じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

じいたん、洗濯する。

2005-05-26 19:22:19 | じいたんばあたん
昨日、突然、発熱した。
薬を飲んでしっかり寝れば下がるか、と高をくくっていたら、
今朝方、38℃超えた。激しい頭痛と動悸、体中の痛み。

今日は木曜。かかりつけ医は休み。

解熱剤をボルタレン坐薬に切り替えて
熱と頭痛が治まるのをひたすら待つ。


午後になって、祖父宅宅に電話を入れたら、
誰も出ない。
二人で散歩にでも出かけたのだろうか。
間隔をあけて何度か掛けたが、やはり誰も出ない。
じいたんの携帯にもつながらない。

じいたんは、貧血がある。
付き添いのない散歩は、本当は、医者から止められている。
ましてや、ばあたんと二人での散歩は、
じいたんの身体には、かなりこたえるはずなのだ。

…ひょっとしたら、どこかで倒れているのではないか。
じいたんが倒れて、ばあたんがオロオロしている
そんな情景がふと、浮かんだ。

嫌な汗が、体じゅうから噴きだした。

何とかシャワーを浴びて身支度をする。
そしてもう一度、電話をかけた。

ばあたんが、電話に出た。
「たまちゃん?おばあちゃんよ。
 誰も来ないのよ。今日。誰もいないの」

どっと汗が噴き出す。

「…おじいちゃんは?」

その時じいたんが、電話に出た。
いつもより明るい、でもしゃがれた声。

「ああ、たま、お前さん大丈夫かね?」

…じいたん。じいたんこそ大丈夫なん?
ごめんねごめんね。あたしが判断まちがえてん。
熱が下がらんくて…

「そんなことだろうと思ってたさ。
 それより、お前さん、怒っちゃいけないよ。
 おじいさん、今日はがんばって、いい気分なんだよ。」

…?

「今日はな、洗濯機を回してみたんだ。
 お前さんのようには出来んがな。洗剤もつかったぞ。」

…え?本当に?じいたん

「お前さんがいつも頑張ってくれているんだから、
 おじいさんも応援しなくちゃって思っていたのさ」



「それにな、午後はおばあさんを散歩にお連れしたんだ。
 昔みたいにな、歩けるところまで、歩いて
 バスに乗って帰ってきたんだ。
 どうだ、すごいだろう」

…すごい。すごいよじいたん。
でも身体は、大丈夫なん?

「そりゃお前さん心配ないよ。」

「あと何回、こういうことができるかは、わしもわからん。
 おじいさんも、もう年だからな。
 いざとなったらお前さんがいてくれると思うから、
 色々やってみようと思えるのさ。」

…じいたん…

「おじいさんも、お前さんの言うことを良く聞くようにするから、
 お前さんも、おじいさんの言うことを聞いておくれ。
 今日はゆっくり休んで、
 明日は朝一番で、タクシー使って
 ○○先生の所へ行きなさい」

じいたん。じいたん。じいたん。

…あれほどひどかった動悸と頭痛が、すうっと引いた。

山盛りの愛情を注いでくれる、二人がいる。
私を信頼して、待っていてくれる、二人がいる。

熱なんか、吹き飛ばしてやる。