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シラク葬儀:在りし日のヨーロッパを見る思い

2019-10-01 18:04:55 | 欧州情勢複雑怪奇

9月30日、先日亡くなったフランスの元大統領シラク氏の葬儀が行われた。

ロシアのプーチン大統領が出席したことは、多くの記事に出ている通り。いろんな意味で一番の大物招待客のようではあった。

国家元首クラスの人が約80人列席していたそうなのだが、米国政府の正式な代表者はフランス大使のみ。

ただし、ビル・クリントンの姿はフィーチャーされているようではあった。ビルもアメリカにいる時より大分穏やかな佇まいで、アメリカ政治の破廉恥さを持ちこんでなかったのはよかった。

また、ドイツのシュタインマイヤー大統領、ハンガリーのオルバン首相、EUのユンケルなどの欧州勢も参列。フランスは、ジスカール・デスタンが存命で姿が見え、サルコジ、オランドという元大統領が並んでいた。マクロンは非常に真面目に務めていた。

さてしかし、ここでドイツのシュレーダー元首相が見えないことはやはり不思議ではあるまいか。

なぜフランス大統領の葬儀にプーチンが行くことが当然視されるのかといえば、こういう関係を構築し、そのハイライトの1つとして2003年のイラク戦争への反対があったからなのだから、やっぱりシュレーダーがいないのは釈然としない。

いやしかし、こういう日々があったわけですよ。

 

RTのフランス版に出ていたんだけど、なにかとても懐かしく思い出される。地球よ、地球、何もかも懐かしい、みたいな気分。

https://francais.rt.com/international/66328-chirac-poutine-schroder-trio-europeen-annees-2000

 

つまり、ここ15年でヨーロッパは失われたも同然なのだななどとも思った。個々の傾向はいろいろ別途評価されるとしても、少なくとももうこんな政治家、その国に対して大きなプライドを持って、nationの来し方行く末を考えて、様々な役職を通して、様々な局面を通してその国の政治を司るのは私であるといった態度を取り、それがその国の国民にも、好悪、評価はそれぞれだとしても、そりゃそうだろう、とみなされるような人々を出せる集団ではなくなっている。こういうことは一度途切れればその次を構築するのは年月が経てば経つほど難しい。

 

 

相集って、肝胆相照らすからこその笑みとおふざけ。なんと人間らしかったんだろう。ヨーロッパよ、ヨーロッパ、何もかも懐かしい。

 

■ シュレーダー

ドイツのDWによれば、シュレーダーはフランスから正式に招待されていなかったという話もあるらしい。しかし一方で、葬儀が行われた教会での彼の名前のついた椅子は空になっていた、という説もある。そうであるなら招待はされていたのでは? 

不明ですね。

 Germany's ex-chancellor Gerhard Schröder was also expected to travel to Paris. However, his office said that Schröder has not been formally invited by French officials, and a chair marked with his name was left empty during a church service honoring Chirac, according to an AFP reporter. The reasons for the missing invitation were not immediately clear. It was also unclear if Schröder would attend the subsequent lunch with President Emmanuel Macron. The former German leader has grown into controversial figure after leaving office in 2005 due to his extensive connections with Russian state energy companies. 

 

察するとしたら、プーチンの出席は確実なので、そこにシュレーダーを並べたら誰だって2003年を思い出さないわけにはいかない設定になるので、それを避けるためにドイツまたはアメリカがキャンセルさせた、ってことではなかろうか。

ちなみに、ドイツのシュタインマイヤー大統領が出席していた姿が見えた。

 

というわけで、2003年の「傷」は、フランスやロシアの側というより、英米+ドイツあたりでちょっとタブー化されているようではある。

つい15年前にやったことさえ直視できないんだったら、そんなことするなよって話でしょう。

あのころ盛んに、それこそシラクやその首相のド・ヴィルヴァンらが、イラク戦争を「正統性がない」という言い方で批判していたけど、まさしくそれ。言えないようなことをするなよ、卑怯者って話。

 

■ カトリック教会でのお葬式

で、カトリック教会で行われた葬儀の模様の動画を見た。

ダニエル・バレンボイムがシューベルトを弾いていた。きれいな音の、悲しみが心のひだにしみとおるような、それでいて光が差し込むような良い演奏だった。

REPLAY - Obsèques de Jacques Chirac : une cérémonie religieuse présidée par l'archevêque de Paris

 

 

で、それはそれとして、多分、小さいがしかし故人を知る人にとって重要な出来事は、教会の式典の中でAupetit大司教が故人について語る際に、シラクがイラク戦争に抗したことを入れたこと。

直訳するとこんな感じ。

フランスが、不正義で、世界の均衡にとって危険な状態に関与せざるを得なかった時、シラクは我々の祖国を無分別な冒険に引き込もうとする友人の国家から自由に離れることができました。

