)dv}x

  つまり、{∲(dS×F)}x={∫(rot F)dv}x
  となる。G=eyG=ez とおくと、同様な結果が
  得られて、元のベクトル等式のベクトル成分がすべて等しいので(3.3)が得られる。

7. 変形ストークスの定理の証明

 7.1 (4.2)式の証明

   公式 rot(fF)=grad f×F + f(rot F)  を使って、順次、F=exF=eyF=ez  とおくと
    rot(fex)=∇f×ex + f・0= ∂zfey -∂yfez
    rot(fey)=∂xfez -∂zfex , rot(fez)= ∂yfex -∂xfey

   これらの両辺を面積分して、左辺に(4.1)を使うと n=< nx,ny,nz > として
    ∲fex・dr= {∫fdr}x =∫(∂zfey-∂yfez)・ndS =∫(nyzf –nzyf)dS = {∫(n×∇)f dS}x
    ∲fey・dr= {∫fdr}y =∫(nzxf –nxzf)dS = {∫(n×∇)f dS}y
    ∲fez・dr= {∫fdr}z =∫(nxyf –nyxf)dS = {∫(n×∇)f dS}z
  
   ここで、
    (n×∇)=< nyz –nzy, nzx –nxz, nxy –nyx > ・・・・(7.1)
   を使った。結局、これらは、(4.2)の各ベクトル成分が等しいことを示すので、(4.2)を得る。

 7.2 (4.3)式の証明

   F=< Fx, Fy, Fz >とする。公式 rot(fG)=∇f×G + f(rotG) を使って、f=FzG=eyとおくと
   rot(Fzey)= ∇Fz×ey + 0 これを面積分して、左辺に(4.1)を使うと、(7.1)を使って
     ∲Fzey・dr=∲Fzdy=∫(∇Fz×ey)・ndS=∫∇Fz・(ey×n)dS
      =∫∇Fz・< nz, 0, -nx > dS=∫(nzx–nxz)FzdS=∫(n×∇)yFzdS

   同様に、f=FyG=ez から、
     ∲Fyez・dr=∲Fydz=∫∇Fy・(ez×n)dS=∫∇Fy・< -ny, nx, 0 > dS
        =∫(nxy-nyx)FydS=∫(n×∇)zFydS
   となり、この差を取ると
     ∲Fzdy-∲Fydz={∲dr×F}x=∫{(n×∇)y Fz -(n×∇)z Fy}dS
            ={∫(n×∇)×F)dS }x
   となる。

   同様に、f=FxG=ez および f=FzG=ex から、
     ∲Fxez・dr=∲Fxdz=∫∇Fx・(ez×n)dS=∫(n×∇)zFxdS
     ∲Fzex・dr=∲Fzdx=∫∇Fz・(ex×n)dS=∫(n×∇)xFzdS
   差を取って、{∲dr×F}y={∫(n×∇)×F)dS }y

   同様に、f=FyG=ex および f=FxG=ey から、
     ∲Fyex・dr=∲Fydx=∫∇Fy・(ex×n)dS=∫(n×∇)xFydS
     ∲Fxey・dr=∲Fxdy=∫∇Fx・(ey×n)dS=∫(n×∇)yFxdS
   差を取って、{∲dr×F}z={∫(n×∇)×F)dS }z

   結局、(4.3)が成立する。

 7.3 (4.4)式の証明

  (4.1)の左辺で F=x∇f とすると、積分内は公式から
    rot(x∇f)=(∇x)×∇f=<1,0,0>×∇f=<0, -∂zf, ∂yf>
  となるから
    rot F・dS=rot(x∇f)・ndS=(nzyf-nyzf)dS={∇f×n}x dS
  となる。また、(4.1)の右辺は r=<x,y,z> とすれば x={r}x だから
    ∲F・dr=∲x∇f・dr=∲{r}x ∇f・dr
  となり、まとめると
    ∲{∇f×n}x dS=∲{r}x ∇f・dr
  となる。

  同様に F → y∇f, z∇f とおくと
    ∫{∇f×n}y dS=∲{r}y ∇f・dr
    ∫{∇f×n}z dS=∲{r}z ∇f・dr
  を得る。これらのベクトル成分をまとめてベクトル表示すれば(4.4)を得る。

8. 補足

  あるサイトによると外微分形式を使って、スマートに、これらの公式を証明していたが理解でき
  なかった。下記の参考文書の(1)に次のような式が載っている。

  無限遠で消える任意のベクトルJに対し(あるいは体積分の境界・表面でJ=0)
    ∫J dv= -∫r∇・J dv・・・・・・・・・(8.1)
  が成り立つ。これは、(1.3)で F=J、f=xとおくと、
    ∫exJdv = -∫x∇・J dv → {∫Jdv}x = -{r∇・J dv}x
  となる。同様に、f=y, f=z として得られた結果をベクトル表記すると、(8.1)が得られる。

9. 参考

 (1) http://hb3.seikyou.ne.jp/home/E-Yama/kousiki-1.PDF
 (2) http://www.ims.tsukuba.ac.jp/~shugo_suzuki_lab/intro_vector.pdf
   (6章、ただし、クロームは文字化けするので Edge で見てください)

以上

[2024/6/29] (4.4)を追加



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