社会保障・税番号大綱案を読み解く(2)、社会の変化を促すことも番号制度の役割の続きです。
今回は、番号制度の具体的な活用場面について考えてみます。
●バックオフィスでの番号活用が鍵
番号制度の具体的な活用場面については、当面は、主に社会保障と税分野を想定しています。
国民・住民は、行政機関・金融機関・勤務先等から求められて「番号」を告知します。行政機関・金融機関・勤務先等は「番号」を活用します。行政機関・金融機関・勤務先の内部で「番号」を上手に活用できれば、事務の効率化が進み、国民・住民が受けるサービスも良くなるという仕組みです。
番号制度が具体的な効果を生み出せるかは、行政機関・金融機関・勤務先等が内部の事務処理(バックオフィス)で、どれだけ「番号」を有効活用できるかにかかっているとも言えます。
利用場面として挙げられているのは、次の6つです。
(1)よりきめ細やかな社会保障給付の実現
(2)所得把握の精度の向上等の実現
(3)災害時における活用
(4)自己の情報や必要なお知らせ等の情報を自宅のパソコン等から入手できる
(5)事務・手続の簡素化、負担軽減
(6)医療・介護等のサービスの質の向上等
●番号をきっかけに業務・制度の改革を
社会保障給付では、家計全体をトータルに捉えて医療・介護・保育・障害に関する自己負担の合計額に上限を設定する「総合合算制度(仮称)」、各種手当等の給付過誤や給付漏れ、二重給付等の防止などがあります。負担が減ったと助かる人もいれば、これまでの給付が停止されて怒る人もいるでしょう。
所得把握の精度向上は、いわゆる「納税者番号」としての活用です。給料・報酬等を支払う側と受け取る側の双方が、申告書に「番号」を記入することになります。そのため、個人の「番号」だけでなく、「法人番号」も必要になります。記入された「番号」は、税務情報の名寄せ・突合に使われます。名寄せの効率化が進めば、確定申告の簡素化・効率化も進み、将来的には「年末調整」の廃止も検討されるかもしれません。所得控除から税控除への移行も必要ですね。
災害時の活用は、「番号」を共通の識別番号として、医療、避難場所、被災者の状況といった情報を入手できる仕組みが必要となります。緊急時なので、情報連携基盤を活用できる場合と、そうでない場合があるでしょう。情報の流れとしては、次のようなものが考えられます。番号に過度に依存することなく、他の情報と合わせて活用すると良いでしょう。
本人や家族等から提供された情報>>「番号」の特定>>情報連携基盤・インターネット・電話等>>「番号」に紐付けられた各種情報(オンライン・オフラインの電子データ、紙情報など)
自己情報やお知らせ等がオンラインで閲覧・確認できるサービスは、現在でも稼動しています。ねんきんネットサービスが有名ですね。この他にも、電子申請や電子申告を利用していれば、申請履歴や処理状況等を確認できますし、行政からのお知らせを受け取ることができます。
マイ・ポータルのような個人向けサービスで、必要な自己情報を集められたり、自分や家族の役に立つ情報が送られてくるサービスは有効と思いますが、やはりその内容次第でしょう。マーケティング・ユーザビリティ・コンテンツの3つが重要で、そのためにも民間との連携は欠かせません。
事務・手続の簡素化や負担軽減では、優先順位を明確にした方が良いでしょう。手続や添付書類の廃止・簡略化の評価ポイントで整理したように、もっとも効果が高いのは「手続き自体が不要になる」といったものです。実例としては、住基ネットによる年金受給者の現況確認(現況届の提出が原則不要)があります。こうした簡素化・負担軽減は、番号制度をきっかけとして、業務や制度の見直しが行われ、電子データの有効活用が進むことで実現可能となります。
医療・介護等のサービス向上は、高齢化や医療費高騰などを背景として、先進国における大きな共通課題となっています。欧州ではドイツ、フランス、デンマークなどが、アジアでは台湾、韓国、シンガポールなどが進んでいるようです。成功要因としては、プライバシー、データ標準化、利害関係の調整、医師や患者の理解・協力、電子認証・電子署名、ICカード等のICT活用などがあり、番号制度の普及もその一つです。
