発見記録

フランスの歴史と文学

Qui a dit quoi ?

2005-12-04 11:19:43 | ことば
Le mariage n'est pas une loterie. À la loterie il y a des gagnants.
(George Bernard Shaw)
Wikiquote

結婚は宝くじではない。くじなら中には当たる者もいる。
ージョージ・バーナード・ショー(1856-1950)

Le mariage n'est pas une loterie... parce qu'à la loterie quelquefois on gagne. (Sacha Guitry)
lesalondumariage.com

結婚は宝くじではないーくじなら時々当たりもあるから。
ーサッシャ・ギトリ(1885‐1957)

REMARIAGE Le triomphe de l’espérance sur l’expérience.
再婚 経験に対する希望の勝利

をロラン・ジャカールはDictionnaire du parfait cyniqueで自作のことばとしていたはずだが(本が見当たらず前に書き写したものしか残っていない、お断りの上で記す)、上のlesalondumariage.com には

Le mariage, c'est le triomphe de l'imagination sur l'intelligence. Le second mariage est le triomphe de l'espoir sur l'expérience.

結婚は知性に対する想像力の勝利である。二度目の結婚は経験に対する希望の勝利である。

が作者名は抜きで引かれている。引用句やユーモアのページで相当数見つかるが詠み人知らずらしい。


犬のことば

2005-12-02 11:17:08 | ことば
はてな・fenestraeさんの「結婚は宝くじ」を見たときは石原都知事が騒ぎの元と知らなかった。「都知事ネタ」で検索するとそこそこの件数。ネタにされやすい方らしい。
ご結婚のスピーチにふさわしいことばかと疑問の声もある。愛や結婚についての箴言は「犬儒派」的なものが多い。モラリストが好む箴言という「貴族的」形式を、基調としてのcynismeに関連づけたのがDitionnaire du parfait cyniqueのロラン・ジャカールだった。(拙文「犬のパンセ」)
写原さんに教わったブログ「フランス箴言集=けすきるぞんでぃ」の「もしあなたの妻が美人でなくとも・・・」などもそういう調子。
シムノンにちょっと似たのがある。
La guerre, comme la vie, est une loterie et on suit son sort sans protester.
戦争は、人生同様宝くじである。人は抗(あらが)いもせず運に従う。
これはシムノンのMémoires intimesから(実はMichel Carly SIMENON Les années secrètesから孫引き)
フランスの引用句サイトでもシムノンのことばは目にする。ただ私が本当にシムノンらしさを感じるのは、そういう部分ではない。
Pedigreeのエリーズもデジレも、特別気の利いたことは言わない。印象に残るのはエリーズの口癖le strict nécessaire(何とか食べていくお金 夫の収入に不満がある)や、ゼネストの日警備に駆りだされたデジレが夜明けに帰宅し口にする?J’ai faim !?(おなかすいた!)、それは小説から取り出せば何の変哲もないことばだ。
子沢山のデジレの生家では、子供が外から帰ると大きな声で「おなかすいた!」というのが習慣だったこと、そしてこの習性は少年シムノンにも受け継がれたことに気づくには時間がかかった。



白髪のモヒカン 

2005-11-24 21:56:11 | ことば
ギューちゃんこと篠原有司男さんが登場!で初めて篠原氏の声を聞けた。
同席の息子さんのお名前が「アレックス空海篠原」、しゃべり出してすぐラップになる、「ラップっていうのは心の叫びだから、彼もいま叫んだわけ、心の叫び」 声も話も若々しい。白髪のモヒカン。

アレクサンドル・デュマはLes Mohicans de Parisという小説(戯曲版もあり)を書いているがどんな話か。仏語でapachesは「愚連隊」とか悪い意味もある、Mohicansすなわち「ネイティヴ・アメリカン」とは限らない(*1)
有名な言葉「女を捜せ」?Cherchez la femme !?は、この作品から来ているという。警察官のJackal(policierなので階級など不詳)が

―Il y a une femme dans toutes les affaires ; aussitôt qu’on me fait un rapport, je dis : On cherche la femme, et quand la femme est trouvée...
―Eh bien ?
―On ne tarde pas à trouver l’homme.

