Manaboo 電子政府・電子申請コラム 

電子政府コンサルタントの牟田学が、電子政府・電子申請、その他もろもろ、気まぐれにコメントしてます。

電子政府におけるクラウド活用(5)、自治体クラウドを急ぐ必要が無い理由

2010年04月10日 | 電子政府
電子政府におけるクラウド活用(4)、霞ヶ関クラウドとはの続きです。今回は、自治体クラウドについて整理してみましょう。


●自治体クラウドとは

自治体クラウドは、何だか良くわからないうちに、税金を使って実証実験まで始まっています。

自治体クラウドポータルサイトによると、自治体クラウドとは

・クラウドコンピューティングを電子自治体の基盤構築にも活用していくという考えで
・総合行政ネットワーク(LGWAN)に接続された
・都道府県域データセンターとASP・SaaS事業者のサービスを組み合わせて
・共同利用用途の各種業務システム等の開発実証を行い
・地方公共団体が当該業務システムを低廉かつ効率的に利用できる環境の整備を推進していく
・この利用環境のことを「自治体クラウド」と呼ぶ

となっています。

関連>>自治体クラウド・共同アウトソーシング推進協議会

事業(実証実験)の概要は、

・LGWANの利用が前提
・LASDECが策定し提示する「標準仕様書」に従う
・地方公共団体の情報システムをデータセンターに集約
・市町村が共同利用する
・情報システムの効率的な構築と運用を実現
・実証実験の成果を日本全国に展開
・6道府県66市町村が参加:平成22年3月現在

さらに、地方公共団体における事務の共同処理の改革に関する研究会自治体クラウドの概要で、将来像がわかります。

・LGWAN上にデータセンターを構築(3か所)
・各データセンターに共同利用用の各種業務システムを構築
・市町村は「ASP・SaaSサービスの共同利用」か「自己保有システム」かを選択
・「自己保有システム」は、自治体クラウドの標準インターフェースに準拠させる
・各データセンターの機能は相互に連携させる


●自治体クラウドは成功するのか

自治体システムの共通化は、天下り機関との決別からで述べたように、国と外郭団体が主導で進める(=制約が多く、中間マージンが発生する)自治体システムの共通化は、これまで全て失敗してきました。

国からの補助金や助成金頼みで、補助金が切れたら事業も休止(急死?)するか、自治体の財政を逼迫させながら無理やり続けていく(でも長くは続かない?)というパターンです。

自治体クラウドの実証実験もこれまでと同じパターンなので、全国展開まで達成するのは難しいでしょう。

しかし、国内の電子政府ベンダーにとっては、その方が好都合です。

中途半端な共同利用の「自治体クラウド」なるものが10~30ぐらいできて、その市場を数社で寡占するというプランを描けるからです。

本当に自治体システムの共通化を目指すのであれば、国と自治体の統治構造を見直す必要があります。

関連ブログ>>橋下知事が描く「新しい国のかたち」、自治体と国が共同利用できる行政データベースを作ろう


●増える自治体の選択肢、クラウド化を急ぐ必要は無い

作者が自治体からアドバイスを求められた時は、「政府情報システムの整備の在り方に関する研究会」中間取りまとめ、霞ヶ関解体を視野に入れようでも触れましたが、次のように答えるでしょう。

・将来的には、各種タイプのクラウドを使い分けると共に
・業務自体の民間アウトソースも行いながら
・より安価で効率的な方法を選択していくことになる。
・どのクラウドサービスも、一定レベル以上の安定性や安全性が求められ
・利用する自治体側もデータマネジメントや事業継続計画等を確立しておく必要がある。
・優先順位としては、こちらの方がずっと高い

関連>>地方公共団体におけるICT部門の業務継続計画(BCP)策定に関するガイドライン

・クラウドベースの政府向けアプリケーションはまだ少ないが
・これから増えライブラリ化されていくだろう。
・自治体は、こうしたライブラリが充実しているプラットフォームを選び
・カスタマイズ性や費用などを考慮して使えば良い。
・「定額給付金」のような一度限りのサービスでは
・国のお金で民間プラットフォーム上にSaaSを用意して
・全ての自治体が使えるようにすれば良い
・国がやらなければ、民間が提供するサービスを活用すれば良い。
・いずれにせよ、クラウド市場は未成熟なので、対応を急ぐ必要は全く無い

・国が作った「電子政府・電子自治体クラウド」が
・安価で使いやすいサービスとなる保証は無い
・自治体は、自らの判断で、より安価で使いやすく
・住民や職員の役に立つシステムを選択し使っていけば良い


実際、自治体の選択肢は増えてきています。

・国内ベンダーによる政府系クラウドサービス
・国外ベンダーによる政府系クラウドサービス
・先進自治体による政府系クラウドサービス
・自治体クラウドによるサービス

などなど。

関連>>長崎県自治体クラウドサービス

さらに、パブリッククラウドのプライベート化(顧客のニーズに合わせて、個別対応の選択肢を提供)も進みつつあります。

例えば、GoogleMicrosoftによる政府専用クラウドサービスは魅力的な選択肢になるでしょう。

日本で稼げるとわかれば、海外ベンダーが日本国内にサーバを設置したり、日本政府専用のサーバを設置して、日本の省庁や自治体が使いやすい環境やサービスを提供するケースも増えてくるでしょう。

関連>>クラウド先駆者、日本に本腰三菱総研、自治体にクラウドを体験・検証する場を提供

さらに、暗号化・匿名化の技術が進歩して、サービスやデータセンター間の連携なども進めば、外交や防衛などの特殊な例を除くと、民間クラウドで良いんじゃないとなってもおかしくありません。

次回は、「使いたくなる政府クラウド」について考えてみたいと思います。

関連>>「電子政府におけるクラウド活用」の連載を読む


最新の画像もっと見る