0. はじめに
ベクトル解析の公式はグリーンの定理に始まって、ストークスの定理、ガウスの定理が定番
である。しかし、次のような不思議な公式が時々見かけるが、証明は無く違和感を持っていた。
あるサイトで、1つの公式の簡明な証明が載っていた。その手法を使うと、これらの 公式の
証明ができることに気が付いた。赤文字の式は証明も載っているよく知られた一般的な公式
である。
1. 部分積分の公式
∫(∇f)g・dr= [fg](r=rs→re) - ∫f∇g・dr (積分はrs→re) ・・・・(1.1)
ここで、[fg](r=rs→re) = (fg)r=re– (fg)r=rs である。
∫(∇f×F)・dS = ∫fF・dr - ∫f(∇×F)・dS ・・・・・・・・(1.2)
∫∇f・Fdv = ∲fF・dS - ∫f∇・F dv ・・・・・・・・・(1.3)
∲(F×G)・dS= ∫(∇×F)・G dv - ∫F・(∇×G)dv ・・・・・・・・(1.4)
2. グリーンの公式
∫(fΔg + grad f・grad g)dv = ∫f(∂g/∂n)dS ・・・・・(2.1)
∫(fΔg- gΔf)dv = ∲{f(∂g/∂n)-g(∂f/∂n))dS ・・・・(2.2)
(1.3)で、F=∇g とおくと、(2.1)が得られ、(2.1)で f,g を入れ替えて差を取れば(2.2)
が得られる。∂g/∂n=∇g・n である。
3. ガウスの定理
∫div Fdv=∲F・dS=∲F・n dS ・・・・・・・(3.1)
∫grad f dv=∲fdS=∲fndS ・・・・・・・・ (3.2)
∫rot F dv=∲dS×F= -∲F×dS ・・・・・・・・(3.3)
4. ストークスの定理
∫rot F・dS=∲F・dr ・・・・・・・・(4.1)
∫(n×∇)f dS=∲f dr ・・・・・・・・(4.2)
∫(n×∇)×F dS=∲dr×F ・・・・・・・(4.3)
∫∇f×n dS=∲r∇f・dr ・・・・・・・(4.4)
5. 部分積分の公式(1項)の証明
区間[a,b]で定義された曲線を r=< x(t),y(t),z(t) > とする。 rs=< x(a),y(a),z(a) > ,
re=( x(b),y(b),z(b) ) とする。 d(fg)/dt=(df/dt)g+f(dg/dt) に連鎖律
df/dt=(∂xf)dx/dt+(∂yf)dy/dt+(∂zf)dz/dt=(∇f)・dr/dt
ここで、省略記号、∂x=∂/∂xなどを使った。これらにより
d(fg)/dt= (∇f)g・dr/dt + f (∇g)・dr/dt
となり、両辺を区間[a, b]で積分すると(1.1)を得る。
公式 ∇×(fF)=∇f×F+f∇×F を面積分して、左辺に(4.1)を使うと
∲fF・dr=∫∇f×F・dS +∫f∇×F・dS となって、(1.2)を得る。
公式 ∇・(fF)=∇f・F+f∇・F 体積分して、左辺に(3.1)を使うと
∲fF・dS=∫∇f・Fdv+∫f∇・Fdv となって、(1.3)を得る。
最後の式は、ポィンティングベクトルとエネルギー式の関係を導くときに使われている手順に
沿って、公式 div(F×G)=(rot F)・G – F・(rot G)を体積分して、左辺に(3.1)を使うと(1.4)
が得られる。
6. 変形ガウスの定理の証明
6.1 (3.2)式の証明
最初に手がかりとなった証明を見たのは(3.2)である。それはベクトルの各成分の等式を計算し、
最後にベクトルに戻すという手順である。(3.1)で、F=fex (exはx方向の単位ベクトル)とすると
∫∂xf dv=∲fex・ndSとなる。つまり、{∫∇f dv}x={∲fn dS}x
ここで、{A}xはベクトルAのx成分。同様に、F=fey, F=fezと
して
{∫∇f dv}y={∲f ndS}y、{∫∇f dv}z={∲f ndS}z
つまり、{ }内のベクトルの各成分が等しいので、ベクトルも等しい。ゆえに
∫∇f dv=∫grad f dv=∲fndS=∲fdS
となって、(3.2)式を得る。
6.2 (3.3)式の証明
(1.4)で、G=ex とすると(公式 A・(B×C)=(A×B)・C を使って)
左辺=∲(F×ex)・dS=∲(dS×F)・ex={∲(dS×F)}x
右辺=∫(rot F)・ex dv –∫F・(rot ex)dv =∫(rot F)・ex dv – 0 ={∫(rot F)dv}x
つまり、{∲(dS×F)}x={∫(rot F)dv}x
となる。G=ey、G=ez とおくと、同様な結果が
得られて、元のベクトル等式のベクトル成分がすべて等しいので(3.3)が得られる。
7. 変形ストークスの定理の証明
7.1 (4.2)式の証明
