かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 40

2022-04-02 12:44:37 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究2の6(2017年11月実施)『泡宇宙の蛙』(1999年)
    【夢監視人】P32~
     参加者:泉真帆、T・S、曽我亮子、渡部慧子、A・Y、鹿取未放
     レポーター:泉 真帆    司会と記録:鹿取未放
     

40 はるかより木の実匂いて来たりけり二足歩行のけものの乳房

       (まとめ)
 遠くから木の実の匂いと共に近づいてきた「二足歩行のけもの」とは人間の女だろう。原始時代の木の実を採集して生活していた逞しい女の裸の乳房が浮かんでくる。「はるか」は例えば数万年前というような時間的隔たりを含んでいるのかもしれない。木の実の匂いと共に近づいてくる女というのは幻視なのであろうが、それを〈われ〉はありありと感じている。あるいは現実に山道で女性とすれ違ったのかもしれないが、背後に乳房をあらわに出した原始の女を幻視したのであろう。山に来て時間の感覚が日常を超越したときに感じた大いなる幻想のような気がする。(鹿取)


       (レポート)
 遠くから木の実の匂いがしてきた。例えばまたたびのクセのある匂いを自分の鼻が嗅ぎつけた瞬間、自分はその甘い実食べたさに駆け出していた、そんな場面を思い描いた。結句の「乳房」からこの二足歩行をするけものは駝鳥のようなものではなく哺乳類であり、それは作者だということを表しているのだろう。(真帆)


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