大綱では、継続的な健診情報・予防接種履歴の確認、乳幼児健診履歴による児童虐待等の早期発見、医学研究におけるデータの蓄積、がん患者の予後追跡、介護情報の引継ぎ、関係機関における診断書の共有、年金手帳・医療保険証・介護保険証等のICカード一元化などが挙げられています。医療・介護の情報化・電子化が番号制度という機会を逃すと、本格的な医療費負担の増加が始まるまで先延ばしにされるかもしれません。
●ユースケース検討の難しさ
番号の具体的な活用例(ユースケース)の検討は、まだあまり進んでいないようです。国、自治体、企業、NPOなどが様々な視点で提案し、分析・検証を繰り返しながら、絞り込んでいくことになるでしょう。もちろん、政府が考える社会保障や税の一体改革の優先順位が、番号制度のユースケース選びにも大きな影響を与えます。
番号制度導入の当初は、番号の信頼性は高くない(本当にちゃんと紐付けられているの?)といった心配もあるので、番号単体での利用ではなく、4情報など他の識別情報とセットで利用するのが良いでしょう。おっかなびっくり使っていく中で、政府が保有する情報がクレンジングされて識別精度が高まっていくのだと思います。
ユースケースの検討は難しいと思いますが、次の3つの方法で取り組むのが良いのではないかと思います。
(1)現実解としてのユースケース
現状の業務フローに番号利用を組み込んでいく方法です。例えば、税の申告情報に番号を追記して、名寄せ・マッチングの効率化を目指す等があります。
(2)抜本的な改革を求めるユースケース
番号をきっかけとした制度改革とも言える方法です。例えば、年末調整を廃止して、記入済み申告制度の導入を提案する等があります。
(3)番号を必要としない代替手段としてのユースケース
提案されるユースケースの中には、無理やり番号を使っているような場合もあります。より簡便で費用対効果も高いと考えられる代替手段を考え、番号利用のユースケースと比較することで、ユースケースの絞込みも進むことでしょう。情報連携基盤がうまく機能しない場合の保険としても有効ですし、お互いを否定することなく、両者を上手く融合することも可能です。例えば、金融機関等と同等の本人確認により発行される電子メールアドレスに対して、行政機関等が公的なお知らせを通知する等があります。
現在提案されているユースケースやそれらに対する批判は、どちらも一長一短といった印象がありますので、こうした多角的な取り組みが必要なのではないかと思います。
今回は、番号制度の具体的な活用場面について考えてみます。
●バックオフィスでの番号活用が鍵
番号制度の具体的な活用場面については、当面は、主に社会保障と税分野を想定しています。
国民・住民は、行政機関・金融機関・勤務先等から求められて「番号」を告知します。行政機関・金融機関・勤務先等は「番号」を活用します。行政機関・金融機関・勤務先の内部で「番号」を上手に活用できれば、事務の効率化が進み、国民・住民が受けるサービスも良くなるという仕組みです。
番号制度が具体的な効果を生み出せるかは、行政機関・金融機関・勤務先等が内部の事務処理(バックオフィス)で、どれだけ「番号」を有効活用できるかにかかっているとも言えます。
利用場面として挙げられているのは、次の6つです。
(1)よりきめ細やかな社会保障給付の実現
(2)所得把握の精度の向上等の実現
(3)災害時における活用
(4)自己の情報や必要なお知らせ等の情報を自宅のパソコン等から入手できる
(5)事務・手続の簡素化、負担軽減
(6)医療・介護等のサービスの質の向上等
●番号をきっかけに業務・制度の改革を
社会保障給付では、家計全体をトータルに捉えて医療・介護・保育・障害に関する自己負担の合計額に上限を設定する「総合合算制度(仮称)」、各種手当等の給付過誤や給付漏れ、二重給付等の防止などがあります。負担が減ったと助かる人もいれば、これまでの給付が停止されて怒る人もいるでしょう。
所得把握の精度向上は、いわゆる「納税者番号」としての活用です。給料・報酬等を支払う側と受け取る側の双方が、申告書に「番号」を記入することになります。そのため、個人の「番号」だけでなく、「法人番号」も必要になります。記入された「番号」は、税務情報の名寄せ・突合に使われます。名寄せの効率化が進めば、確定申告の簡素化・効率化も進み、将来的には「年末調整」の廃止も検討されるかもしれません。所得控除から税控除への移行も必要ですね。
災害時の活用は、「番号」を共通の識別番号として、医療、避難場所、被災者の状況といった情報を入手できる仕組みが必要となります。緊急時なので、情報連携基盤を活用できる場合と、そうでない場合があるでしょう。情報の流れとしては、次のようなものが考えられます。番号に過度に依存することなく、他の情報と合わせて活用すると良いでしょう。
