「こおろぎの草子」 「虫の三十六歌仙」 25~30
25、毛虫
いかにせむ 我が身の毛虫 なかなかに 人の見る目も さぞやはづかし
イカニセン ワガミノケムシ ナカナカニ ヒトノ ミルメモ サゾヤ ハヅカシ
解釈:どうしようか?毛だらけの我が身が、人に見られるのも恥ずかしい。
考察:「我が身の毛」とすべきを、「我が身の 毛虫}としています。
26、とかげ
世を捨てて 柴のとかげ(戸陰)に 引きこもり いかでや人の 毒と成るべき
ヨオステテ シバノ トカゲニ ヒキコモリ イカデヤ ヒトノ ドクト ナルベキ
解釈:俗世間を捨てて、柴の戸(の)陰に引きこもっているので、(姿は醜いが)人の害には成りませんよ。
考察:「柴のとかげ」は、「柴の戸かげ」ですが、あえて、「戸」を「と」にして、とかげ(トカゲ、蜥蜴)とかけています。
27、蛇
いたづらに 身はくちなはと 成り果てて 結ぶえにしの 便りだになし
イタヅラニ ミワ クチナワト ナリハテテ ムスブ エニシノ タヨリダニ ナク
解釈:無為に過ごしていて、我が身は、朽ちた縄(くち なは)に成ってしまった。腐った縄は結ぶ事が出来ない。そのように、世の中と結ぶことが出来ずに、どこからも便りが来ないで、孤独です。
また、私は、無用の長物になってしまった。
考察:蛇の古語は「くちなは=くちなわ=朽ち縄」です。
28、しらみ
思ふ事 かきくどくまに 長月の 夜はほとほとと しらみこそすれ」
オモウコト カキクドクマニ ナガツキノ ヨワ ホトホトト シラミコソスレ
解釈:秋の九月(長月)に、夜に、悶々として、思い悩んでいたら、空が白んできてしまった。
考察:「しらみこそすれ」は、「白みこそすれ」だが、虱(シラミ)と白み(しらみ)を懸けている。
29、のみ
ひとりのみ 思ふ心の かひもなく とび立つばかり 物ぞ悲しき
ヒトリ ノミ オモウ ココロノ カイモナク トビタツバカリ モノゾ カナシキ
解釈:一人だけで、物を思っても何にもならない。飛び立ちたい程に、もの悲しい。
考察:「ひとりのみ」で「一人ノミ」と懸けて、ノミという語句を入れた。
30、百足(ムカデ、この場合は蜈蚣)
とにかくに 世をはてむかで 渡るべし 数多の足も 頼まれぬ身は
トニカクニ ヨオ ハテ ムカデ ワタルベシ アマタノ アシモ タノマレヌ ミワ
解釈:歌の全体の意は、足がたくさん有っても、頼りない弱い身で有るので、死のうとは思うのだが、死にきれないので、生きていこう(世を渡る)。
考察:「世を果てむかど」で死のうとは思うのだけれど、の意であるが、「むかど」を「むかで」とした洒落である。