子鹿をめぐる眼の構文
森には森の、眼が
川には川の、眼があった頃の
膨大な関しにうんざりだったぼくら
あの眼は
いったい誰の手先だったかと、
知恵のみを拾い集める
膨大な死者の眼と競いあうように
たしかに、ぼくらの
大地は賄賂の宝庫だったか、見たこともない守護神の緑の火焔も、
黒部の谷で
ばったりでくわした子鹿の眼に
車の中のぼくらの眼はどのようにうつっていたか(散文の眼のさびしさ)
動物の目が
左右にあっても
眼眼、とも、眼ら、ともいわない
一瞬、子鹿のつぶらな眼が宙をきって
藪に逃げ込む
カメラが銃を超えて
世界に悲惨な遺体をばらまく、まなざしの力に
ぼくらの声はかき消されるだけだったか、
通じ合えない生命のむなしさ
子鹿、とよべば
子鹿があらあれる網膜のおくで
すでに僕の子鹿はきおくの宝庫をにげさっている
大地は実存のかくれ家であるか
存在のあいまいな川を下り
流れる水のなかでぼくを覗いている
眼眼、とも、眼ら、ともいわない
淋しい眼がある
向こう岸という岸の存在に関心はうすい、と関心を呼びもどし
ぼくのなかの核心が、淋しい水の眼を滑りおちる
(ひとは群れへ/
群れのある方へ/
葦のように靡いて行く/……)
岸辺にうちよせる不慮の眼は、
賄賂の水量をあらかじめ計り不慮にそなえるという人柱のような眼でるか、
(美しい姿しか映さない水の各務の眼であるか、古典的な、
(美しい文章鹿うつさない紙の鏡の眼であるか、あまりにも古典的な、
水の鏡から紙の鏡みまで(散文の眼のさみしさ))
昏い岸辺は葦の靡きにまかせて、露出オーバーの光の橋を
わたるべきかわたらざるべきか、と
あまりにも無惨な遺体をばらまいている
子鹿、とよばば
子鹿があらわれる望みは途絶え
すでにぼくの子鹿の実像は網膜をあざむいている
(ひとは群れへ/
群れのある方へ/
葦のように靡いて行く/……)
光の橋の存在の曖昧白湯揺れるぼくの優柔をあざけりながら
子鹿のちいさな陰嚢と白桃の種の、孤独を抱えた少年の目が
すばやくぼくの手をすりぬける岸辺で
カミソリのためらい傷のような孤独の眼の潔癖という
うっすら地を滲ませる泪の種の存在に関心はない、と関心を確かめながら
流れる水のなかでぼくを覗いている
もうひとつのぼくの眼がある
眼眼、とも、眼ら、ともいわない
その眼の
手先のひとは、
手先のまなざしは、
まなざしの不平等に
ひたつでひとつというが、
自然の構文の手の鳴る方へ
賄賂の愛のように靡きながら
寄る辺なき息に欺かれても
谷に消えた子鹿の消息に
ぼくをほっぽりだして
網膜の含意にとける
子鹿という眼は
眼の構文は
何処へ
深夜、河原におりたち
満天の星くずに襲われる、と、うかつにも
散文の眼に、その眼眼の眼ら、の構文の
究極のまなざしに
圧倒されるしらじらしさ
以上です。
いつもより少し長い詩になりました。
今、白い三日月の残月が空に漂っています。晴天のようです。
森には森の、眼が
川には川の、眼があった頃の
膨大な関しにうんざりだったぼくら
あの眼は
いったい誰の手先だったかと、
知恵のみを拾い集める
膨大な死者の眼と競いあうように
たしかに、ぼくらの
大地は賄賂の宝庫だったか、見たこともない守護神の緑の火焔も、
黒部の谷で
ばったりでくわした子鹿の眼に
車の中のぼくらの眼はどのようにうつっていたか(散文の眼のさびしさ)
動物の目が
左右にあっても
眼眼、とも、眼ら、ともいわない
一瞬、子鹿のつぶらな眼が宙をきって
藪に逃げ込む
カメラが銃を超えて
世界に悲惨な遺体をばらまく、まなざしの力に
ぼくらの声はかき消されるだけだったか、
通じ合えない生命のむなしさ
子鹿、とよべば
子鹿があらあれる網膜のおくで
すでに僕の子鹿はきおくの宝庫をにげさっている
大地は実存のかくれ家であるか
存在のあいまいな川を下り
流れる水のなかでぼくを覗いている
眼眼、とも、眼ら、ともいわない
淋しい眼がある
向こう岸という岸の存在に関心はうすい、と関心を呼びもどし
ぼくのなかの核心が、淋しい水の眼を滑りおちる
(ひとは群れへ/
群れのある方へ/
葦のように靡いて行く/……)
岸辺にうちよせる不慮の眼は、
賄賂の水量をあらかじめ計り不慮にそなえるという人柱のような眼でるか、
(美しい姿しか映さない水の各務の眼であるか、古典的な、
(美しい文章鹿うつさない紙の鏡の眼であるか、あまりにも古典的な、
水の鏡から紙の鏡みまで(散文の眼のさみしさ))
昏い岸辺は葦の靡きにまかせて、露出オーバーの光の橋を
わたるべきかわたらざるべきか、と
あまりにも無惨な遺体をばらまいている
子鹿、とよばば
子鹿があらわれる望みは途絶え
すでにぼくの子鹿の実像は網膜をあざむいている
(ひとは群れへ/
群れのある方へ/
葦のように靡いて行く/……)
光の橋の存在の曖昧白湯揺れるぼくの優柔をあざけりながら
子鹿のちいさな陰嚢と白桃の種の、孤独を抱えた少年の目が
すばやくぼくの手をすりぬける岸辺で
カミソリのためらい傷のような孤独の眼の潔癖という
うっすら地を滲ませる泪の種の存在に関心はない、と関心を確かめながら
流れる水のなかでぼくを覗いている
もうひとつのぼくの眼がある
眼眼、とも、眼ら、ともいわない
その眼の
手先のひとは、
手先のまなざしは、
まなざしの不平等に
ひたつでひとつというが、
自然の構文の手の鳴る方へ
賄賂の愛のように靡きながら
寄る辺なき息に欺かれても
谷に消えた子鹿の消息に
ぼくをほっぽりだして
網膜の含意にとける
子鹿という眼は
眼の構文は
何処へ
深夜、河原におりたち
満天の星くずに襲われる、と、うかつにも
散文の眼に、その眼眼の眼ら、の構文の
究極のまなざしに
圧倒されるしらじらしさ
以上です。
いつもより少し長い詩になりました。
今、白い三日月の残月が空に漂っています。晴天のようです。