発見記録

フランスの歴史と文学

青い電球 灯火管制の時代

2008-07-23 11:28:20 | インポート

Le dortoir n’était que faiblement éclairé par quelques ampoules bleues. Un vieillard s’etait mis à tousser. Les deux petites filles dormaient profondément, l’une près de l’autre, leurs masques à gaz au pied de leurs lits. La mère douloureuse avait fini par s’endormir et tout était resté calme pendant quelques instants. (Louis Guilloux, Salido suivi de O.K., Joe ! ? Folio ? p.18 )

(共同寝室は、ただ幾つかの青い電球でぼんやり照らされていた。一人の老人が咳をし出した。二人の少女は隣り合いに、自分の寝台の足下にガスマスクを置いて熟睡していた。悲痛な母親はそのうち眠りこみ、しばし何もかもが静まり返った。)

ルイ・ギユーの小説『サリド』の語り手は、パリと北仏から流入する避難民の受け入れセンター le Centre d’accueil aux Réfugiésにいる。第二次大戦が始まったばかりの1939年9月11日を基点に、物語は過去と現在を行き来する。ギユーは生地ブルターニュのサン=ブリューSaint-Brieucで、実際に難民支援活動に関わった。

前夜遅くパリからの列車で着いた二人の娘には、ブラウスに名前と住所を書いた札がピンで留められ、ガスマスクを肩から掛けていた。同じ列車から降りたのは男女の老人たちと、ドイツから来た若いユダヤ系の母親。連れている子供の一人は病気で、病院に運ばれた。 タイトルの「サリド」はこの年の2月、列車で輸送されてきたスペイン共和派民兵のひとり。スペイン内戦でフランコ側が攻勢を強めるにつれ、多くの共和派民兵が国境を超えフランスに逃れた。

問題は、共同寝室を照らす「青い電球」である。同じ開戦直後のパリを描いたジャン・メケールの小説では

C’était la guerre qui bleuissait les lampes et mettait partout des odeurs de caveau. (戦争は灯火を青ずませ、至る所に地下納骨所の臭いを漂わせていた。)

Chaque soir, dans les rues passées au bleu de guerre, les bistrots faisaient le plein. (毎晩、戦争の青に染まった通りで、ビストロは軒並み満員になった。)

(Jean Meckert, La marche au canon Joëlle Losfeld, p.12 )

Dans les trains, les ampoules étaient peintes en bleu pour que les convois ne soient pas repérés par les avions. (飛行機から列車が見つけられないように、車内の電球は青く塗られた。)(Vie des Français sous l'Occupation allemande Wikipédia

『サリド』の受け入れセンターは駅のそばに置かれている。駅付近は標的にされやすかったはずだ。

小松清の回想では1939年9月1日、

午前一一時ごろ、ドイツ空軍がワルソー爆撃をはじめたというニュースが入った。その瞬間から、パリにはタクシーの空車がすっかり姿をけした。戦争になるとは、ほんとうに信じていなかったパリ人は、しばし呆然として手を拱いている有様だったが、気を取り戻すと、いっせいに気が狂ったように身のまわりのものをトランクにつめこんで、われ勝ちに停車場に殺到した。

(『沈黙の戦士』 海原 峻『フランス現代史』(平凡社)から孫引き)

群れを成してのパリ脱出 l'exodeが起きるのは、1940年、いよいよドイツ軍が迫った時だと思っていた。これはその先駆けか。 『サリド』では開戦早々のこの時期、市中に空襲警報が鳴り渡る、訓練のようなものか。行政から一般民衆まで、空からの攻撃を恐れ「防空体制」la défense passiveの構築に努める。

灯火管制と青の連関に気づかせてくれたのは、シムノンの自伝的小説『血統』だった。こちらはベルギー、第一次大戦中のこと。

Il y a trois ans maintenant que la guerre dure et que les vitres des réverbères sont passés au bleu, de sorte qu’ils éclairent à peine ; et quand, à six heures, les magasins ferment leurs volets, on erre dans les rues comme des fantômes en braquant devant soi le rayon dansant d’une lampe de poche.

(もう三年戦争が続いている、街灯のガラスは青く塗られ、ほとんど照明にならない。六時に商店がシャッターを閉めると、懐中電灯の躍(おど)る光を頼りに、亡霊の一団のように路上をさまよう。)(Simenon, Pedigree Labor/Actes Sud, p.462)


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