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執事たちの足音
女中は執事が大嫌い?続・『イギリスのある女中の生涯』
引き続き、
『イギリスのある女中の生涯』より、
前回ブログの続きです。
予告のとおり今回は、
等身大の女中から見た、執事の姿がテーマです。
過酷な労働に耐える女中ウィニフレッドの目には、
上司である執事はどのように映ったのか?
まず初めにお答えしますと、彼女は、執事が大っ嫌いだったようです。
「いわゆる『偉い使用人』を、私は軽蔑していました。」
第一次世界大戦終結後、20歳になったウィニフレッドは、
昔なじみのある兵隊と婚約します。
すると周囲の人々は「除隊後に職のない男と婚約するなんて」とさかんに噂しました。
執事って、肌合いが滑らかなのか。妙に。
私としては、そこがイイんじゃないかという気もしますが(笑)。
見た目の印象まで持ち出して「こんりんざい御免」と切り捨てているところに、
彼女がいかに執事を拒絶しているかが判ります。
しかし、これを単なるウィニフレッド個人の、
異性の好みの問題と片付けて良いかどうか?
と言いますのも、ウィニフレッドの子供時代の回想に、次のような記述があるからです。
特別待遇だった執事の子供
「特別組」のなかに執事の子がいたというのは、重要です。
前回ブログでも紹介したように、
ウィニフレッドのような貧しい家の女の子たちは、
ある一定の年齢になれば「女中になる他はない」子供たちです。
いわば、女中の卵です。
いっぽう、執事の子たちは―わたしが思うに―
「二代目執事」の候補生だったのではないかと思います。
よく、さまざまな作品で、
「親もまた召使であった」という親子二代の召使が登場します。
職種がそのまま身分に直結していた時代では、親と同じような職種をそのまま引き継ぐのは当たり前のことであったでしょう。
商人の子は商人に。女中の子は女中に。
そして、執事の子は執事に…。
(そういえば執事小説のバイブル『日の名残り』のスティーブンスも、父子二代の執事でした)
貴族だけでなく、一般市民でも、
これだけ身分の差がはっきりしているのであれば、
執事職の親がいまの自分の地位身分に執着し(または誇りを持ち)、
子供の将来の安泰を願って「出来れば同じ道を」と望んだとしても、
不思議ではありません。
おなじひとつの教室に、
未来の小さな女中たちと執事たちが、席を分け隔てて座している。
お屋敷での召使階級の縮図が、すでに教室内に表わされているのです。
まだみんな、子供なのに。
ウィニフレッドの執事嫌いは、
子供時代に目覚めた「社会の不公平さ」への不満が、根底にあるのだと思います。
「女中をしているあいだ、私はずっと上級の使用人とはキレイな関係を保ってきました」(第四章「広い世界へ」)
そう言い切るウィニフレッドの言葉の中には、
執事を代表とする「権威を振りかざす者たち」への、静かな怒りが感じ取れます。
さて、ウィニフレッドの召使評価です。
いきなり点数が低いです。
でもそれが、本当の、
生身の女中の姿なのかもしれません。
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『イギリスのある女中の生涯』より、
前回ブログの続きです。
予告のとおり今回は、
等身大の女中から見た、執事の姿がテーマです。
過酷な労働に耐える女中ウィニフレッドの目には、
上司である執事はどのように映ったのか?
まず初めにお答えしますと、彼女は、執事が大っ嫌いだったようです。
「いわゆる『偉い使用人』を、私は軽蔑していました。」
第一次世界大戦終結後、20歳になったウィニフレッドは、
昔なじみのある兵隊と婚約します。
すると周囲の人々は「除隊後に職のない男と婚約するなんて」とさかんに噂しました。
あの子はばかだね。なぜもっとカッコのいい自動車運転手とか、ちゃんと職のある従僕と結婚しないんだろう、、、といった噂です。だが私は、下級使用人に向かって威張りちらしている、あの妙に肌合いの滑らかな執事や従僕などは、こんりんざい御免でした。 (第四章「結婚・エプロンを脱いで」より引用。太字はブログ筆者) |
執事って、肌合いが滑らかなのか。妙に。
私としては、そこがイイんじゃないかという気もしますが(笑)。
見た目の印象まで持ち出して「こんりんざい御免」と切り捨てているところに、
彼女がいかに執事を拒絶しているかが判ります。
しかし、これを単なるウィニフレッド個人の、
異性の好みの問題と片付けて良いかどうか?
