かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

馬場あき子の外国詠 283

2024-02-18 14:29:59 | 短歌の鑑賞
 2024年度版 馬場あき子の外国詠37(2011年3月実施)
   【遊光】『飛種』(1996年刊)P121~
   参加者:N・I、井上久美子、崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、藤本満須子、
       渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:曽我亮子 司会と記録:鹿取未放

   

283 忘れてしまつた歴史は思ひ出さずともぼすぽらす海峡ゆくトルコ晴れ

     (当日意見)
★「思ひ出さずとも」と言っているが、むしろ思いながらみている。(崎尾)
★高尾太夫の「忘れずこそ思ひ出さず候」も思い合わされる。(藤本)
★まあ、高尾太夫ほど切実に思い詰めている訳ではないから……通過するだけの旅行者
 だから、自分はよそ者であるという自覚も働いていると思います。(鹿取) 


     (まとめ)
 アジアとヨーロッパの接点にあるトルコの地は、両大陸の権力者が覇を競った舞台であった。まず紀元前1700年ころ、ヒッタイト人が帝国を築いた。しかし紀元前1200年頃にはトロイ戦争に破れ、この帝国は滅びた。その後は、フリギア王国、リディア王国、ヘレニズム、ローマ帝国、ビザンツ帝国、セルジューク朝、オスマン帝国と変転して1923年現在のトルコ共和国が誕生した。
 それら気の遠くなるような歴史の時間の一端が思いをかすめているのだろう。「思ひ出さずとも」の後に「よし」が省略されている形。こう言ってしまったからには当然トルコの歴史の様々を思い出しているのだが、興亡の哀しい歴史はしばし忘れてトルコ晴れの海峡クルーズに身をゆだねていようというのだろう。既に鑑賞した「歴史の時間忘れたやうな顔をしてモスクワ空港にロシアみてゐる」(スペイン旅行途上の歌)も同じような作りになっている。ただ、ロシアの場合は(トランジットなのでほんの短い滞在だが)古い歴史と共に目の前のロシアを興味津々の眼で見ていた。このトルコの歌ではもっとゆったりと風景に身をゆだねている感じだ。「ばすぽらす」のひらがな表記も281番歌(うすきゆだるに焼き鯖買ひて頬ばるをたれもとがめず柳が散つて)の「柳が散つて」と同じような放埒さを許す開放的な気分を出している。(鹿取)
 
コメント
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