じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

『蓮は、泥の中から咲く花だ』

2005-05-07 23:51:43 | あの一言。
なるしまゆり『不死者あぎと』の中の言葉。

不死者あぎと 2 (2)

集英社

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初めてこの言葉を目にしたとき、
「ちくしょう先に書かれちまったぜ!」
と、悔しいような嬉しいような
妙な気分になったものだ。

自分がどうしようもなく追い詰められたと感じたとき、
私が昔からイメージするのは、決まって
泥の中で咲く、白い蓮の花。

蓮の花のように生きたい自分を、確認するのだ。

本当にいつでも、泥にまみれ、もがいている。
目を背けようのない現実の中で。

でも、生き抜くと決めたのだ。
なんでもありの泥の中から養分を吸いとって、
珠のような花を産み落としたいと
願い続けながら。

泥に溺れて、腐ってたまるか。
泥に磨かれて、光を生んでやる。

そして、もしも叶うなら

泥の中で蓮根をこっそり太らせて、
後に繋がってゆく命たちに捧げ、
天に還りたい。

あと何回

2005-05-07 01:43:22 | 禁無断転載
あと何回、
ありがとうって言えるかな。
じいたんばあたん、二人の笑顔を見れるかな。

あと何回、
三人で大声で笑えるかな。
だって
命なんて簡単に、消えちゃうんだもの。
ねえ、みんな、本当なんだよ。
この世では、どんな酷いことだって起こるの。

思い出すのは
あの雪の日の朝
覚悟していたのに受け止められなかった、
父の消えた、朝。

これ以上ないほどクリアな青空と
これ以上ないほど眩しい雪が
マグリッドの「呪い」とシンクロした
あの日。


あれから何と遠くへ来てしまったことだろう。

息子の倍以上の寿命をすでに生きている、
二人のこんな姿を見ようとは。

もう死んでしまいたいと嘆きながら
すさまじい力で生にしがみつく男と、
死んだ息子の存在さえもう思い出せず、
その娘に「おかあさん」と
屈託のない笑顔を向ける女。

彼らをどうして愛さずにいられるものか。

あれだけの呪いを受けながら
今まで生きていてくれた彼らを
長い孤独を耐え、忍びがたきを忍び
生き永らえてくれた、かれらを。

ねえみんな、
まだ間に合ううちに、

愛して。
彼らを無視しないで。
触れて、確かめて。

生きてるの。
まだ、生きてるの。
今、まだ、ここにいるの。