1.まえがき
自己インダクタンスLを含む直列回路における過渡現象の回路方程式(キルヒホッフの電圧則)
は、抵抗をR、コンデンサの容量、電荷をC,q、流れる電流をi、電源の起電力をeとして
Ri+q/C+Ldi/dt=e ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1.1)
と表される。明確な説明が無いので、+Ldi/dt が何か、その符号について疑問を持つ人は多い。
これに関して、Lに生ずる起電力eLは電磁誘導の式 eL=-dΦ/dt から、Φ=Li として、
eL=-Ldi/dt ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1.2)
である。この起電力と電源の起電力eをまとめて電圧則は
Ri+q/C=e+eL=e-Ldi/dt ・・・・・・・・・・・・・・・(1.3)
となり、これは(1.1)と同じ式であるという説明がある。
しかし、電圧則はRのみの回路で、電磁誘導の無い回路において、
e=∲E・ds=-dΦ/dt=0 ・・・・・・・・・・・・・・・・(1.4)
から求められる。そして当然、電磁誘導があれば(1.4)式は成り立たず、この説明は間違って
いる。
したがって、電圧則は独立の法則として説明されており、マクスウェルの方程式から求められ
ていない。この原因は、前に述べたように、起電力の定義が不明な事や電圧・電位との違いが
説明されていないことなど、いくつかの問題が放置されていることによる。
以下では電磁誘導がある場合の電圧則を説明する。
2.電磁誘導とキルヒホッフの電圧則
2.1 Lの内部に積分路を取ったとき
起電力、電圧については前に述べた。今回の場合、回路の運動は無いから電磁誘導の式は
∲E・ds=-dΦ/dt=-Ldi/dt ・・・・・・・・・・・・・・(2.1)
である。電流や電圧の向きを図のようにとる。各素子の電圧は電源、抵抗、コンデンサの
順に
Ve=-∫[1→2]E・ds , VR=-∫[3→2]E・ds , VC=-∫[4→3]E・ds ・・・(2.2)
となる。(2.1)の積分路をLの内部、その向きを電流の向きにとり、(2.2)を使うと
∫[1→2]E・ds+∫[2→3]E・ds+∫[3→4]E・ds+∫[4→1]E・ds=-Ldi/dt ・・(2.3)
⇒ -Ve+VR+VC+0=-Ldi/dt
となる。前に述べたようにLの内部に電界は無く、積分は0。まとめると
VR+VC+Ldi/dt=Ve ・・・・・・・・・・・・・・(2.4)
となり、(1.1)を得る。なお、VR=Ri, VC=q/C である。前に述べたように、電源の起電力
は分離した電荷による電界の電圧で表される。
2.2 Lの外部に積分路を取ったとき
Lの外部に積分路を取れば電磁誘導は無いから(2.1)は ∲E・ds=0 となるから、(2.3)は
∫[1→2]E・ds+∫[2→3]E・ds+∫[3→4]E・ds+∫[4→1]E・ds=0 ・・(2.5)
となる。このとき、Lの起電力によって、正負の電荷がその両端に分離する。その電荷によ
る電界はLの内部では起電力の電界を打消し、外部に電界を発生する。その電界を積分する
とLの電圧が定義され、VL=-∫[1→4]E・ds となる。すると(2.5)は
VR+VC+VL=Ve ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2.6)
となる。
ここで、Lの起電力によって発生した電界を E' とすれば、は eL=∫[4→1]E'・ds である
(Lの起電力は電流の方向の周回積分だが、発生場所がわかっている)。この電界は上で述
べたように分離した電荷により発生した電界 E によって、Lの内部では打消されて0にな
る。つまり、E=-E' であるから
eL=∫[4→1]E'・ds=∫[1→4]E・ds=-VL
となる。(1.2)を使うと
VL=Ldi/dt ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2.7)
を得る。これと(2.6)などを合わせ、(1.1)を得る。
3.あとがき
ここでのポイントは「電源の内部(外部も)には電界がある」、「インダクタンスの内部に
は電界は無く、外部に電界が在る」ことである。
Lの両端の電界の積分は内部で ∫[4→1]E・ds=0、外部では ∫[4→1]E・ds=-Ldi/dt≠0
である。これは電磁誘導がある場合、一般に電位が定義できないことによる。
繰り返しになるが、起電力の記号は e,ε,Vemf などと表すのが普通である。(1.2)はLの起電
力、(2.7)はLの電圧である。V=-Ldi/dt などと書かれた書籍は、上のことを理解していない
と疑ってよい。
なお、キルヒホッフの電圧則は磁界中を運動する回路について成立つ場合が在る。この理由
も説明無しに使われている。逆に、電圧則が成り立たない電磁誘導がある。電磁誘導の理解
が深まるので、いずれ述べてみたい。
以上