"Lorsque la France pouvait être engagée dans une guerre injuste et dangereuse pour l'équilibre mondial, il a su librement se démarquer des pays amis qui voulaient entraîner notre patrie dans une aventure imprudente", a également déclaré M. Aupetit, en référence au refus de M. Chirac de participer à la guerre en Irak en 2003.

https://www.lepoint.fr/societe/chirac-l-archeveque-de-paris-loue-un-homme-chaleureux-qui-avait-un-veritable-amour-des-gens-30-09-2019-2338534_23.php

 

友人が誤ったことをしていたら、それは違うと言うのが本当の友人だ、という当時の議論を思い出す。当時、フランスと同様にアメリカのイラク侵略戦争に参加しなかったカナダでも、多くの人たちがこういう言い方をしていたものだった。

自由に、というのも、非常に重要な言い方ですね。そう、あの時アメリカにつき従った国々は、あるいはそれに引きずられた人々は心が自由ではなかったのです。

 

■ 正統性

で、この大司教の発言は、もちろんアメリカの破廉恥政治の中ではまったく無視されるのだろうが、しかしそうかといって何の影響もないかといえばそれも違うだろう。だって、自分に逆らったといって怒るのなら、正面から怒ればいいわけだが、それもできない。この姑息さは、彼らの敗北を示しているようなもの。

当時、シラクなどが、正統性legitimacyのない戦争はどこまで言っても正統性はないとさんざん言っていたが、まさにそれだったというべきでしょう。

今さら言ってもしようがないのだが、文明論的にいって、フランス、ロシア、ドイツ当たりがlegitimacyに拘って団結できていたのならそういう線のヨーロッパが存続していたことだろうと思う。しかし現実には、かなわず、そして、サルコジ、メルケルという小姓政治家を入れられて今がある。特に問題だったのはもちろん、フランスのNATO復帰。

 

■ 教会関係者の行動

それはそれとして、今回はフランスのカトリックの大司教がシラクが生きた時代の重要なモメントを現行の圧力に屈せず、日本的にいえば「ことあげ」したわけですが、ここで思い出すのは、シリアで、アサド政権が住民を圧迫してるの迫害してるのと大騒ぎをした時に、行ってみればあなたがたは聞かされているのと違うことがわかります、みたいなことを最初に言ったのも、フランスのカトリックの司祭さんだったような気がする。

カトリックだけでなく、フランス系の東方教会の人もいたような気がする。(後で調べればわかることだが)

 

さらにまた、国際政治を語る上で大きな要素が見落とされている、誰でも見えているのに、といってクリスチャンシオニストの話題を大っぴらにして危うく破門されそうになったアングリカンチャーチの牧師さんもいる。

イスラエル総選挙&「部屋の中の象」&東西

 

さらに、ロシア正教会のコンスタンチノープルとの断絶問題もこれと非常に関係がある。

ロシア正教会、コンスタンチノープルと断絶

 

ということなので、なんとなく焦点が見える気がする今日この頃。

 

■ 雑感

通して考えてみるに、アングロ・ユダヤ・シオニスト連合みたいなこの組み合わせがディープなマスターであろうことは蓋然性が高いわけだけど、この10年、ここの勢力は全力あげて、フランス、ドイツ、ロシアの切り離しをしてたんでしょうね。フランス人も妙な死に方をしてる人がいるし、ドイツ、フランスは意味不明な懲罰金をかけられまくってる。そして、ウクライナというナチスの十八番みたいな行動が来る。

フランス、ドイツ、ロシアの切り離しは成功した。しかし、その瞬間からロシアはユーラシアのロシアとしての存在の大きさをアピールしはじめ、トルコ、中国、イランとの関係改善に全力をあげ、見事ユーラシアの時代が導かれつつある。

もちろん、黙っていても中国の成長が大きな変化をもたらすことは馬鹿でもわかったわけだが、思えば、2007年頃には、「チャイメリカ」などといって中国とアメリカの蜜月時代のシナリオがアピールされていたものだった。アングロがチャイナを抱き込もうという発想だったでしょう。

だがしかし・・・といった感じの今日この頃。

 

上で書いたように、聖職者のその勇気はもちろん人を鼓舞させるわけだけど、結局のところ、中露の勃興、イラン、トルコのユーラシア勢力としての自覚、といった場の変化があって初めて問題解決へと向かうような気もする。

ということは、長い目でみれば、フランス、ドイツ、ロシアが団結しても全体としてはダメだったということになるのかな、と思えなくもない。しかし、ロシアではなくむしろヨーロッパ(古いヨーロッパ)の側にやる価値はあったでしょう。

それらこれらを考えると、90年代の終わりに、ロシア、中国、インドの三極でユーラシアを安定化させることがロシアの生きる道だと構想したプリマコフには先見の明があったというべきなんだろうと思う。

前にも書いたけど、ロシア再生への狼煙は「プリマコフのUターン」の日にあがった。

で、こういう人を出せるのもnationの力だと思うな。しみじみ。


 

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1 コメント

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Unknown (ローレライ)
2019-10-02 21:39:49
サルコジに倒れたフランスのスカルノ!
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