発見記録

フランスの歴史と文学

東野芳明『アメリカ 虚像培養国誌』

2005-12-21 10:55:00 | アート・文化
img047東野芳明氏の死を「美術手帖」で知る(米倉守『閉じられた蝶番』)。一月程度の時差は良いほうで、時には何年ものずれが生じる。雑誌ではずいぶんお目にかかったが本棚には『アメリカ 虚像培養国誌』(美術出版社 1968)一冊。つまりこれは決して真正のファンによる追悼文ではない。

東野氏はパリ滞在中、その美しさを「いささか博物館的」と感じずにいられない。「戦後の焼野原に育ったぼくのような男には、人間の叡智がながい間に徐々に沈殿してでき上がったような都市は、あまりにも凝りすぎ、完成しすぎていた」
「欲求不満」を解消してくれたのがニューヨークだった。東京とニューヨークの「博物館でないエネルギー、猥雑でけたたましく、がたぴししていて、すべてがお互いに不均衡でお互いからはみだしているような面が、ヨーロッパの古都とは違った魅力なのである」(「わが都市遍歴」)

「最近、急速に、その神秘的な特性が若い作家の間で称賛されはじめた、孤独な作家ジョゼフ・コーネルにふれておこう」(「アメリカ美術の神話」)のような部分がある意地の悪い「いまさら」感を引き起こすのに比べ、「馬喰町四丁目九番地」での誕生を起点とする「わが都市遍歴」は再読意欲を誘う。
映画『ヒロシマ わが愛』についての貴重な証言―「一時、東京の青年の間では、独り旅のフランス娘とランデ・ブーをするのに、オリンピック工事で原爆ドームのように化した銀座四丁目の和光の前をえらび、「トーキョー・わが愛」などと名付けるという、けしからぬ遊びがはやったことがある」
「原爆ドーム」の比喩は悪趣味を承知で選ばれている。
良くも悪しくも東野氏らしさを感じるのは、
ここで思い出すのは、先年来日したスイスの電動モビール彫刻の作家ジャン・ティンゲリー(*1)のことだ。かれは機械文明の首都ニューヨークで廃品や古びたボンコツ機械で高さ一〇メートルの塔を作ったことがある。電流を通すと、猛烈な騒音と火炎をあげて、この塔は三〇分で自滅してしまった。題して「ニューヨーク讃歌」。来日したとき、ぼくは、広島の記念公園で、この種の「事件」をやったらと暗示した。しかし、レネの「夜と霧」を知っているかれは顔を青くして、恐ろしくて出来ない、と語った。かれはネヴァダ砂漠で、水爆実験に挑戦(?)する、大爆発事件「世界の終末」をNBCのために敢行したのだが、広島は〈聖域〉であり、「世界の終末」そのものであってこれに手をふれることは出来ない、とでもいうように、かれは首を振った。
「わが都市遍歴」のいわば負の中心が、広島だといえるだろう。「大半の日本人と同じく、ぼくはこの都市と無縁に生きてきたし、むしろ、ここをわれわれの魂のエルサレムとする道程をできるだけひきのばしつづけている、といってもよいかもしれない」と書かれる「ヒロシマ」が。

(*1) Musée Tinguely(仏・英・独語)>LE MUSEE>Jean Tinguely>Biographieに問題のHommage to New York(1960)  Study for an End of the World (1962)の各写真あり。




ドードー・ミュージアム

2005-10-18 10:08:09 | アート・文化
DODO1検索の偶然、Emmanuel Richon氏のLe musée du Dodo
http://www.palli.ch/~kapeskreyol/dodo/index.phpを見つける。
モーリシャスのlexpress.muの記事http://www.lexpress.mu/display_search_result.php?news_id=39966によると、 リション氏は学芸員muséologue、絵画修復がご専門。著書にはLe voyage de Baudelaire à l'île Maurice et à la Réunion  またボードレールの詩のクレオール語訳など。

モーリシャスのシンボル、ドードーの博物館ができれば観光客も集まりそうだが、予算がない。まずネットで作ってしまおうとなったらしい。

日本にもドードーの絶滅という立派なサイトがある。Le musée du Dodoは各ページが仏語とクレオール語で併記、クレオール語は音声が聞ける。

モーリシャスではクレオール語はこれまで学校で学ぶ言語ではなかった。このヴァーチャル・ミュージアムは教育素材としても現段階では貴重なものだという。
ドメイン名が.chになっている。スイスの女性、リセで化学と生物を教える Francesca Palli さんがwebmasterだからか。(そのプロフィールはhttp://www.palli.ch/~kapeskreyol/divers/francesca.html




ルーヴルをランスに(3)