公式 rot(fF)=grad f×F + f(rot F) を使って、順次、F=ex、F=ey、 F=ez とおくと
rot(fex)=∇f×ex + f・0= ∂zfey -∂yfez
rot(fey)=∂xfez -∂zfex , rot(fez)= ∂yfex -∂xfey
これらの両辺を面積分して、左辺に(4.1)を使うと n=< nx,ny,nz > として
∲fex・dr= {∫fdr}x =∫(∂zfey-∂yfez)・ndS =∫(ny∂zf –nz∂yf)dS = {∫(n×∇)f dS}x
∲fey・dr= {∫fdr}y =∫(nz∂xf –nx∂zf)dS = {∫(n×∇)f dS}y
∲fez・dr= {∫fdr}z =∫(nx∂yf –ny∂xf)dS = {∫(n×∇)f dS}z
ここで、
(n×∇)=< ny∂z –nz∂y, nz∂x –nx∂z, nx∂y –ny∂x > ・・・・(7.1)
を使った。結局、これらは、(4.2)の各ベクトル成分が等しいことを示すので、(4.2)を得る。
7.2 (4.3)式の証明
F=< Fx, Fy, Fz >とする。公式 rot(fG)=∇f×G + f(rotG) を使って、f=Fz、G=eyとおくと
rot(Fzey)= ∇Fz×ey + 0 これを面積分して、左辺に(4.1)を使うと、(7.1)を使って
∲Fzey・dr=∲Fzdy=∫(∇Fz×ey)・ndS=∫∇Fz・(ey×n)dS
=∫∇Fz・< nz, 0, -nx > dS=∫(nz∂x–nx∂z)FzdS=∫(n×∇)yFzdS
同様に、f=Fy、G=ez から、
∲Fyez・dr=∲Fydz=∫∇Fy・(ez×n)dS=∫∇Fy・< -ny, nx, 0 > dS
=∫(nx∂y-ny∂x)FydS=∫(n×∇)zFydS
となり、この差を取ると
∲Fzdy-∲Fydz={∲dr×F}x=∫{(n×∇)y Fz -(n×∇)z Fy}dS
={∫(n×∇)×F)dS }x
となる。
同様に、f=Fx、G=ez および f=Fz、G=ex から、
∲Fxez・dr=∲Fxdz=∫∇Fx・(ez×n)dS=∫(n×∇)zFxdS
∲Fzex・dr=∲Fzdx=∫∇Fz・(ex×n)dS=∫(n×∇)xFzdS
差を取って、{∲dr×F}y={∫(n×∇)×F)dS }y
同様に、f=Fy、G=ex および f=Fx、G=ey から、
∲Fyex・dr=∲Fydx=∫∇Fy・(ex×n)dS=∫(n×∇)xFydS
∲Fxey・dr=∲Fxdy=∫∇Fx・(ey×n)dS=∫(n×∇)yFxdS
差を取って、{∲dr×F}z={∫(n×∇)×F)dS }z
結局、(4.3)が成立する。
7.3 (4.4)式の証明
(4.1)の左辺で F=x∇f とすると、積分内は公式から
rot(x∇f)=(∇x)×∇f=<1,0,0>×∇f=<0, -∂zf, ∂yf>
となるから
rot F・dS=rot(x∇f)・ndS=(nz∂yf-ny∂zf)dS={∇f×n}x dS
となる。また、(4.1)の右辺は r=<x,y,z> とすれば x={r}x だから
∲F・dr=∲x∇f・dr=∲{r}x ∇f・dr
となり、まとめると
∲{∇f×n}x dS=∲{r}x ∇f・dr
となる。
同様に F → y∇f, z∇f とおくと
∫{∇f×n}y dS=∲{r}y ∇f・dr
∫{∇f×n}z dS=∲{r}z ∇f・dr
を得る。これらのベクトル成分をまとめてベクトル表示すれば(4.4)を得る。
8. 補足
あるサイトによると外微分形式を使って、スマートに、これらの公式を証明していたが理解でき
なかった。下記の参考文書の(1)に次のような式が載っている。
無限遠で消える任意のベクトルJに対し(あるいは体積分の境界・表面でJ=0)
∫J dv= -∫r∇・J dv・・・・・・・・・(8.1)
が成り立つ。これは、(1.3)で F=J、f=xとおくと、
∫ex・Jdv = -∫x∇・J dv → {∫Jdv}x = -{r∇・J dv}x
となる。同様に、f=y, f=z として得られた結果をベクトル表記すると、(8.1)が得られる。
9. 参考
(1) http://hb3.seikyou.ne.jp/home/E-Yama/kousiki-1.PDF
(2) http://www.ims.tsukuba.ac.jp/~shugo_suzuki_lab/intro_vector.pdf
(6章、ただし、クロームは文字化けするので Edge で見てください)
以上
[2024/6/29] (4.4)を追加
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