ウクライナ議会は12月後半に、ステファン・バンデラというナチ協力者として知られる男を記念して1月1日を彼を称える祝日とした。
また、今年は、生誕110年だとかで、「ステファン・バンデラの年」となるようだ。
そういうわけで、1月1日、ウクライナでは大盛り上がりで人々が集っている。
プロパガンダの本拠地みたいなキエフ・ポストにもたくさん写真が載ってる。
Ukrainians march to mark 110th birthday of Stepan Bandera (PHOTOS)
https://www.kyivpost.com/multimedia/photo/ukrainians-march-to-mark-110th-birthday-of-stepan-bandera
■ ドイツは連帯のメッセージを出すべき
今後の見どころとしては、ドイツは連帯のメッセージを出すのか?でしょうか。
もちろん出してくださいね。ドイツこそアメリカCIAさんたちと共にこの人たちを育て、冷戦後はさらに馬力を入れて、2006年には「オレンジ革命」なるものを盛大に執り行い、それによってバンデラ主義者は大出を振ってウクライナの新しい公式イデオロギーとなったわけですから。
ドイツの勝利というべきでしょう。自由の戦士と呼ぶもよし、連帯のメッセージを出すもよし、メルケルが訪問してポロシェンコと共に、バンデラの写真にぬかずくのもいいでしょう。それがドイツの意思なのでしょうから。
1月の後半は、アウシュビッツを赤軍兵士が開けたことを記念して毎年式典が行われていたが、数年前そこにロシアを招かなかったことが少なからぬユダヤ人たちにショックを与えていた。
バンデラ主義者たちは、アウシュビッツの解放はソ連軍兵士ではなくて、ウクライナ人が行ったのだなどと主張してもいた。民族的にウクライナの兵士もいただろうが、あの作戦はソ連軍兵士たちの行動であるとクレムリンは声明を出し、歴史的に考えてもそれはまったく正しいと思うのだが、ドイツはそれを全面的に支援してはいなかった(政府対政府ではドイツ外務省がロシア外務省の言う通りです、と言うがメディア等が異なるといういつものやり方)。無論アメリカも。
ということなので、おそらくそのうち、ホロコーストとはスターリンの犯罪で、ステファン・バンデラとヒトラーこそユダヤ人の解放者なのだぐらい言い出しかねない。
■ イスラエルの反応
一応、これに対して、イスラエルのユダヤ人たちの中には酷く腹を立てている人が要ることは嘘ではない。ここ何年もの間に個々のユダヤ人たちがウクライナの動向を危険視して声をあげていたことは私も知っている。
しかし政府や、あるいはユダヤ人の得意なメディアの分野での反応は実に微々たるもののようだ。
Ukraine Designates National Holiday to Commemorate Nazi Collaborator
イランを叩くための大掛かりなメディア・キャンペーンと比べたら、ほとんどゼロと言っていい。
■ 米リベラルの反応
アメリカのリベラル界はほぼ沈黙を保っているが、バンデラ主義者の勃興をそう喜んでもいないようで興味深い。
どうしたことでしょうね。メルケルと共に連帯にメッセージを出したらいいじゃないですか。
どうも迷っているのか自信がないのか知りませんが、リベラル界の機関紙の1つNewsweekは12月27日付けで記事を出して、
ウクライナはナチスの協力者を記念した祝日を作り、反ユダヤ主義のリーダーに批判的な本(スウェーデンから出た本)を発禁にした、などと言っている。
Ukraine Makes Birthday of Nazi Collaborator a National Holiday and Bans Book Critical of Anti-Semitic Leader
By Jason Lemon On 12/27/18 at 1:43 PM
https://www.newsweek.com/ukraine-nazi-collaborator-birthday-holiday-anti-semitic-1272911
Newsweekの記事に苦闘が見えるなと思ったのはここ。
人権活動家たちはウクライナのネオナチの勃興に深刻な懸念を示している、特に、ロシア支援の分離主義者たちが2014年にウクライナのかなりの部分を支配して以来のことだ。
衝突は反ロシア感情とウルトラナショナリストの感情を増大させている。ナショナリストの一部はネオナチのイデオロギーにも頼っている。
Human rights activists have raised serious concerns about the rise of neo-Nazi groups in Ukraine, particularly since Russian-backed separatist rebels took control of sizable portions of the country in 2014. The conflict has led to an increase in anti-Russian sentiments and ultra-nationalist feelings. Some of the nationalists have turned to neo-Nazi ideology as well.
