グラン・パレの「メランコリー展」にはエドワード・ホッパーのA Woman in the Sunが出展されているようだ。(Parcours de l'exposition のVIII)
ロジェ・グルニエはホッパーに捧げるHommage à Edward Hopper(短編集Une nouvelle pour vous )を書いた。名前のない語り手と道路を挟んだ家、ひとつ下の階に若い女の部屋がある。彼女は窓の鎧戸を決して閉めない。カーテンも滅多に。彼女の職業も、やがてその隣の窓に現れる気難しそうな老女との間柄も、何もわからないまま観察は続く。
シムノン『ベルの死』La mort de Belle(Belfond,1996)の表紙にはホッパーのNighthawksが使われた。戦後の滞米時代に書かれ。コネティカット州の小さな村が舞台のこの小説も、さえぎるもののない窓が象徴的な役割を持つ。
Il arrive qu’un homme, chez lui, aille et vienne, fasse les gestes familiers, les gestes de tous les jours, les traits détendus pour lui seul, et que, levant soudain les yeux, il s’aperçoive que les rudeaux n’ont pas été tirés et que des gens l’observent du dehors.
一人の人間が自分の家で行ったり来たり、仕慣れた動作、毎日の動作をし、独りなので表情もゆるみ、ふと目を上げてカーテンが引いてなく、外からじっと見られていると気づくことがある。
ホッパーの作品(http://www.englisch.schule.de/away/awayhopper.htm)に頻繁に見られる窓と室内、独りきりの女の組み合わせ。
一時期滝本誠氏が、ホッパーとアメリカの現代映画・小説の連関について盛んに書かれていた。フランスでホッパーがどんなふうに受け止められて来たかまではわからないが『フィッツジェラルドの午前三時』のグルニエにこんな短篇があることは興味深い。
『ベルの死』はシムノンの小説中でも特別に暗く重く、執筆は作家自身にもかなりの消耗を強いた。
たまたま表紙絵に選ばれただけ、かもしれないが、何もない空間に取り囲まれた人間を描くホッパーの世界と『ベルの死』はまるで地続きのように見える。