―事件の陰に女ありだ。報告を受けるとすぐ私は言います、「女を捜せ!」
女を捜し、見つかった時は・・・
―どうなります?
―じきに男も見つかります。

(Bernadette de Castelbajac, Qui a dit quoi? Tallandier, 1978)
この本では、デュマは1759年に警察長官lieutenant-général de policeだった?G.de Sartine?の言葉を借りたと注がつく。Antoine de Sartine (1729-1801)か。http://www.public.coe.edu/~theller/soj/ttl/people.html


*1「誰も彼も権力欲・金銭欲に凝り固まった都市の周縁で、恵まれない境遇の者たちが自由と栄光、幸福を勝ち取ろうとする」話、http://www.fnac.com/Shelf/article.asp?PRID=914531&Mn=32&Origin=FnacAff&Ra=-1&To=0&Nu=10&Fr=3自由主義運動のカルボナリ党Charbonnerieやフリーメーソンがからむ。敵役のJackalはchef de police とわかる。



パンがなければ何を食べるか(3)

2005-11-01 11:08:46 | ことば
ゲイリー・ラーソンの一コマ漫画で、断頭台に上るマリー・アントワネットが群集に本当は"Let them eat cake AND ice-cream." と言ったのよ、と釈明を試みる―というのがあるらしい。
"Let Them Eat Cake" William Glover's Weekly Internet Columm 20 December 2000

「≪パンがなければ・・・≫」はネタとしてなんでこれほど人気があるのか。王妃が本当にそう言ったのかを問題にするか、仏語と英語のずれの指摘や言葉の考古学になる。
実際、仏語のbriocheには油断のできないものを感じる。
The Straight Dope:Did Marie Antoinette really say "let them eat cake"? 24-Oct-1986 で見つけた「N.D.G.」氏の説。

Briocheが現在に通じるような意味になる前、それはa flour-and-water paste that was "caked" onto the interiors of the ovens and baking pans of the professional boulangers of the era. 「当時のパン職人が小麦粉と水を練ってペーストにし、竈やベーキング用パンの内側にcake(厚く塗り付ける)したもの」を指したという。"The modern equivalent is the oil-and-flour mixture applied to non-Teflon cake pans.".「現代なら、テフロン加工のしてないケーキ鍋に塗る油と小麦粉を混ぜたものに相当する」-焦げ付き防止のため?
とにかく
At the end of the day, the baker would scrape the leavings from his pans and ovens and set them outside the door for the benefit of beggars and scavengers.
「一日の仕事を終えた後、職人は鍋や竈に付いた残りをこそぎ落とし、乞食やゴミあさりのため戸外に出しておくのだった」

manet-brioche-1870
これにはCecil Adams氏が中世以来briocheはa sort of crusty bun, typically containing milk, flour, eggs, sugar, butter, and whatnot(硬い皮croûteのついた一種の丸型パンで、一般にミルク、小麦粉、砂糖、卵、バター、などを材料とする)と自信ありげに答え、ほっとするのだが不安は残る。
図(サムネイル表示)はマネ『ブリオーシュ』(1870)



パンがなければ何を食べるか(2)

2005-10-30 10:56:50 | ことば
フランス革命200周年の1989年7月、パリでは先進7カ国のアルシュ・サミットle Sommet de l'Archeにぶつけるように、「第1回・もっとも貧しい7カ国サミット」が開催された。
高層ビルla Grande Archeに対しl’arche des pauvres(貧者の箱舟)と呼ばれるペニッシュにブキナ・ファソ、モザンビーク、ザイール、ブラジル、ハイチ、バングラデシュ、フィリピンの市民代表が会する。
7月8日にはジル・ペローのイニシアティヴによるデモ、続いてバスティーユ広場で歌手のルノーRenaudたちの大コンサート。「(第三世界の)債務、アパルトヘイト、植民地、もうたくさんだ」をスローガンとする。
『海外メディアの反応 乞食にはブリオーシュ』Dans la presse étrangère De la brioche pour les gueux (Le Monde13.07.89)によれば、この動きを伝える各国特派員の記事でも例のマリー・アントワネットと「パンがなければブリオーシュを」が持ち出された。10日のObserver紙は
Les dirigeants du dixième de la planète qui a réussi économiquement ne peuvent pas se contenter de parcourir les rues de Paris, cette semaine, en offrant des brioches aux gueux qui approchent du carrosse.
(地球の10分の1に過ぎない経済的勝ち組、先進国の首脳は、この週、パリの通りを回り、豪華な四輪馬車に近寄る乞食にはブリオーシュを進呈してすますわけにも行かない)

ちょっと古い記事、Guardian Unlimitedでも見つからない。英文でも「ブリオーシュ」か確かめたいところ。

フローベールはせっせと紋切型を集めた。これなど『辞典』に出てきてもよさそうだが、ない。アルフォンス・カールが風刺的雑誌Les Guêpes(「雀蜂」かWikipediaの記事で訳されているように「悪女」?)で「パンが・・・」を本来マリー・アントワネットの言葉ではなく、「急進派の扇動者」が彼女を貶めようとしたとしたのが(前出Wikiほかいくつかのページを信じるなら)1843年。
Les GuêpesはeBayでその四巻本を一瞥できる、残念ながらGallicaにはない。

Le Monde記事以外、特にCHASSAING Jérome : le Sommet de l'Arche (Paris, 14-16 juillet 1989) http://sung7.univ-lyon2.fr/ETU/arche.htmlを参考にした。