まず第一に、ネオナチのイデオロギーが入り込んだのは2014年ではない。それはむしろ結果だ。既に2006年のオレンジ革命の時にステファン・バンデラが顕彰され、ロシアは反発した。
しかしリベラル界隈は無視し、むしろ、ウクライナのステファン・バンデラ主義者を支援した。
また、2014年のウクライナのクーデターは、それらステファン・バンデラ主義者となんと表現していいかわからないゴロツキ軍団を使ってEU諸国とアメリカが行ったものだ。
ついでにいえば、もう何度目かになっているが、ロシアの提案でナチス協力者を顕彰したり、英雄視したりする傾向を止めるべきだという議決案が国連に出されている。もちろん、EU各国もアメリカも反対している。
ということから考えれば、今見ているものは、あなたたちの勝利であろうにそうは書けず、またぞろ、いやそれはロシアの挑発に対する反撃で、とか言い出しかねない。屋上屋に嘘を重ねると滑稽になるというのをいいかげん学習したらどうなんだろうか。
ロシア連邦安全保障会議書記のニコライ・パトルシェフさんは、最近のインタビューで、
ヨーロッパでネオナチ同盟が出来ることを排除しないと言っている。
これは主に、歴史修正の産物で、就中、第二次世界大戦についての認められた結果をひっくり返してきた過程の産物だろう、と言っている。
これは実にまったくその通りでしょう。
そもそもアメリカ覇権というのは、ロシア人2700万人の死体の上に乗っている、というのが私の考えですね。
ソ連の人たちは自分の領分が攻撃されたから戦った、まったくの防衛戦争としてナチとその子分だったハンガリー、ルーマニア、イタリアetc.をソ連領土内から追い出したわけですよ。
こういう犠牲を払って。死亡者のリストの赤い線は兵士。オレンジは民間人(数)。青線は人口比(率)。
それが第二次世界大戦の主たる結果。その間というよりそれに至る過程で西ヨーロッパ諸国の半分ぐらいの人たちを悩ませていたのはファシズムとその協力者たち。ヒトラーが政権を握る過程を見て素晴らしいと思える人は本質的に平和や秩序、議会制民主主義に対して理解がない人たちしかいないでしょう。
だからこそ、ファシズムの頭であるドイツと戦いだしたソ連がそれらの反ファシズムの人々にとって頼もしく思えた。仲間でもあったでしょう。フランスのレジスタンスなどはまったくこの路線。
さてしかし、そうやって戦争が終わりに近づいた時、これではまずいと思った英米+αは、この際、踵を返してドイツ兵を誘ってソ連を叩こうと考えた(アンシンカブル作戦)。
しかしできなかった。最近この作戦を調べてる学者たちは、物理的にソ連が強いとか云々言ってるけど、根本的にそんな議論は糞の役にもたたないでしょう。英国兵士も米国兵士も、今までとは全く解釈の違う何かのために突如踵を返して、昨日までの味方を撃ち、敵と組んでお前も死ねと言われてもできないでしょう。チャーチルらが考えたアンシンカブル作戦を拒否したのはイギリス参謀本部と言われているが、現場を預かる者としたら当然の判断。
巨大資本家グループってほんと、人間と大砲の球の区別がまったくない。
そこで、第二次世界大戦後は、ひたすら、あれは共産主義者との戦いだったのだ路線を出して来た。中国戦線がどうも蒋介石じゃダメだと見えたから余計にこの路線が堅固なものとなっていったのだろうとも思う。
