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NATOは脳死しつつある by マクロン

2019-11-08 15:52:21 | 欧州情勢複雑怪奇

アメリカがウクライナ系による謀叛もどきを受けて機能不全になる中、フランスのマクロン大統領の発言が議論を呼んでいる。

The Economistに載ったもので、NATOは脳死しつつあると言ったというのがその騒ぎの核心。

Emmanuel Macron warns Europe: NATO is becoming brain-dead

https://www.economist.com/europe/2019/11/07/emmanuel-macron-warns-europe-nato-is-becoming-brain-dead

 

もちろん脳死なんですよ。終わりにすべきだったものをロシアが弱ったんだったらいいだろうぐらいのいい加減な話で東方拡大したものなんですから。

ウクライナゲートを処理できるのだろうか

そしてその東方拡大した軍をひきいてクロアチアを使ってユーゴスラビアを解体して、セルビアに惨い仕打ちをし、時を置いてウクライナに襲い掛かる。

NATOは紛れもなくナチス・ドイツの軍になっていたというお話でもある。

実際そこで大いに喜んでるのが本物のナチ残党だったわけだから、この話は単なる比喩ではない。マジ。

今年の1月1日には、

ウクライナ議会は12月後半に、ステファン・バンデラというナチ協力者として知られる男を記念して1月1日を彼を称える祝日とした。

バンデラを称えるウクライナ&欧州ネオナチ同盟

という事件があり、それを一生懸命支えるカナダの外相の祖父は当時のナチ協力者で、その後アメリカに拾われ、カナダに移住した人。冷戦中このおじいさんを戦争犯罪者として追及していたポーランドはまさかカナダにいるとは知らず追及できなかった。その孫娘が現在カナダで外相となり渾身の反ロシア主義者としてウクライナのバンデラ主義者を支援している。

「西側ではナチズムが生きている」カナダ編

 

(西側が支援するウクライナの「ナショナリスト」さんたち)

 

しかも、ナチシンパを野放しにしていたもので、ヒトラーとスターリンは同じぐらい悪いのだという話をとっかかりにナチは正しかった説を流布しようとあの手この手を使う勢力をEUは統御できない。

(ヒトラーとスターリンが同じくらい悪いというのを別の次元で話すのはいいとして、事実起こったWW2への道の説明でこれを持ってくると、これは明確な間違いであるのみならず結果としてナチは正しかった論に引っ張られる話に行く構造になってる)

The EU Is Rewriting WWII History to Demonize Russia

 

というところで、ドイツ+アングロ&シオニストの跋扈に対して、国情としてナチシンパが少ないフランスが出てくるのは考えてみれば適役のようにも思うし、そもそも英&シとフランスにはロシアを巡っては因縁はあるという見方もできるでしょう。

 

■ パワーバランス

といって、フランスはNATOの問題だけを言っているのではない(後述)。

ただ、喫緊の課題として、ロシアと中国の接近があまりにも揺るぎないものとなっていることに対して、西側はこのままではバランス的に沈没していくだけだという焦りがこのような事態を引き起こしたドライバーじゃないかと思われる。

中露の認識の一致も、西側が冷戦時代につくったインチキ話を地味に粉砕しているわけだから、ここも西側には問題がある。

再び歴史的なモメントを迎えた中露 by 習

 

で、西側は本音を言えばなんとかしてこの2つを分けたい。分けるのは諦めたにしても、ユーラシア vs 西側にしないで、バランスオブパワーぐらいにしておきたい、ぐらいは考えているんじゃないかと思う。

この間の、

ロシアは中国の早期警戒システム構築を支援してる by プーチン

なんかは、相当にインパクトのある事態だと思う。

つか、NATOというかアメリカの軍事覇権の「絶対神話」みたいなものが崩れているっていうのも実に深刻な現状。アメリカは巨大な軍事予算を持っている、だから世界一みたいなアホなことを信じさせられたのは、ハリウッドとメディアとアホなオーディエンスのおかげ。

 

あと、大分前に書いたけど、NATOはバルト三国というそもそもロシア帝国時代からロシアだろ、そこ、というロシア本体の近接地を入れたことによって、戦略的に動けなくなっているという愚かな話もず~っと影響していると思う。

 

■ バランスシート

まとめてみると、英米+ドイツ(各国全部ではない)のお粗末な話に付き合った結果、実のところ見える将来に+になるものがホントにない。

  • バンデラ主義者のウクライナを庇い続けられるのかという点で政治的に重荷。
  • ウクライナを欧州にとかいって、巨大な欧州最貧国を作ったことによる経済的な重荷。
  • バルト三国、ポーランド、ウクライナ etc.(いわゆる東方パートナーシップ諸国)を拾ってロシアと決戦の体制を作ることの無謀さによる軍事的な重荷。

