東日本大震災:福島第1原発事故 布施幸彦・館林厚生病院副院長、福島で寄り添う診療 /群馬
毎日新聞 2013年05月26日 地方版
◇「どんな状況でも、あなたたちとともに」 週末に電車や車で通い
東京電力福島第1原発事故による放射線被害に市民目線で向き合おうと、市民らが募金を集めて昨年12月に福島市で開設した「ふくしま共同診療所」で、ボランティアで働く群馬の医師がいる。館林厚生病院の副院長で内科医の布施幸彦さん(58)だ。同院に勤めながら毎週末、電車や車で福島に通い、関東各地から集まったボランティア医師らとともに、健康不安を訴える人々に寄り添う医療活動を続けている。【塩田彩】
布施さんは診療所の設立前から、知人とともに募金の呼びかけ人に名を連ねていた。さらに、開設が迫った昨秋ごろ「週1回ほど手伝ってくれないか」と誘われ、すぐに引き受けたという。
同診療所では医師6人がボランティアで働き、布施さんは土曜の診療を担当。甲状腺検査用機器を備えた同診療所には、子供を連れた親が多く訪れる。福島県が行っている子供向けの甲状腺検査の結果を手に、セカンドオピニオンを求める人も多い。同診療所では親たちの不安に応えようと、県の検査が1人数分で終わるのに対し1人15~20分をかけ、丁寧に説明をする。
環境省の調査によると、子供の甲状腺にしこりなどが見つかった割合は、福島県4割に対して県外6割。同省は「放射線の影響によりしこりなどができる割合が特段高まったとは言えなさそうだ」と分析している。だが、布施さんは「放射線によるダメージはないとは言い切れない」と話す。受診する人にも、そう伝えている。低線量被ばくの健康被害などについて、結論は出ていないからだ。
「『大丈夫』という言葉を求めて来た人はがっかりすると思う。私たちは、『どんな状況になろうと、あなたたちとともにいる。気になることがあったらいつでも来てください』というメッセージを発し続けるしかない」
診察の合間には、仮設住宅で健康相談会も開き、多くのお年寄りから「うちの息子が原発で働いている」と心配する声を聞いた。今後は、原発事故の収束作業に当たっている作業員らの健康診断も検討しているという。週末の「福島通い」は続く。