かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 2の237

2020-01-14 17:09:55 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究2の30(2019年12月実施)
     Ⅳ〈月震〉『泡宇宙の蛙』(1999年)P151~
     参加者:泉真帆、岡東和子、A・K、菅原あつ子(紙上参加)、
         渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:渡部慧子    司会と記録:鹿取未放

237 火の牡牛火をふかく秘めしずかなり砂ながれゆく刀水の縁(ふち)

          (レポート)
 激しさをうちに持つ闘牛の例があるが、掲出歌の牝牛は火を深く秘めながらしずかなのだ。情熱のようなものかもしれないが、激しさを秘めている人の喩としての牝牛であろう。かつてどういう場に燃え上がったのか、またそんなことが予見されるのか、とにかく今は砂のながれのようにしずかな意識で、刀水の縁にいるということだろう。ちなみに刀水は利根川の異称。(慧子)


         (紙上意見) 
 はじめ、これは刀鍛冶の場面をうたったのだと思った。刀を鍛える火が牡牛のように見えたのだと。そして、下句を読み、いやこれは刀を鑑賞している場面ではないかと思い直した。けれど、「刀水」がわからず悩んだ末、刀鍛冶の娘であった友人を思い出し、聞いてみた。すると、「刀水」という言葉はないようだが関わりを調べてくれるということに。その後、関東出身の彼女から、「刀水」は利根川のことで、ポイントは「火の牡牛」ではないかと指摘された。なるほど。「火の牡牛」をネットで検索すると、すぐに出てきたのが「ファラリスの牡牛」という、残酷な拷問道具。これかもしれないと思ったが、「ファラリスの牡牛」を調べても、「火の牡牛」と言うとはどこにも出てこないので、これだとは言いきれない。そういえば、利根川の源流部に火山が多いから、「火の牡牛」にはこのイメージもあるかもしれないな。などなど、悩みながら何度も読み直しているうちに、この様々なイメージを喚起させるのが、この歌の力で、これと決める必要はないのだと思い至った。「火の牡牛」は刀を鍛える火であり、ファラリスの牡牛であり、その牡牛に入れられ焼かれそうな自分であり、自分の住む土地を囲む今は静かな火山であり、作者はそれらの様々な火を内に秘めながら、利根川の縁にたたずんでいるのだ。「砂ながれゆく」とあるのは作者の無常観か。苦しみと怒りを内に秘め、もうすぐ爆発しそうな作者が見える。たぶん、この頃、作者は苦しい意に添わぬ仕事を負わされていたのだと思います。(菅原)
 

      (当日意見)
★漢詩みたいで格調がありますね。「刀水」って字面もいいですね。使いたくなる名
 前ですね。(A・K)
★「刀」って文字の力がすごいですね。薄くて怜悧で言葉が張っている。これ、「利
 根川の縁」だったらだらっとしてつまらない歌になりますね。(鹿取)
★この牡牛は作者ですよね。(A・K)
★そうですね、驢馬が作者だと通俗的になりますが、ここの牡牛は作者でもいいか
 な。うちに火を秘めて刀水の縁に立っている。その火の強靱さが「刀」ととって
 もよく釣り合っている。第1歌集の『寒気氾濫』には利根川と萩原朔太郎を組み 
 合わせた歌もありますから、この牡牛、朔太郎と読んでもいいかなとも思います。
 朔太郎は『月に吠える』のような口語のモダンなな詩も作っていますが、文語の
 格調高い古風でヒロイックな詩も作っています。そういう詩に「大渡橋」など利 
 根川を詠った詩編が何編かあります。松男さんもそういう詩が好きみたいです。
 ですから、この「火の牡牛」は熱い詩魂を内に秘めた作者でもあり、朔太郎でも
 あると思います。この一連、ハムスターから始まって象が出てきて亀が出てきて、
 驢が出て最後がかっこいい牡牛。並べ方にも細心の注意が払われているのでしょ うね。(鹿取)


          (後日意見)  
 鹿取の当日発言中の朔太郎を詠ったうたは次のもの。
鷹の目の朔太郎行く利根川の彼岸の桜此岸の桜   『寒気氾濫』
この歌、此岸にあって桜を見ているのは作者なのだろう。渡辺松男は萩原朔太郎がとても気に掛かる存在のようで、アンビバレントな感情をいだいているようだ。以前「アンチ朔太郎」という渡辺松男論を「かりん」に発表したことがあるが、松男さんから「アンチというほど嫌いではないです」というお返事をいただいた。(鹿取)


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