かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 245

2023-01-28 11:46:39 | 短歌の鑑賞
  2023年度版 渡辺松男研究2の32(2020年2月実施)
     Ⅳ〈夕日〉『泡宇宙の蛙』(1999年)P160~
     参加者:泉真帆、岡東和子、A・K、菅原あつ子(紙上参加)、
         渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉真帆    司会と記録:鹿取未放


245 プログラム細胞死からぬけいだし蟬、蟬、蟬、蟬の爆発

    (レポート)
 ウェブの専門サイトで「プログラム細胞死」の解説を読むと、「プログラム細胞死」とは、強酸やアルカリ、熱、物理的損傷などの外傷により細胞構造が破壊される〈事故的細胞死〉ではなく、細胞内の遺伝子的にコードされた分子機構が発動する細胞死〈制御された細胞死〉をいうようである。‥‥といっても、これで正しく理解できたのか正直自信がない。そいう専門知識から少し離れて鑑賞すると、蟬が爆発的に死んでゆく様をみて、生命誕生の時にプログラムされたものを内から壊している、と詠ったのだとおもった。いま戸外で大合唱している蟬はもうすぐ死ぬ、その大量死のさまを、死に意志があるように感じたのではないだろうか。(泉)


      (紙上参加)
 この歌はよくわからないが、パソコン画面が文字化けした瞬間のように思われる。
文字化けした画面には妙な漢字のようなものが画面いっぱいに並び、それが「蟬」という字に似ている気がする。まるで違うのかもしれないが・・・(菅原)


      (当日意見)
★「プログラム細胞死」はインターネットで見てしまいました。(泉)
★それこそ福岡伸一さんが書いていたと思いますが、今はWikipediaの記事で読み
 上げてみますね。飛ばしながら読みます。「プログラム細胞死(PCD)は多細胞
 生物における不要な細胞の計画的(予定・プログラムされた)自殺である。一般
 にはPCDは生物の生命に利益をもたらす調節されたプロセスである。PCDは植
 物、動物、一部の原生生物で正常な組織形成や病原体などによる異常への対処と
 して働く。」この定義に従うとプログラム細胞死は個体を死に至らせるのではな
 くてむしろ個体をより生かす為の細胞段階での死なんですけど。だから蟬の個体
 が死ぬわけではありません。そういうプログラムのお陰で蟬が爆発的に増えると
 いうのなら分かるのですが、「ぬけいだし」た結果増えるというのは理論的には
 違うと思うのですけど。でも「プログラム細胞死」のお陰で蟬が増えると詠った
 のでは全く面白くないし。この歌は魅力的な歌で、昔書いた渡辺松男の死の歌に
 ついての評論で採り上げたことがあります。(鹿取)
★私はネットで東大の人の書かれている論を見たのですが、それによるとこの定義
 は途中で変わったそうで、もしかしたら松男さんは変わる前の定義で歌を作られ
 たのかもしれませんね。(泉)
★プログラム細胞死っていいものがあるのに、それに従わないで蟬が爆発するよう
 に増える?(A・K)
★いや、プログラムされているんだから、蟬だろうが人間だろうが私は嫌よって意
 思でそれに従わないとかは出来ないですよね。生命のシステムとして組み込まれ
 ていて体の内部で勝手にやっていることだから。(鹿取)
★今の話聞いていると「ぬけいだし」がポイントですね。そういう摂理から抜け出
 して存在そのものがガンガンにルール無視して爆発する。でも、爆発って何です
 か?(A・K)
★岡本太郎の「芸術は爆発だ!」(泉)(一同、笑い)
★そうですね、ほんとうは抜け出すことなんか出来ないんだけど、そういうものを
 無視して、打ち破って蟬が爆発する。よく分からないけど、生命体がシステムや
 創造主みたいなものに反抗するエネルギー?それもけっこう楽しい。バッタがア
 フリカかで大発生とかしますよね、そういう映像を思い描きました。(鹿取)
★運命とか摂理とか既にあるものにあらがう形。漢字の蟬という文字の視覚的な力
 強さがすごい。(A・K)
★そういう意味では菅原さんのレポートも面白いですね。(鹿取)


        (後日意見)
 当日、気がつかなかったが、泉さんのレポートは「蟬が爆発的に死んでゆく様をみて」とあるが、それだと「プログラム細胞死」から「ぬけだして」とうまく繋がらない。やはり爆発的に増えるという歌だと思う。何か玉手箱のようなものから無数の蟬が飛び出していく圧倒的なイメージがある。(鹿取)


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