欧州の学者はまだここを引き込んで議論できていないようだが、1949年の中国共産党の勝利というのは実にまったく大きなインパクトだったはず。というか絶対そう。
■ 両建て作戦の決壊
共産主義者との戦いだったのだ路線を言い出してはみたものの、しかし、英軍兵士、米軍兵士はファシストのナチスを倒すために、あるいはナチ+大日本帝国を倒すために苦闘したわけだから、米の支配者としては、それは嘘でしたとか、間違ってましたとは言えない。
言えないし、言ったら今度は、西ドイツと日本を占領してる根拠もなくなっちゃう。
そこで、表面は第二次世界大戦とはファシズムとの戦いだったと語り、裏面では、後年のネトウヨみたいないわゆる反共右翼グループを通じて、しかし本当は共産主義との戦いだったのだ、などと教える。
根拠として、ルーズベルトが共産主義者に騙されたのだ、とかいう話がこの説の肝。(この問題をつつくにつつけないのは、多分、ユダヤ&イスラエル問題。なぜならイスラエルを作ろうとしていた勢力があちこちで矛盾する動きをしてたから)
また、スターリンとヒトラーは通じ合っていたとか、両方がヨーロッパを征服しようとしていたのだ云々というのが、主に、モロトフ・リッペントロップ協定を根拠に語られる。これは、極東側のノモンハンを入れてみるとソ連に余裕がないことがわかり、ドイツの一部は第一次世界大戦時のように挟まれる可能性を恐怖しだしていたことが普通に想像できるもので、そんなヨーロッパ征服プランではない。
戦後の米覇権を支えてきた作戦は、要するに両建てだった。
で、その微妙なバランスが崩れたのが冷戦崩壊時だと思う。
西ドイツはナチの後継国で、ナチに抗して破れてソ連が勝った後に戻って来たドイツ人の国が東ドイツなので、冷戦によってあたかも東ドイツを西ドイツが「併合」して一切の履歴を語らせなかったことによって、考えてみればナチ称賛派が勃興するのも無理はなかった。
ソ連に抗してナチのために働いたステファン・バンデラを匿っていたのも戦後の西ドイツ。
一番有名なステファン・バンデラは、欧州に潜伏して、1959年、西ドイツ時代のミュンヘンで、ソ連KBGによって暗殺される。
ソ連はバンデラが残した、反コミュニズム&反ユダヤを極端に訴えるこのイデオロギーを鎮静化させようとしていたが、外部からの支援があるからいつまでも消えず、最終的にソ連が崩壊すると、それらのバンデラを英雄視する人々がオリガーキの勃興する中で復権を果たして現在のウクライナの混乱となりました、と。
「UKRAINE ON FIRE」with オリバー・ストーン
であれば、ナチは正しかったという流れができるのも無理はない。
ドイツの東西ドイツ統合というのは、結果からみれば、ドイツの再ナチ化みたいなものだった。
で、今後どうするんでしょうか。メルケルはウクライナのポロシェンコと共にバンデラ主義者こそ正義の者であるとメッセージを寄せるんでしょうが(ぜひそうしてください)、それをフランス、ハンガリー、ポーランドなどなどはおとなしく、まさにその通り、ドイツ様の言う通りと言うんでしょうか?
ハンガリーは賢明なことに、多少この傾向から身を離している。オーストリアも同様。第二次世界大戦に至る流れとしてはかなり強硬にファシズムだったところが今回は離脱気味。面白いことだわ。
また、英米さんはどうなの? 上のNewsweekの記事を見るに、ナチ協力者を賛美することをもろ手を挙げて賛成してはいないようですが。
そしてもちろん、イスラエルはどうするのだろうか?