この上に、クリミアを問題にしてそれをネタにロシアに経済制裁をかけたことによって、

  • 経済制裁によって、欧州は約1.5~1.8億人のロシア主導の市場を失ったことによって、欧州内の様々なセクターが損失を被った
  • ロシアは、経済制裁をきっかけにあらゆるものの国産化が進み、自給自足が可能な(だが閉鎖しない)経済体質となった
  • それに従い、恒常的な黒字が計上され、現在では借金の非常に少ない、お金を貯めてる(先進国ではレアな)国となった。もちろんゴールドの備蓄もずっと増えてる
  • ロシアと中国の間のエネルギー資源の取引が大きくなったため、中国の中東依存が減った(戦略的な余裕が出る)
  • ロシアは中国との関係を両国史上かつてないほどに良好な関係にし、あらゆる分野で協力を進めている
シリアでの西側の敗戦を挟んで
  • 黒海のパイプラインを契機にロシアとトルコの関係が強化され、ついには軍事分野の協力体制にまで協力が及んだ
  • イランがユーラシア経済連合(EAEA)の準加盟国となり、あわせてロシアのswift代替手段SPFSへの接続が進んで、イランの西側からの経済制裁を振り払う役割となった

 

と、思いつくだけ書いてみたけど、西側にとって良かったことを見つけるのはとても困難。少なくとも金にはなってない。多分、ウクライナのバンデラ主義者が喜んでるとか、ウクライナの債権を使って世銀やらIMFが金を引っ張るのをネタにヘッジファンドが儲けたとか、ウクライナに武器を渡したことで多少潤ったメーカーがいるだろう、ぐらいのことではなかろうかと思われる。あ と、「リベラル」がロシアが苦しむことによって幸福感を味わっていた。ほうらみなさい、私たちのようになりなさい、みたいな調子で。

ということで、2014年の騒動というのは、こんな失敗作戦はかつて見たことがないほどに壮絶な失敗作戦であったと決算するしかないように思う。

ウクライナのディアスポラ集団を抱え込んで喜んでいる米の民主党というのは、もう解党した方がいいんじゃないかというほど酷いものになっているというべきだし。

 

■ マクロンの認識は8月から知られてる

で、マクロンは、というよりフランスの政界は今日思いつきでこんなことを言っているのではなくて、振り返ってみれば2003年のイラク戦争に反対していたことをとっかかりに、この成り行きに疑念を持っていたとは言える。ただ、自分でリビア破壊、シリア破壊に出向いているのですべからく良いわけではもちろんない。

シラク葬儀:在りし日のヨーロッパを見る思い

 

書こうと思っていて時期を逸してしまったのだが、マクロンは8月末にフランスの各国への大使たちを集めた会合で、現在の西側の首脳としては驚くべき認識を披歴したというので過去2ヵ月地味に話題になっていた。

フランスの大統領府にあるこれ。

https://www.elysee.fr/emmanuel-macron/2019/08/27/discours-du-president-de-la-republique-a-la-conference-des-ambassadeurs-1

 

この中でマクロンは、

現在私たちは疑いもなく世界に対するWestern hegemonyの終わりを経験している

私たちは18世紀以来Western hegemonyの世界に知らず知らずのうちに慣れている。18世紀には主としてフランス(啓蒙主義)、19世紀にはイギリス(産業革命)、そして最後に20世紀のアメリカだ、と。

しかしそれは変わっている。

という認識を披歴し、その上で、世界が大きく動かされた、というのを

いくつかの危機におけるWesternの誤り、何年間か続いたアメリカがなした選択によって、と続けている。

par les erreurs des Occidentaux dans certaines crises, par les choix aussi américains depuis plusieurs années

 

これはつまり、まぁ自分たちも含めてアラブの春からウクライナ、その後のオバマ政権の馬鹿さ加減といったあたりが念頭なのかなとも思えるし、もう少し前からのことかもしれないが、ともあれ、最近よく見られる中国の勃興のせいにだけはしていないところが独自だし、実際それは正しいでしょう。

その後に中国の勃興の話が出てきて、中国を過小評価していたとも言ってる。なんというか、率直すぎてどうしたのこれといった代物。

というか、外交官を前にプロパガンダを事実として語っても無意味なわけだから、案外各国でこんなことは起こっているのかもしれないとは思うが、それを公式なサイトに出しているのは現在のところフランスだけであろうと思われる。

 

なにがどうなるのかわかりませんが、西側の中に対立があるのは間違いない。そして何もしないで済ませられる類の対立ではないのも確か。

 

■ オマケ

7月には、NYTにこんな論説が載ったこともあった。

さらに21日付けのopt-ed。これはNYTの編集委員会が書き手なので、個人の投稿ではない。

「ロシアが中国カードを使ったらアメリカはどうやって勝つのか」

What’s America’s Winning Hand if Russia Plays the China Card?

https://www.nytimes.com/2019/07/21/opinion/russia-china-trump.html

奇妙なことを言い出したNYT

 

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