2005-10-07 21:50:28 | アート・文化
アトランタの分館とも合わせ、ルーヴルの地方・海外への進出に批判的なのはLe Mondeに掲載されたDidier Rykner氏の≪L'avenir du musée du Louvre passe-t-il par Lens ?≫( 20.01.05 )、分館建設推進論は「二重の神話」に基くと指摘。
まずルーヴルには展示しきれないほど作品があるというのは正確でない。

Depuis les années 1980, le Louvre a doublé ses surfaces d'exposition, et une grande partie des collections ont émigré vers le Musée d'Orsay. Les réserves - nous parlerons ici de peinture, mais le raisonnement pourrait s'appliquer également aux autres départements - ne sont pas inépuisables. Aujourd'hui, les oeuvres très importantes non exposées sont rares.


(ルーヴルの展示スペースは80年代から倍増し、所蔵品(ここでは絵画の話になるが、他部門にも同じことが言えるだろう)の多くはオルセー美術館に引っ越した。非常に重要なのに展示されない作品は、今では稀である)

Second mythe, Le Louvre se montrerait chiche envers la province. Tout aussi faux. Du XIXe siècle à aujourd'hui, le Louvre a déposé des milliers d'oeuvres dans les musées de région. Ce sont eux, les vraies antennes du Louvre. Et pourtant, leurs fonds sont souvent mal exposés, faute de place et de moyens.


(第二の神話。ルーヴルが地方に貸し惜しみをするという。同様に偽りである。19世紀から今日まで、ルーヴルは地方美術館に何千もの作品を委託してきた。これら美術館こそ、真のルーヴル分館である。しかしスペースと予算がなく、収蔵品はしばしば十分なかたちで公開されずにいる)

例に挙がるLaval(Mayenne)のLe Musée des beaux-arts de Lavalの場合、今では閉館、建物は科学技術産業文化センターle CCSTI (Centre de Culture Scientifique, Technique et Industrielle)となり、所蔵美術品から
Portraitsのような一時展示がChapelle Saint Julien で行なわれている。

ランスに近いアラスやリールには立派な美術館がある。地方にも文化を身近にというなら、既存の施設をこそ援助すべきではないのか。

Pour la plupart des provinciaux - on peut le regretter, mais c'est ainsi - Paris est infiniment plus accessible que les autres villes. Quel bénéfice tirera un Bordelais ou un Toulousain de l'implantation d'une antenne à Lens ?


(大方の地方人にはー残念ではあるがそれが実情だー他の都市よりも、パリのほうが遥かに足を運びやすい。ランスにルーヴル分館を設けても、ボルドーやトゥールーズに住む人にどんな利益があるのか?)

ランスと同様ポンピドゥー・センター分館ができるメッスMetzも「ヨーロッパの十字路」と呼ばれるような位置にある。英国と「大陸」、欧州に顔を向けた美術館なのだろう。
ちなみにルーヴルやオルセー美術館を訪れるのは外国人が多い、これに対しポンピドゥー・センターは「35~40歳でパリかイール=ド=フランスに住む高学歴・有資格の女性」を典型とするという。(Bruno Racine
?Réinventer le Centre Pompidou?


学芸員の多くは分館づくりを喜んでいない。美術品の頻繁な移動はリスクを伴う。だが分館は話題になる。メディアを介した「イヴェント」événementの創出・・・。

リクネル氏にはご自身のサイトlatribunedelart.comにも関連記事
O.P.A. sur les musées
(美術館へのTOB(株式公開買付))がある。

拡大と変貌を続ける巨大な文化装置ルーヴル。その経営も国家からある程度自立性autonomieを得た。美術館は国とCOM(Contrat d'Objectifs et de Moyens )という契約を交す。COMは一定期間の「ビジネス・プラン」(ここを参照)で、2003-2005年の契約には地方の分館建設、本館外への委託、貸与、展覧会なども織り込まれている。(→ここ)


ルーヴルをランスに(2)

2005-10-02 22:06:05 | アート・文化
地方紙lavoixdunord.frには関連記事がまとめられていた。ここには画像あり。
応募作は最後に
Rudy Ricciotti
le groupe japonais Sanaa
Zaha Hadid
の三者による作品にしぼられた。接戦で、地域圏議会では社会党と緑の党が賛成(22票)、右派(UMPとFN)と共産党が反対(22票)、Percheron地域圏議会議長の票でSanaaに決まった。

特にRicciottiのプロジェクトは論議の的になったらしい。図で示してくれるところがないがenterréという表現が目につく。美術館を一部は地下に「埋め」てしまうようなものか。”un Louvre, sinon enterré, au moins ?encastré?”(土に埋まったとは言わないまでも、〈はめこまれた〉ルーヴル) "un parti pris d’une ?descente au Louvre ? difficile à admettre pour des élus miniers"(炭鉱地帯の議員には認めがたい、〈ルーヴル降り〉*に偏った構想」
(*”descente aux enfers”「地獄降り」にかけた)
http://www.lavoixdunord.fr/vdn/journal/dossier/culture/louvre/0509273.phtml

Daniel Percheron a évoqué "la sensibilité des architectes, surprenante, voire déstabilisante pour un élu comme moi", soulignant qu'à ses yeux un des projets retenus était un "contresens politique et idéologique".

