goo blog サービス終了のお知らせ 

江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

土佐の狸の怪 3.小八木(こやぎ)屋敷の古狸 その(2)

2023-04-13 17:18:36 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

土佐の狸の怪 3.

   小八木(こやぎ)屋敷の古狸 その(2)

                                                                         2023.4

さて、又、先程の小八木屋敷の古榎の下の狸については、以下のような話もある。

ある時、山田某と言う武士が、夜更けて榎の所に行って、小便をした。
すると、たちまちに何であろうか大変大きなものに、体をひた押しに押付けられたような心地がして、全身がすくんだ。
なんとか立ち上がろうとしても、出来なかった。
仕方なくて、しばらく、そのままにしていたが、町巡りの廻番の男が、拍子木を打ちながら来た。
それで、声を掛け、手をひっぱってもらい、この時にやっと立つ事ができた。

しかし、その後は何も変わった事がなかったそうである。

 

「土佐風俗と伝説」 古狸 より

 


土佐の狸の怪 2.         小八木(こやぎ)屋敷の古狸 その(1) 土佐風俗と伝説 

2023-04-13 17:16:24 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

土佐の狸の怪 2. 

       小八木(こやぎ)屋敷の古狸 その(1)

                                                                                     2023.4

今は昔、高知城下中島町に、小八木某と言う大身の侍が住んでいた。
家屋敷も広く、庭の木立ちも深く泉水などもあって、勝れて美しかったが、家の西表に巨大なる榎があった。
その根本に祖先の神を祭っていた。
玉垣など結い廻してあった。
家人も普段はそこには行かなかった。
そこに、いつの頃からか年経た古狸が住んでいた。
この狸の怪しい行ないは、夜更け人が寝静まった頃、畳の縁を打つ様な音を発する事であった。
世間では、小八木の畳叩きと言って、ウワサになっていた。
そうして、その音の怪しく不思議なことには、家内の者には、聞こえず、また極く近隣の者にも聞こえず、却って二三町遠方の人にはよく聞えたそうである。
その頃、城下の或る人々は、小児の泣きやまぬ時に、「そら畳叩きが聞こえるぞ。」と言って脅かすと、泣きやまぬ子供は無かったと言う事が、ある記録にのせられているのを見れば、相当に名高かった話と見えよう。


土佐風俗と伝説 古狸


槇山の怪物 「土佐風俗と伝説」

2023-02-16 11:13:45 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

槇山の怪物

                                   2023.2

 今は昔、香美郡槇山郷(まきやまごう:高知県香美市南東部)の宇筒廻(うつつまわし)と言う所に、与茂次郎と言う猟師があった。
ある時、くずいと言う高山にぬだ待ち(狩猟)に行ったが、夜明に一匹の大鹿が通るのを見て、これを一発で打ち留めた。
これは好い獲物だと喜んでいる中に、たちまち同一方向より一匹の怪物が現われて来た。
ればその両眼は鏡のように輝き、毛髪は棕櫚の毛に似て赤く、背丈は一丈(約3m)を越し、大木の立っているような両足の間隔はニ間(約3.6m)あまりであった。

この怪物は、この鹿を 追って来たもののようであった。
今にも、倒れた鹿に飛びつこうとする瞬間に、与茂次郎は一発の玉を込めて、それを撃ったが、美事に命中した。
にもかかわらず、怪物は弾丸を撥ね返した。
怪物は怒って、眼を真っ赤にして、今にも飛び掛かろうとした。
しかし、火繩の火に恐れて進んで来ず、その中に恐ろしい地響をさせながら走って去っていった。

その夜、与茂次郎は鹿を肩にして帰ったが、夜半に枕の上に怪しい物音があった。
囲炉裏の焚火に透かして見れば、八十程の老女であった。
さてこそ変怪(へんげ)の襲来かと、再び猟銃を放ち、三十二発に及んだが、手答えはなかった。
これは如何に、と鉄製の四角丸を取り出しので、彼の怪物の老女はこれを見て、掻き消すように姿を隠した。
多分、昼の山中にて逢った怪獣が、獲物を奪われた恨みをはらそうと、襲って来たものであろう、と言われた。

