かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 269

2024-06-05 14:24:51 | 短歌の鑑賞
  2024年度版 2024年版 渡辺松男研究33(15年12月実施)
    【全力蛇行】『寒気氾濫』(1997年)112頁~
      参加者:泉真帆、M・S、曽我亮子、藤本満須子、鹿取未放
     レポーター:泉 真帆 司会と記録:鹿取 未放


269 大洋にはてなきこともアンニュイで抹香鯨射精せよ 
       
        (レポート)
・「抹香鯨(マッコウクジラ)」はハクジラ亜目マッコウクジラ科の哺乳類。熱帯〜寒帯の外洋に生息するハクジラ(歯鯨)の最大種。成長停止時の平均体長は雌で十一メートル、雄で十六メートであるが、まれにそれぞれ十三〜十八メートルを超える個体もある。(略)繁殖はほぼ一年中行うが、出産は秋に多い。(世界大百科事典一九八八年平凡社刊より)        
 大洋が限りもなく広がっていることを思えばアンニュイな気分になってくる、だからさあマッコウクジラよ大海に射精せよ、という歌か。
【鑑賞】眼前に青々とひろがる大海原も、この地球の球体を泳いでゆけばエンドレスだ。おわりのなさを思うとダルい。やりばのない倦怠感には射精するほかない気分だ。そんな諦めや、やるせなさ、おかしみが一首にはあるように思う。「アンニュイ」の語のたゆたうようなニュアンスから一転、大きな抹香鯨を登場させ、本能の解放を求める。鯨にことよせた巧みなうただと思う。品のあるやわらかな文体がいっそう寂しさを濃くする。(真帆)


        (当日発言)
★抹香鯨というのは香料がいいんですよね。だからアンニュイな気分を吹き飛ばしたく
 て抹香鯨を入れたのかなと思いました。(曽我)
★「いっそう寂しさを濃くする」と鑑賞されていますが、下句の言い方が割と強く感じ
 るので、寂しさとかは私には伝わってこない。大海原に負けないくらいに射精せよと
 抹香鯨に対する強い呼びかけのような気がする。(藤本)
★自分をここでは抹香鯨に投影しているんだろうな、やっぱり寂しいんだろうな、アン
 ニュイなんだろうなと思います。前にも書いたので引いて来なかったけど、松男さん
 の昔の評論に、大きな図体のものが悩んでいるから詩になるので、もしダニが悩んで
 いたら人は笑うだろうとあって、大笑いしました。「射精せよ」は確かに強い呼びか
 けで、発散の一つの方法でしょうけれど、たとえ射精しても寂しさやアンニュイは消
 えないでしょうね。生を繋いでいく行為、生きていくこと自体が結局は淋しい、存在
 そのものが淋しいですから。その現れの一つが大海に果てが無いという形。(鹿取)


     (後日意見)
 渡辺松男の評論について、鹿取の発言はうろ覚えで、図体とか詩とかは本人は言っていないので以下、正確に引用する。「かりん」1997年2月号に載った評論「日常宇宙」から。(鹿取)
鯨のようにスケールの大きいものが、言葉なくその存在に耐えながら泳ぐからその淋しさもいいのであって、百姓の祖父の場合はかっこよくもなんともなかった。淋いなどとは言えないし、言おうものならぶったおされた。もっと小さければどうだろう。そもそも感情移入などしきれない。ダニが耐えていたら人は笑うだろう。
コメント
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