Le maire de Lens Guy Delcourt (PS) a pour sa part évoqué "une offense au bassin minier" à propos du même projet. "On ne voulait plus dire on descend à la mine, on ne veut pas dire on descend au Louvre", a-t-il ajouté.

(ダニエル・ペルシュロンは「私のような議員には驚いたり不安にさせられたりの、建築家の感性」にふれ、審査に残ったプロジェクトの一つは自分の目には「政治的イデオロギー的な誤り」だと強調した。
同じプロジェクトについてランス町長ギー・デルクール(社会党)は「炭田への冒涜」をほのめかした。「『炭鉱に降りる』と言うのはもうごめんでした、『ルーヴルに降りる』とは言いたくありません」と付け加えた)
http://cultureetloisirs.france2.fr/patrimoine/actu/13732610-fr.phpl

ぱっと目で見ることができず、議論の詳細もわからない。霧の中だがことばを拾ってみる。

Certains, comme le maire de Lens, Guy Delcourt (PS), y voyait une réminiscence trop appuyée du monde de la mine ? c'est-à-dire de la crise industrielle ? à laquelle Lens veut échapper.
(ランス町長ギー・デルクールのように、ある者は、このプロジェクトに炭鉱の、つまりランスが逃れたい産業危機の世界を、あまりに色濃く思い出させるものを感じた)
(”A Lens, le Louvre sera construit par des architectes japonais”LE MONDE | 27.09.05 | )

04年7月、文化相Renaud Donnedieu de Vabres が候補地視察でランスに来た時、用地そばの炭鉱労働者団地の女性三人Marie, Helena,Sophie が偶々大臣と出会う。会釈した大臣との話で

? Ben oui, M’sieur le ministre, ce serait bien pour nous, ce Louvre. Vous voyez, on a tellement dit que les mineurs, c’était la basse classe, qu’on était tout en bas, alors décrocher le Louvre, on prendrait ça comme un honneur, M’sieur le ministre.≫


「それはもう、大臣、ここにそのルーヴルができたら、私らにはうれしいことです。炭鉱夫は下層階級だ、底辺にいるんだとさんざん言われてきましたでしょう。ルーヴルの建設地に選ばれたら、名誉なことと思いますなあ」

「これは効いた」 Touché.
三人の女性は思わぬ「大使」役を演じた。
http://www.rdonnedieudevabres.com/php/pages/voirActualite.php?type=2&id=518




ルーヴルをランスに

2005-09-29 07:03:08 | アート・文化
ルーブル美術館:別館の設計を日本人建築家が担当 (毎日新聞 2005年9月27日)

LouvreIIが建設される北仏のランスLens (Pas-de-Calais)は、ディディエ・デナンクスの作品Les Figurantsの舞台になっていた。拙文を再利用―

ノール=パ・ド・カレーは鉄鋼など伝統産業から構造転換の最中にある地域らしい。(・・・)クロード・ベリの映画『ジェルミナール』の刺激で、この地方に地域文化再興の気運が生まれている。映画狂ヴァレールは重工業の死で活力をうばわれ眠った都市を予想してランスに来るが、町は映画祭でにぎわう-映画館アポロ座の正面部は剥げかけているとしても。

建設候補地として挙がったのは他にBoulogne, Calais, Arras (Pas-de-Calais), Valenciennes (Nord), Amiens (Somme)  Lensに決まるまでにはGuy Delcourt町長と若い職員たちのチームの奮闘があった。失業率15%という町は「文化」による再生に賭けている。(Le Monde記事?Lens espère que l'arrivée du Louvre II fera revivre l'ancien bassin minier? 17.12.04)

ポスター (←でMaintenant une réalitéをクリック) は、ルーヴルのピラミッドと炭鉱のボタ山を重ね合わせる。

「かつてなかったほどにランスは今、動いています」Plus que jamais, LENS est une ville qui bouge. (デルクール氏

「起死回生の思いでアメリカのグッゲンハイム美術館を招致した」ビルバオ(隈研吾氏 asahi.com記事)も鉄鋼の町だったらしい。