「土佐風俗と伝説」より

 


人骨をかじる狐の話   「信州百物語」

2023-01-13 20:24:12 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

人骨をかじる狐の話 

                                   2023.1

仙丈岳(長野県伊那市と山梨県南アルプス市にまたがる山)の登山道に戸台と云う部落がある。         

ここに次のような怪異譚がある。

この村には、昔からよくバカ火(ばかび:多分怪しい火)が燃える。
村人は、それを「狐の嫁入り」と称しているという。
この怪火は、雪の降る時分が一番多くあらわれて燃える。
真っ白な広原に、真っ紅な火の行列がクルクル燃えひらめきながら、だんだん山の方へ上って行く様子は、実に壮観とも奇観とも珍しいものだと言うことである。

物語は或る年の冬の出来事であった。

今の今まで、小止みなく降りしきっていた雪がピッタリ止んで、夜空には、まばゆい程の星屑が燦(ひら)めき出した。
隣の村に用事があって出掛けた一人の村人が、ようやく夜更け(よふけ)に帰路についた。
青光る雪の野原を横ぎっていると、前方にトロトロ燃えている赤い火を見つけた。
村人は、すこし恐くなってしまった。
なぜかというと、そこは火葬場で、新仏を焼いているらしいのだが、帰り道はどうしてもその側を通らねばならなかったからなのだ。

近付くに従って、人体を焼く異臭がプンと鼻を打った。
吐きっぽくなるような、一種の甘ったるい臭いがした。
ここの野外での火葬は、昔から続いているのものである。
しかし、遺体を焼く煙が立ち上る傍らに、隠亡(おんぼう:火葬場の従事者)が半身を真っ赤に染めて、魔人の様に立っている姿などを見せられては、なにかぞっとするものである。
それで村人は、袖で鼻ロを覆って、火葬場の方は見ないようにして、雪道を急いだ。

ところが、通り過ぎて、しばらく行くと、かたわらからガタガタと言う異様な響きが、突然起った。
村人は思はす、ブルブルとして立ちすくんでしまった。
怖る怖る振り返えると、道の傍に一匹の狐が人骨をかじっていた。
そのかじる音であった。

その瞬間、村人を見上げた狐の目が、ギラギラと青光りしたように感じた。
真夜中の雪の広原、火葬場の傍で、狐が人骨をかじっているのを見たら、大ていの人間なら、ぞっとしてしまうであろう。
月並みな言い方だが、この村人も冷水をかけられたやうに慄然とした。

が、次の瞬間には、狐は人骨をくわえたまま、雪の原を真一文字に走り出した。
見ると不思議なことに、その狐が走るに従って、ロにくわえている人骨が真っ青な光を発していた。
何の事はない、人魂が大地をはっているようであった。
しかもその怪火は、山へ山へと上って行ったと言う。
ふと我に帰った村人は、息せき切って家まで走り帰った。

その後、これこそ例の「狐の嫁入り」の正体であろう、と人々に語ったそうである。


 「信州百物語」 信濃郷土誌刊行会 編、昭和9年 より。

 


狐が屋根の上を飛歩いた話 「安濃津昔話」

2023-01-13 17:32:00 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

狐が屋根の上を飛歩いた話  「安濃津昔話」
                                  2023.1

狐を馬に乗せたという話は聞いたことがあるが、狐が屋根を飛び歩いたとは、珍らしい話である。

それは元治元年の五月二十二日朝の五ッ時 (午前八時)に、魚町の嘉左衛門(かざえもん)の家から与平治(よへいじ)の家まで、狐が屋根を飛び歩いた、とのことである。
それで、六月二十二日牟山神社(三重県多気郡多気町)に御湯を上げたという記事がある。

記事になっているからには、最も信ずべき記録であろう。


「安濃津昔話」より