『プリーストリー氏の問題』 銀スプーンに話しかける執事

本日の召使 : バーカー(執事)
(『プリーストリー氏の問題』A・B・コックス著 小林晋訳 晶文社 2004年 原題:Mr. Priestley's Problem)

以前でましたジーヴス…のページでコメントを頂いたくろにゃんこ樣から
「興味深い執事が出てきますよ」と教えてもらいました。

それがこの『プリーストリー氏の問題』に登場、
執事のバーカーです。

『プリーストリー氏の問題』


バーカーがお仕えする主人は、
独身男性用フラットで泰平楽に暮すプリーストリー氏。




友人が言います。
「36歳だというのに、60歳みたいに型にはまって、若さというものが微塵も感じられない!  どうしてうんざりするようなマンネリ生活から抜け出さないんだ? 飛び回れ! 世間を見ろ! 冒険するんだ!」
そんな慨嘆もプリーストリー氏にはどこ吹く風。
ぬくぬくとマンネリ生活にひたります。

 執事の日常生活は主人しだい

マンネリな日常を送る主人に仕える召使いは、
楽しみは少ないでしょうね。
(召使い泣かせの“ご主人の気まぐれ”が無いぶん、仕事はラクでしょうが)

主人が旅行好きなら、主人の付添いで従僕は各地を見てまわることもできる。
主人が社交家なら、パーティーに呼ばれた屋敷の召使いたちと交流することもできる。

(前にご紹介したThe Butler's Guide のなかで、
著者スタンリー・エイジャー氏は、二代目レバン卿の従僕の仕事を選んだのは、
“屋敷のあるコーンウォール地方に行ったことが無かったのと、
主人のレバン卿自身が「旅行をする」と言ったから”と述べています。)

つまり、主人が活動的な人物なら、召使いは仕事をしながら見聞を広げられる機会を得られるのです。

反対にプリーストリー氏のように、
「本と陶器と嗅ぎタバコ入れのコレクション」が趣味で、
「外にいるよりも自宅にいる方がはるかに居心地が良い」
と、地味ぃ~に隠居生活をキメこんでいる主人のもとでは、
召使いの日常も、しぜん変化に乏しくなろうというものです。

プリーストリー氏はもちろん、女性にモテない。というか接触の機会がない。
安楽だが、刺激も華もない生活…。

しかし、ある日突然、ご主人さまが若い女性を伴って帰宅してきたら?
しかもその美人さんを指して、
「ぼくの従妹で、秘書としてしばらく泊まることになる」
ばればれのゴマカシを言われたら?
さらに赤面して、手錠の掛かった片手をおずおずと見せ、
「片方はなんとかはずしたが、もう片方がどうしてもはずれない。
 これを……その……はずすための道具を持ってきてくれないか?」
と頼まれたら?

晴天のヘキレキとも言える主人の言動を目の前に、
執事としては、誰にこの驚きをぶつけたら良いのでしょう?

バーカーがとった行動は――
茶器に話しかけることでした。

 言いたいことは、茶器に向かって

「この人物を動揺させる物は何もなかった」
いつも、何があっても、無感動なバーカー。
驚きの表情どころか、笑みすら浮かべたことはない。
「なんと言ってもバーカーは自分の軽蔑に特別な価値を置いていた。」
ちょっとイジワルなんですね、この人。
主人のプリーストリー氏に対しても、
無表情で答えながら、投げかける質問には、そこはかとなく侮蔑の色が。

しかしさすがのバーカーも、
主人の片方だけはずされた手錠を目にした時は、我慢できなかった。
「だ、だ、旦…」としゃがれ声をもらすと、部屋をとび出した。
プリーストリー氏は閉まったドアを実に興味深いといった表情で見た。「ねえ、きみ」彼は穏やかな驚きを感じていた。「今、バーカーは笑ったね。やっぱり彼も人間だったんだ」
プリーストリー氏は正しかった。バーカーは人間だった。お茶を淹れてる間、極めて人間的な考えがバーカーの頭の中を駆け巡っていた。しかし、バーカーを驚かせたのはプリーストリー氏もつまるところ人間だったということだ。
「あきれかえったご主人だ!」バーカーはお茶の缶に向かって言った。「この歳になってまるで二歳児みたいなおいたを始めるなんて! まあいい」バーカーはしみじみと思った。「老いてますます血気盛んとも言うからな」

(下線はブログ筆者)
このあともバーカーは、
空のミルク差しに向かっては「とんでもない色男ときたもんだ!」
主人に対する新たな見解を告げ、
たまたま磨いていた銀のスプーンに向かっては
「やれやれ、なんてこった!」「お盛んなこった!」と感想を打ち明けるのです。
ここらへんの彼の姿は、
先ほどまでのイジワルな感じが薄れ、
人間らしいだけでなく、かなり愛らしい。

茶器に話しかける執事。
このありそうでなさそうな執事の人物像。
A・B・コックス(バークリー)氏のオリジナルなのでしょうか? それとも…。


それでは、バーカーの「召使評価」



あらっ、
低い点数でまとまっちゃって。



まあ、長所ばかりの執事というのも、ツマリマセン。
欠点の多い執事のほうが、面白みがあります。

ひかえめ 2
もうすこしで「慇懃無礼」の域に達します。
威厳というより、尊大?

機転 3
かつてプリーストリー氏が葉巻入れに
「これみよがしに鍵をかけるように」なったときは、
「紳士的に」慌て騒がず、こっそり合鍵をつくって「今まで通りの行いを続けたのである。」
うーん……。
召使いにありがちな行為とはいえ……
そこに機転を働かせたか。

献身 2
こっそり「今まで通りの行い」を続けちゃうんだからなーっ!!

主人からの愛情 3
ほんわかプリーストリー氏は、バーカーの堂々とした態度に押され気味。
だから「今まで通りの行い」をされちゃうのよーっ!!

スタイル 2
「うらなり風の取り澄ました男で」
「ゆで卵みたいにつるりとした顔」
だそうです。
これはもう、好みの問題です。
わたくしは、ちょっと…パス。

もっと『プリーストリー氏の問題』について知りたい! 
と思った方はくろにゃんこの読書日記へどうぞ。
ネタばれなしで、小説の雰囲気が伝わってきます。
文章上手い。引き込まれます。

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コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
リンクOKですよ (くろにゃんこ)
2005-09-18 13:34:37
そういえば、茶器やスプーンなどに話しかけていましたね、彼は。

ブリーストリー氏の生活は物静かだし、たいして手がかからなかったんでしょう。

パーカーは、きっと退屈だったんでしょうね。

 
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