本人や家族等から提供された情報>>「番号」の特定>>情報連携基盤・インターネット・電話等>>「番号」に紐付けられた各種情報(オンライン・オフラインの電子データ、紙情報など)
自己情報やお知らせ等がオンラインで閲覧・確認できるサービスは、現在でも稼動しています。ねんきんネットサービスが有名ですね。この他にも、電子申請や電子申告を利用していれば、申請履歴や処理状況等を確認できますし、行政からのお知らせを受け取ることができます。
マイ・ポータルのような個人向けサービスで、必要な自己情報を集められたり、自分や家族の役に立つ情報が送られてくるサービスは有効と思いますが、やはりその内容次第でしょう。マーケティング・ユーザビリティ・コンテンツの3つが重要で、そのためにも民間との連携は欠かせません。
事務・手続の簡素化や負担軽減では、優先順位を明確にした方が良いでしょう。手続や添付書類の廃止・簡略化の評価ポイントで整理したように、もっとも効果が高いのは「手続き自体が不要になる」といったものです。実例としては、住基ネットによる年金受給者の現況確認(現況届の提出が原則不要)があります。こうした簡素化・負担軽減は、番号制度をきっかけとして、業務や制度の見直しが行われ、電子データの有効活用が進むことで実現可能となります。
医療・介護等のサービス向上は、高齢化や医療費高騰などを背景として、先進国における大きな共通課題となっています。欧州ではドイツ、フランス、デンマークなどが、アジアでは台湾、韓国、シンガポールなどが進んでいるようです。成功要因としては、プライバシー、データ標準化、利害関係の調整、医師や患者の理解・協力、電子認証・電子署名、ICカード等のICT活用などがあり、番号制度の普及もその一つです。
大綱では、継続的な健診情報・予防接種履歴の確認、乳幼児健診履歴による児童虐待等の早期発見、医学研究におけるデータの蓄積、がん患者の予後追跡、介護情報の引継ぎ、関係機関における診断書の共有、年金手帳・医療保険証・介護保険証等のICカード一元化などが挙げられています。医療・介護の情報化・電子化が番号制度という機会を逃すと、本格的な医療費負担の増加が始まるまで先延ばしにされるかもしれません。
●ユースケース検討の難しさ
番号の具体的な活用例(ユースケース)の検討は、まだあまり進んでいないようです。国、自治体、企業、NPOなどが様々な視点で提案し、分析・検証を繰り返しながら、絞り込んでいくことになるでしょう。もちろん、政府が考える社会保障や税の一体改革の優先順位が、番号制度のユースケース選びにも大きな影響を与えます。
番号制度導入の当初は、番号の信頼性は高くない(本当にちゃんと紐付けられているの?)といった心配もあるので、番号単体での利用ではなく、4情報など他の識別情報とセットで利用するのが良いでしょう。おっかなびっくり使っていく中で、政府が保有する情報がクレンジングされて識別精度が高まっていくのだと思います。
ユースケースの検討は難しいと思いますが、次の3つの方法で取り組むのが良いのではないかと思います。
(1)現実解としてのユースケース
現状の業務フローに番号利用を組み込んでいく方法です。例えば、税の申告情報に番号を追記して、名寄せ・マッチングの効率化を目指す等があります。
(2)抜本的な改革を求めるユースケース
番号をきっかけとした制度改革とも言える方法です。例えば、年末調整を廃止して、記入済み申告制度の導入を提案する等があります。
(3)番号を必要としない代替手段としてのユースケース
提案されるユースケースの中には、無理やり番号を使っているような場合もあります。より簡便で費用対効果も高いと考えられる代替手段を考え、番号利用のユースケースと比較することで、ユースケースの絞込みも進むことでしょう。情報連携基盤がうまく機能しない場合の保険としても有効ですし、お互いを否定することなく、両者を上手く融合することも可能です。例えば、金融機関等と同等の本人確認により発行される電子メールアドレスに対して、行政機関等が公的なお知らせを通知する等があります。
現在提案されているユースケースやそれらに対する批判は、どちらも一長一短といった印象がありますので、こうした多角的な取り組みが必要なのではないかと思います。