かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞  219

2021-05-10 18:51:27 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究27(15年5月)
                【非想非非想】『寒気氾濫』(1997年)91頁~
      参加者:石井彩子、泉真帆、かまくらうてな、M・K、崎尾廣子、M・S、曽我亮子、
          渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:石井 彩子 司会と記録:鹿取未放

 ◆「非想非非想」の一連は、『寒気氾濫』の出版記念会の折、塚本邦雄氏が絶賛された。
   全ての歌に固有名詞が入っていて全て秀歌、「敵愾心を覚える」とスピーチされた。

219 ワーグナー的胸騒ぎせりおうおうと真黒くうねる森が火を呼ぶ

        (レポート)     
 ワーグナー的胸騒ぎとはなにか、復古的な社会の到来が近いと、危惧しているのであろうか?森の中でおうおうと咆哮する人間の野性(考え方の違うものに対して攻撃的になる人間の性)が黒い情念となって、きっかけがあれば、戦時中のような国民的陶酔となって噴出するのだろうか?
 ワーグナーの特質すべきことは、その楽劇が国粋主義的イデオロギーのナチスに利用されたことである。ワーグナーは反ユダヤ思想の持ち主で、ユダヤ的な市民社会・資本主義社会の批判をした。第二次世界大戦中もワーグナーの作品のみを上映する「バイロイト音楽祭」はナチスの支援下で上演され、その比類ない音楽は大衆を酔わせ、ドイツ民族精神の優位性を鼓舞した。(石井)


         (当日意見)
★ちょっと話が逸れますが、ニーチェは20代の頃からワーグナーについての評論を何篇か書
 いて、ギリシア精神を現代によみがえらせ、現代文化を再生させるにちがいないとワーグナ
 ーを讃美しています。しかし後年ワーグナーに裏切られたとして「ツァラツストラ」第4部
 でワーグナーを主人公にした「魔術師」という章を儲け、彼は精神の俳優に過ぎないと強く
 非難しています。(鹿取)
★ワーグナーがナチスに利用されたのは有名な話ですが、この歌は人格についていっているの
 か、音楽そのものについていっているのか、「ワーグナー的胸騒ぎ」の「的」をどうとって
 いいか迷いました。普通の「的」の使い方だと「ワーグナーのような胸騒ぎ」ってなるんだ
 けど、一首読むと意味的には「ワーグナーによって引き起こされるような胸騒ぎ」って読め
 てしまいますが。この「的」って石井さん、どうですか?(鹿取)
★私も分からなかったけど、ワーグナーの楽劇って上演するのに3日くらいかかるそうですね。
 人間の本質にある攻撃的な部分、民族精神とか神話的なものを思い浮かべました。(石井)
★ワーグナーの楽劇にあるような情念に自分も取り込まれそうで胸騒ぎするってことですか?
 それとも圧倒的な民族精神のようなものが迫ってくる予感がするってことですか?(鹿取)
★人間の見たくない面を見つめている歌かなと。(石井)
★外側から民族主義的なものが押し寄せてくるだけでなく、自分の内部にもそういう要素があ
 ってそれが自分を浸食していきそうで恐いってことですか?(鹿取)
★あまり内面に入っていくと分からなくなるので、一般化しました。作者の心の中で起こって
 いることはもっと別のことかもしれないけど。(石井)
★ワーグナーの音楽って怒濤のようじゃないですか。だから「森が火を呼ぶ」にかかっていく。
   (曽我)
★ワーグナー的って言ったら、やはり下句を呼ぶための言葉で、ダイナミックで過激な感じを
 呼び込むために使っている。(真帆)
★戦争の萌芽とか民族主義的なものとはあまり結びつけなくてもいいという意見?(鹿取)
★はい、音楽的なことに解釈しました。(真帆)
★でもそれだとワーグナーじゃなくても誰でもいいわけですよね。タンホイザーをカラヤンが
 やるでしょう、ナチスに協力したことがありますよね。軍国主義と胸騒ぎはやはり関係があ
 ると思います。この歌が書かれた頃日本は君が代論争でもめ出した。復古調の気配が濃厚に
 なった時期なので、石井さんのこのレポートを拝見してそう思いました。(うてな)
★作者は復古調の到来に対して胸騒ぎがしているっていうことですね。おうおうと燃えさかるよう
 な勢いでおどろおどろしいものが押し寄せてくる。ここも黒という色が出てきます。そして赤。
    (鹿取)

コメント
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