遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

詩「空虚無限」(新)

2010-04-24 | 現代詩作品
空虚無限



人知でははかりしれない
距離をおもう
底知れぬ無能さに
真っ青な空が
霊媒の白い雲を
引きさく
初夏の
本棚は埃のなか
死後の物語で
埋めつくされていて
測定術にたけた
村の匿名、山田なにがしは
天に近い露天の風呂で
人体の観察を
おこたらず
雨雲の
距離をはかっている

一体化した私と
他者の
無限の距離を
どうおしはかるのか
曇りガラスのむこう
うしろめたい星雲のガスがかかった
山中で
美しいつきひ、
哀しいつきひ、
あれこれ言葉を
入れかえて
混沌をたもつ
村の匿名、山田なにがしは
不治という
官吏の冠履に
背をむけ
観光客を相手の
今朝は
黒薙には
顔をみせていない

昨日は
天に近い露天風呂に
愛犬を連れてきた男とすれちがう
汗まで拭き取られるほど
透きとおっていた
氷売りを連想させて
昨年の遭難者か
と、振りむく
そこには立山桔梗が、空を背景に
紫いろに匂いたつ
哀しい雄姿
自分を信じすぎたせいか
もっと素直な観光客であればみえるものがちがうかもしれず
ここからはみえない
地獄谷の血のいろまでを
想像する

私と他者との
無限の距離を推しはかることは
できなくて
時間を産みおとした
人間という空間への生命力の筋トレマシーンが
もしかすると、
この黒薙温泉の
どこかに
隠されていそうで
朝の霧の中
たたずんでいた

村の匿名、山田なにがしの
正体もしらないままで
夢から
下山する
心のこりは
黒薙温泉が
縄張りで
退屈をかこつ
幽霊なら
わかってくれるか