と言いますのも、ウィニフレッドの子供時代の回想に、次のような記述があるからです。
特別待遇だった執事の子供
特別待遇される子供たちがいました。イーヴリー屋敷の執事の子で、ダンシーという名の男の子です。森に住んでいる監督さん(*注)の子も、やはり特別組でした。 (中略) (特別組は)教室では特別な席に座り、特別な授業を受けていました。私たちは家から持ってきた母のお手製のサンドイッチと瓶に詰めたお茶でお昼を教室で食べるのに、特別組には自宅に帰って食事をすることが許されていました。 特別組には、常に明らかな違いがあり、なぜ同じことを教えてもらえないのかと私は不満でなりませんでした。社会の中の不公平に目覚めた、それが最初の経験です。 (第二章「学校へ通う」より引用。かっこ内補足および太字はブログ筆者) (*ブログ筆者注:)森番、ゲーム・キーパーgame keeperのことか? |
「特別組」のなかに執事の子がいたというのは、重要です。
前回ブログでも紹介したように、
ウィニフレッドのような貧しい家の女の子たちは、
ある一定の年齢になれば「女中になる他はない」子供たちです。
いわば、女中の卵です。
いっぽう、執事の子たちは―わたしが思うに―
「二代目執事」の候補生だったのではないかと思います。
よく、さまざまな作品で、
「親もまた召使であった」という親子二代の召使が登場します。
職種がそのまま身分に直結していた時代では、親と同じような職種をそのまま引き継ぐのは当たり前のことであったでしょう。
商人の子は商人に。女中の子は女中に。
そして、執事の子は執事に…。
(そういえば執事小説のバイブル『日の名残り』のスティーブンスも、父子二代の執事でした)
貴族だけでなく、一般市民でも、
これだけ身分の差がはっきりしているのであれば、
執事職の親がいまの自分の地位身分に執着し(または誇りを持ち)、
子供の将来の安泰を願って「出来れば同じ道を」と望んだとしても、
不思議ではありません。
おなじひとつの教室に、
未来の小さな女中たちと執事たちが、席を分け隔てて座している。
お屋敷での召使階級の縮図が、すでに教室内に表わされているのです。
まだみんな、子供なのに。
ウィニフレッドの執事嫌いは、
子供時代に目覚めた「社会の不公平さ」への不満が、根底にあるのだと思います。
「女中をしているあいだ、私はずっと上級の使用人とはキレイな関係を保ってきました」(第四章「広い世界へ」)
そう言い切るウィニフレッドの言葉の中には、
執事を代表とする「権威を振りかざす者たち」への、静かな怒りが感じ取れます。
さて、ウィニフレッドの召使評価です。
いきなり点数が低いです。
でもそれが、本当の、
生身の女中の姿なのかもしれません。
ひかえめ 2- 「その日どういう命令を受けたかは忘れました。だが、何を言われても『はい、奥様』と答えるのが女中の心得なのです」
ひかえめな態度は、女中にとって条件反射なのですね。
いかに心の中で、別のことを思っていたとしても。
機転 3- 彼女は仕事をテキパキとこなす、有能な女中だったようです。
しかし、「そつなくこなす」のは上手ですが、
プラス・アルファの仕事はしません。
(そんな余計な時間はなかったでしょうけど)
献身 1- 女中の身分では、直接ご主人様や奥さまと対面できません。献身の心が育まれる機会が皆無なので、仕方ありません。
主人からの愛情 4- 辞職願いを出したウィニフレッドに、奥さまは
「ダメです。あなたのは働きにはたいへん満足しています」と止めます。
これを愛情と取るか、たんに、使える道具を手放したくないかと取るか…。
しかしまあ、女中に献身の心がなくとも、
仕事が出来る女中は主人から重んじられる、その好例ですね。
スタイル 3- ウィニフレッドは、ブロンドの髪に青い瞳の少女です。
おおっ! 西洋人形のようだ!
しかし、何年もボンネットを被って仕事をしているうちに、
女中を辞めるころには濃いブラウンに変わってしまったそうです…。
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