【2020.02.08(sat)】
★臨場感を醸し出している。
・1/24に発売された第162回芥川賞受賞作品
「背高泡立草」。 初出は2019年10月の
<すばる>。
図書館にお願いしていたところ今日お借りできることに…。リクエストされている方が多い本なので速攻で読み終えました。
・物語の舞台は平戸市の的山大島(あづちおおしま)。著者である古川真人氏のお母さんがこの島のご出身。
デビューしてからの3作品は全て島のことが題材になっているらしい。4作目にあたるこの作品で芥川賞を受賞されたことになる。
・私も直島の生まれ故だろうか、島が舞台となるお話はとにかく読んでみたい。
・この島にはそこでしか通じない独自の方言が残っていて作品の中でも沢山登場。
意味を推測するのも難しい大島弁には、標準語のルビまでふって用いられている。
作者が方言を使うのにそこまでこだわるのは、読者にその土地の佇まいを感じてほしいからだろう。
・スタートは現代。 最初に登場する主人公?大村奈美は20代半ばの独身女性。
母の実家、吉川家の納屋の草刈りをする為に母や親戚と共にこの島に向かうことになる。
吉川家には長く空き家になっている「古か家」と「新しい方の家」の二軒の家があり、
奈美は家族らからそれぞれの家に纏わる話を聞くことになる。
・吉川家の昔話かと思いきや、唐突に時代は変わり冒頭の家族とは直接関係のないエピソードが登場する。
舞台は島周辺と九州、韓国、中国に及び、戦中~戦後の時代や、古くは江戸時代にまで話が飛んでいく。
・時代を超え、島や家をめぐる歴史や記憶がその土地の物語として巧みに挿入されている。
話の終盤、納屋近くで刈った雑草の種類を奈美の母親が思いつくまま挙げるシーンあり。
外来種である「背高泡立草」の名がここで出てきて、過去に島にたどり着いた人々の姿と重なる。
・過去のエピソードを知ることのない20代の若者が、疑問を持ちながらも旧家の草刈りを続けるだろうことを予感させ、話が収斂する。
その結末に何故か心安らいだ。
・万人に分かり易く、すんなりと頭に収まる文体のように感じる。例えば奈美の母と伯母の性向を表現する300字近い一文。
こんな長文を読み返すことなく軽々と読めて、文脈に破綻を生じることがない。こんなに書けたら気持ちいいだろう。羨ましい筆力!
中編のボリュームながら一気に読み通せる面白さがありました。お薦めです。
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・春の到来を感じさせる作品が飾られていました。: 旧南庁舎にて
See you.
I.O