■ ホロコースト問題プラットフォームの決壊
ホロコーストという問題を立てたその立て方が作為的だったという話も、この際同じように矛盾が露呈されていくでしょう。
ここらへんで書いた通り。今年はこの問題がクローズアップされる(または前提として進む)と思われるので、復習しておこう! お正月スペシャル:今年のユダヤとヒトラーみたいな感じになってるけど(笑)
イスラエル首相、5月9日モスクワ訪問
ヒトラーまわりのドイツの歴史についてはこのへん
混乱を無視して進むドイツ流
大西洋主義者、NATO、リベラル
2018年4月に、ロシアのザハロワ報道官が、ナチのソ連侵攻前にルドルフ・ヘスが イギリスに行ったことについて言及していたこともこの一連の両建て作戦決壊の流れにおいては重要だ。
こうなったら私もお正月はナチ問題その年の総括の日にしてやる、という気持ちですね(笑)。ふざけやがってとの思いを一年間この日に向けてネタを集めて総括する。よーし、来い!という気持ちですね。
だからドイツも四の五の汚いことやってないで、ベルリンで鉤十字行進をアゾフ大隊と一緒にやればいいんですよ。SSこそ我が力、とか言って。
SSに入り込んでたイスラム同胞団初期の人たちも呼んで、さらには、ユダヤ人殺害に功績のあるカナダの外相の一族も一緒に並べばいい。役者は揃ってる!
https://www.youtube.com/watch?v=cjjhzVUn0H4
イスラエルのケドミ氏、
「ヨーロッパは徐々に元の姿に戻りつつある。ヨーロッパには、過去にも現在にもナチズムは存在している。ナチスドイツ崩壊後、なりを潜めていた期間は終わりつつある。指摘したいのは、ソ連のプロパガンダが、ナチズムとファシズムを混同したことで、これらはまるで違うものだ。簡単なことで、ファシストは「自分の国が一番だ。人種差はない。」と言うのに対し、ナチストは、「自分の民族が一番だ。他の人種は劣等であり、その生死は我々が決める。」と言う、まるで別物だ。だからドイツはナチスドイツであったのであり、ファシストではなかった。彼等はファシストを軽蔑していた。逆にファシスト、ムッソリーニはナチストを、イタリア文化の優越性もあり軽蔑していた。ドイツの同盟国、ハンガリー、ルーマニア以外の国でフランス程、ナチスドイツに協力し共に戦った国はない。アフリカ、中近東で戦い、自発的にフランス内のユダヤ人狩りを行った。その協力者のひとりがミッテランである。フランスは何も変わらず、ドイツも何も変わっていない。
誰もナチスドイツとは戦おうとしなかった。アメリカは対ドイツ戦を始めたか?否。宣戦布告したのはヒトラーだ。戦争中、常に民間企業を通じドイツへ燃料供給したのはアメリカだ。スウェーデン、中立国?スウェーデンの鉄がなければドイツの戦車はなかっただろう。全ヨーロッパはナチズムを受容し涵養し、そこから利益を得たのだ。」
これが最初の5分程度の大意です。ロシアでは国営放送のプライム時間にこういう番組が放送され世論形成に影響しています。西側の歴史観世界観とは真逆でしょう。どちらが正しいか。近年のルソフォビア、ロシアメディア批判は西側の自信の無さの表れだと思いますが、どうでしょうか。
あ、それから、「アウシュヴィッツはウクライナ人が解放」ですが、ソ連の「第一ウクライナ戦線」という名の部隊(当然ソ連の様々な民族からの部隊)が解放したということから、西側では知ってか知らずか、例により単純化して「ウクライナ人が解放」と報道され、キエフでもそうされているということで、モスクワでは随分と馬鹿にされ報じられていました。
ファシズムに差別がないというのは受け入れがたいですが(ファシズムといわれた国家群はだって失地回復がビルトインされていたから)、ナチズムというのはそういうものとは違う、というのはこの話の肝のような気もします。つまり、もっと大きなプロジェクトだったということ。
多分例外はチェコスロバキアぐらいでしょうか(だから襲われるわけですが)。
要するに、ヨーロッパ(の支配層)は何も変わってない。
しかし、最近の傾向として、そこらへんに気づく人(少なくとも戦後神話がおかしいと思う人)が冷戦期と比べたら表に出やすくなったのは喜ばしいと思ってます。そこが前回と異なる結果に導くものとなることを願ってますが、どうなりますか。
今年もよろしく!