「こおろぎの草子」 「虫の三十六歌仙」 13~18
13、小がねむし(コガネムシ)
山吹の 色をあらそ(争)ふ こ金虫 くさ木もなびく 光なりけり
ヤマブキノ イロオ アラソウ コガネムシ クサキモ ナビク ヒカリナリケリ
解釈:金色に輝くコガネムシの美しい金属的な光沢は、草や木も引きつけられるであろう。
考察:コガネムシには多くの種類があるが、山吹色のコガネムシはいない。ここでは、山吹色=金色=金属的光沢色との意であろう。
14、松虫(マツムシ)
夜もすがら 恋しき人を 松虫の 音をなきわぶる 野べぞ露けき
ヨモスガラ コイシキヒトオ マツ ムシノ ネオ ナキワブル ノベゾ ツユケキ
解釈:夜の間中、恋しい人を待っていても、来ないので、泣いています。野には、露が下りていて、寂しさを増すようです。
考察:「恋しき人を待つ」とすべきを「恋しき人を松」として、「松」に「虫」を続けて「松虫」としています。
松虫は、その鳴き声で知られていますので、泣くにもかけています。
15、蝿
玉だれの 錦の床の上までも は(這)ひあがるこそ くわはう(果報)成りけれ
タマダレノ ニシキノ トコノ ウエマデモ ハイアガルコソ クワハウナリケレ
解釈:玉の様に美しい立派な床の上にも、止まって這い回れるのは、前世に良いことをした結果でありましょう。
考察:「はひあがる」で、「蠅」と「這い」をかけている。
16、くつわむし
ものおもふ 心の内ぞ くつわむし 人の情(なさけ)を かけぬ身なれば
モノ オモウ ココロノウチゾ クツワムシ ヒトノ ナサケオ カケヌ ミ ナレバ
解釈:物を思う、心の内は、苦痛です。クツワムシである私は、人からの情けをかけてはもらえない身です。(人ではなく、虫けらですから。
考察:「苦痛」と「くつわむし」とを、かけています。
17、日暮(ひぐらし)
何となく けふ(今日)は日暮し あす(明日)は又 いか(如何)なる方に 身をや隠さむ
ナントナク キョウハ ヒグラシ アスワ マタ イカナル カタニ ミオヤ カクサン
解釈:何となく、今日は行き当たりばったりのその日暮らしであった。明日は、どこに我が身を隠そうか?
考察:「ヒグラシ(蝉の一種)」と「その日暮らし」とを懸けています。
18、かまきり
草の葉を かま切り立てて かる野べの 露のうき身は おき所なし
クサノハオ カマ キリタテテ カル ノベノ ツユノ ウキミワ オキドコロナシ
解釈:草の葉を、鎌で切りたてて、刈っている野原では、露のようにはかない身であるカマキリである私の、身を隠す草が無くなってしまった。
考察:「鎌 切りたてて」を「かまきり たてて」とすれば、「かまきり」となります。