ヴィクトリア女王の従僕ジョン・ブラウン(2) 召使の階級②

さて前回ブログ、
ヴィクトリア女王の従僕ジョン・ブラウン 召使の階級①のつづきです。
今回は「ロワー・ファイヴ」「および屋外の召使い」の説明です。

繰り返しますが、下の召使階級組織図と照らし合わせながら読むと、分かりやすいかと思います。

また、★印のついた召使は「大規模な館で雇われた召使い」です。なので★印の召使いが居ない館では、その階級に近い召使が仕事を兼任しました。

召使いの階級組織図
(※別ウィンドウで開きます。圧縮されていますので、画像右下にポイントを置くと現れる「通常のイメージに戻す」ボタンで引き伸ばしてご覧下さい。)

それでは、どうぞ。

 ロワー・ファイヴ 下級の召使たち

【男性召使いのロワー・ファイヴ】
 ファースト・フットマン /  フットマン
馬車、ドア、食卓に侍り、仕事内容はランクによって多岐にわたる。最初は主人の目を覚ます役から始まり、衣類にブラシかけ、夜会服の用意をする。一日三食と午後のハイ・ティーのテーブル・セッティングと給仕、午後六時には「酒類」を用意する。ディナー後は紳士たちの部屋の整理し、客間にお酒を運ぶ。他には銀器磨き、主人や客の送迎、電話の取次ぎなど、紳士たちがベッドに入るまで身体を休める暇はありません。
バトラーの直接の配下にあたり、ファースト・フットマンは大勢のフットマンたちを取りまとめる役を担う。



 ランプ・ボーイ /  ブーツ・ボーイ
ランプ・ボーイはランプやろうそく立ての世話、ブーツ・ボーイは紳士たちのブーツ磨きを担当する。館内の男性使用人の序列での最下層。10代前半の年若い少年たちが就いた。


【女性召使いのロワー・ファイヴ】

ナニー(乳母)
ナースメイドとも呼ぶ。館主の子供たちの育児の全権を握る。(上流階級の親子関係は希薄で、毎日午後遅くに一回、居間で「ごあいさつ」をする程度であった。ゆえにナニーのしつけ次第で子供の人格形成が左右された)
乳母の領分は他の世界から独立しており、しばしば他領域の召使いとの縄張り争いが生じた。(子供用の特別な料理をコックに要求したり、従僕に使い走りを命じたりしたため)



 ハウスメイド頭 /  ハウスメイド
フットマンと同じく、仕事は多岐にわたる。紳士淑女の部屋の掃除や整理や、暖炉の火熾しといった業務の他に、召使いたちが食事・休息をするサーヴァント・ホールでの食事の手配もした。
ハウスメイド頭はおもに若いハウスメイドの監督にあたり、自らは家具を磨いたり、その他の雑用を行う。



パーラーメイド
食卓の準備や給仕、訪問者の到来を主人に告げたりする。
(わたしの推測だが、客や主人と対面する以上、館内の清掃整理担当のハウスメイドや、台所から出てこないキッチンメイドより、容貌・スタイルが重視されたのではないかと思う。)



 キッチン・メイド頭 /  キッチン・メイド
厨房に火を入れ、コックの仕事の補佐を行う。キッチン・メイド頭の下に数人のキッチン・メイドがいて、パン焼きやソース作りなど、多少の技術を要する仕事を行った。


スティルルーム(食料貯蔵室)・メイド
ハウス・キーパーの補佐。陶器類を自分の部屋に保管し、ハウスキーパーの部屋を掃除する。いわば「ハウスキーパー専属の召使い」である。


スカレリー(皿洗い)・メイド
キッチン・メイドの下につく。皿洗いや厨房の掃除をする。「後始末」が仕事である彼女らは、召使ヒエラルキーの最下級の召使いである。労働力を節約する家庭器具など無かった時代、彼女らがやらねばならない仕事は山ほどあった。ちなみに18人程度の標準的規模のディナーであれば、ディナー後に洗わねばならない食器類は500枚にのぼる。


★ ランドリー(洗濯)・メイド〔館主一家専用・使用人専用〕
館主一家の洗濯物を受け持つメイドと、使用人たちの衣類を洗うメイドとふたつのランクがあった。ランドリー・メイドは全体の序列では下位であるが、誇りをもって仕事を担う者が多かった。主人のドレスの繊細な布地にアイロンをかけたり、シーツやナプキンを真っ白に仕上げるのは、ひとえに彼女らの技術にかかっていたのだ。



ミルク・メイド(酪農婦)
酪農場の清掃、ミルク用のバケツや器具の消毒、バター作りなどを行う。ただし、キッチン・メイドの業務をも兼任するので(ゆえに仕事の領域は屋外・屋内の境界線にあった)、その労働過重は最たるものである。


 屋外の召使いたち

コーチマン(御者)
滑らかに、かつ速過ぎずに馬車を走らせるのが優秀な御者とされた。出発の準備は20分以内に完了しなければならず、どちらの方向に馬を向けておくべきか主人の指令を受けて、玄関前に待機した。(もし通りで方向を変えるようなことがあると、家政の管理がうまくいっていない証となった。)
屋外スタッフの中では最高位を占める。



庭師
大世帯の庭師長(ヘッド・ガードナー)はたくさんの温室を管理し、食卓にのぼる野菜類を栽培した。また熟練した庭師は季節に関係なく苺やパイナップル、メロンなどのフルーツを栽培するように要求された。手ずから育て上げた花や作物に深い愛情をそそぎ、女主人や子供たちが勝手に摘み取るを大変嫌った。(ゆえに女主人は庭師のご機嫌伺いをしなければならなかった。)

ここでは省きましたが、子供の教育は女家庭教師(ガヴァネス。つまりジェーン・エアですな)が担当します。
ほかにも馬をたくさん所有する屋敷では馬丁(グルーム)や厩舎番(ステイブル・ボーイ)がいますし、広大な所有地内の道路の整備は道路作業員(ロードマン)という使用人が雇われます。
館一家が遠方へ旅する時は、旅行の手配するお供(クーリエ)が同行しますし、主人が猟好きなら猟場番人(ゲームキーパー)が猟の獲物の管理をします。

さらにさらに… 大規模な屋敷であれば、召使いの仕事はさらに細分化され、
キッチン・ポーター(料理配膳係)、ホール・アシャー(広間案内係)、夜警(ナイト・ウォッチマン)などの区分けが追加されます。

つまり館の規模やステイタス、または主人の趣味によって、召使いの雇用数、区分はいくらでも増減することになります。

これら多くの区分すべてに、厳格な階級が敷かれているのです。

良い召使いを表わすのに“knows his/her place”という言葉があります。
日本語で言えば「身の程を知っている、分をわきまえている」という意味です。

もちろん主人に対する態度・姿勢を示したのでしょうが、一介のメイドや使い走りのフットマンが注意深く「分をわきまえた」態度を示さなければならなかったのは、階上の主人ではなく、同じ階下に暮す自分より上級の召使いたちだったでしょう。

(上流社会、とくに本当の貴族は社会的に厳然たる高い地位を保持しているので、あきらかに身分の低い召使い相手には、あんがい鷹揚なものです)

現在の私たちには複雑に見える召使の階級。
その複雑な階級がひと目で分かる方法があります。

それがサーヴント・ホール(召使いが食事や休憩する大きな部屋)での、
食卓の席順です。

次回「ヴィクトリア女王の従僕ジョン・ブラウン 食卓の席順」に続きます。 

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« ヴィクトリア... ヴィクトリア... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。