かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 295

2024-08-04 08:25:30 | 短歌の鑑賞
  2024年度版 渡辺松男研究36(16年3月実施)
    【ポケットベル】『寒気氾濫』(1997年)120頁~
     参加者:S・I、泉真帆、M・S、曽我亮子、船水映子、渡部慧子
     レポーター:鈴木 良明 司会とテープ起こし:泉 真帆

◆文中※印の(事前意見)は、鹿取が当日発言する為に事前にメモしていたもの
  ですが、当日急用で欠席したためレポートや当日発言とは対応していません。
     

295 残業を終えるやいなや逃亡の火のごとく去るクルマの尾灯

       (レポート)
 さしあたって今日の課題を残業で処理し「逃亡の火のごとく去るクルマ」の尾灯を見送りながら、作者自身も残業を早く終えて競うように帰ろうとしている一人なのだろう。たぶん、そのような日々が連日続いているのだ。(鈴木)


       (当日発言)
★先を競って帰る車の後ろの灯を「逃亡の火のごとく」と喩えられて面白いけれど、や
 はり悲哀を覚えます。(S・I)
★みんなおんなじ思いで仕事してるんだなあって作者は見ていて、部下を思いやり、詠
 んでいるのではないかしら。(M・S)
★作者はまだ仕事が残っていて帰れない。いいなーもう帰れて、という気持が入ってい
 るのかしらと読みました。(船水)
★「逃亡の火」というと、追っても追っても逃げてゆく火を表していると思う。そうい
 うように慌てて「残業を終えるやいなや」いなくなるのは、狡い、ってそんな感じ
 じゃないか。自分じゃなくて、ひとのことがらですね。(曽我)
★逃げてゆく人は、他の人ですね?(鈴木)
★自身も入っているんじゃないですか。(慧子)
★「尾灯」だから見送っている感じ。自分も一緒だと尾灯は見られないから。(鈴木)
★自分自身もその中のひとり。おそらく皆と同じように残業をやっているんで
 しょう。(S・I)
★「火のごとく去る」とあるから自分はこっちにいるのでは?(鈴木)
★まだいるんでしょうね。(船水)
★ともに行くんだったら「去る」という印象はない。(鈴木)
★そうなると自分は傍観者みたいになっちゃう。(S・I)
★いやいや、見送っているという感じをみんな抱えている訳ですよ。「あ、あいつらい
 いな」って感じはある。いち早くみな競うように逃げる訳ですから。(鈴木)
★前の車しか見えませんね、もし流れの中にいるとしたら。(船水)
★作者は一緒になって一番先頭になって逃げてるわけじゃない。その感じが、逆にすご
 く染みるんですよね。(鈴木)  
★僕はまだ仕事があるんだーっていう。(船水)
★作者も同じ時間帯に残業を終えたのでしょうが、他にバーッと去る人たちがいて、
 自分自身もそういう連中の一人なのかなあ、という感じで詠んでらっしゃると思
 いました。(S・I)


       (後日意見)
 〈われ〉も残業を終えて帰ろうとしている。ふっと窓外を見ると仲間が我先にと帰宅を急ぐ車の尾灯が門を出て行く。「逃亡の火」とは戦さに敗れた人々が小さな火を灯しておのおの別の方向に散っていくイメージだろうか。早く帰れる同僚を羨ましがっていると読むより、〈われ〉も先を争って帰るひとりと見る方が歌柄が大きくなるように思う。(鹿取)


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