Manaboo 電子政府・電子申請コラム 

電子政府コンサルタントの牟田学が、電子政府・電子申請、その他もろもろ、気まぐれにコメントしてます。

「かんぽの宿」の行方(2)、資産価値を下げる「職員の雇用維持」

2009年02月06日 | 電子政府
「かんぽの宿」の行方(1)、後出しジャンケンの怖さの続きである。今回は、ビジネスの視点で「かんぽの宿」を見てみよう。


●「かんぽの宿」は儲けを考えていない

まず理解したいのは、

「かんぽの宿」は、そもそも儲けを考えないで建てられたものである。

ということだ。

★簡易生命保険法(廃止済み)
(加入者福祉施設)第101条 公社は、保険契約者、被保険者及び保険金受取人(以下「加入者」という。)の福祉を増進するため必要な施設を設けることができる。

言ってみれば、企業の「従業員向け保養所」みたいなもの。

しかも、お役所仕事だから、採算度外視&バラマキの大盤振る舞いで、土地の取得価格や建設費といった整備費用が適切であったかもわからない。

だから、取得金額より売却金額が低いのは当たり前で、今になって「安過ぎる」とか言うのは無理がある。

それを了承し放置してきた国民にも責任がある。

とは言っても、国民が「もう少し高く売れないのか」と考える気持ちも、国民の一人として理解できる。


●売却(譲渡)価格の落しどころ

ホテルや不動産は「資産」であるが、「負債」でもある。

毎年黒字でお金を運んできてくれる場合は「資産」で、毎年赤字でお金を奪っていく場合は「負債」となる。

取得金額より高く売れれば「資産」で、取得金額より安くしか売れなければ「負債」である。

採算度外視で建てられた「かんぽの宿」を取得金額より高く売るのは、ほとんど不可能な話。

また、報道によると、かんぽの宿事業の年間赤字額は、2007年度決算で約39億9400万円とのこと。日本郵政の年間純利益は約420億円(2008年3月期)なので、39億円は痛い金額だ。

日本郵政の決算公告(損益計算書)を見ても、
宿泊事業収益:189億3800万円
宿泊事業費:206億7800万円
となっており、かんぽの宿事業が宿泊事業全体の足を引っ張っているようだ。

このように、高く売れないし毎年赤字である「かんぽの宿」は、全体として見れば、間違いなく「負債」である。

毎年39億円もの出費となる「負債」を、オリックス不動産が108億円で引受けてくれるのだから、こんなに美味しい話は無い。

それゆえに、作者は「現実的な損得を考えると、一括譲渡でオリックス不動産に早いところ売ってしまった方が良い。」と考えたのである。


●資産価値を下げる「職員の雇用維持」

報道によると、「かんぽの宿」の簿価は123億円とのこと。

「簿価が123億円なのに、なんで108億円で譲渡するの?」といった疑問はある。

そこで注目すべきは、「約3200人の職員を引き受ける」という譲渡条件である。

この条件は、相当にきつい。

古くなった不要な建物は解体・撤去できる。そうすれば、残った土地だけ処分できる。

解体・撤去しなくても、改築・リフォームすれば、買取価格より高く転売することができるかもしれない。

改築・リフォームしなくても、施設を有効活用できるお客さん(ニーズ)を見つけてくれば、買取価格より高く転売することができるかもしれない。

報道にある「1万円で売却した施設が、6千万円で転売された」といった事例は、そうしたケースである。

ところが、「約3200人の職員を引き受ける」条件があると、こうした短期の視点では転売できない。

職員は、建物のように解体したりリフォームしたりできないからだ。

「かんぽの宿」に付いてくる「首都圏社宅9施設」も、職員を追い出して転売することは難しいだろうから、活用方法も限定されてしまう。


この雇用維持条件さえ無ければ、「赤字施設から順番に、個別オークションで売却する」のが良い。

そうすれば、黒字の施設はより高く売れるだろう。

赤字の施設も、「利用価値あり」と経営判断した業者に、簿価以上の金額で売れるかもしれない。

こうして見ると、
・「約3200人の職員を引き受ける」条件で
・毎年40億円近い出費をもたらす「かんぽの宿」関連施設を
・108億円もの現金を出して
・なぜオリックス不動産は買おうとするのだろう。

といった疑問にたどり着く。

次回は、「かんぽの宿」の経営戦略について考えてみよう。


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