「文豪フローベールの書簡集 」(ちょうど100年前のフランス雑誌瞥見)で写原さんが紹介されていたフローベールの姪への手紙 Lettes à sa nièce Carolineはかなりの分量になるが、初めの何通かだけでも十分楽しめる。
最初のパリからの手紙(1856年4月25日)は、?Ma chère Lilinne,?と始まる。カロリーヌからの手紙への礼。綴りと文章に上達が見られると褒め、伯父さんの真似をしているうち、作家になってしまうかもと冷かす。
だがすぐ、自分の間近に、しどけない姿の「ブールヴァールで出会った」女がいることを明かす。
1846年1月21日、フローベールの妹カロリーヌは娘を出産する。子供は母と同じくカロリーヌと名づけられた。
しかしまもなく産褥熱でカロリーヌは亡くなる。フローベールは1月15日の父の死に続き、妹を失う。フローベールと母は生まれてまもないカロリーヌを引き取る。クロワッセの家での生活もこの年に始まる。
http://auteurs.normands.free.fr/ermite.htm
手紙はカロリーヌの脚注つきなのが有難い。
フローベールはロベール夫人(カロリーヌの人形)の健康を気づかう。顔の色が悪い、滋養になるものを食べるよう言ってあげなさい。昨日出かけた絵画展ではうさぎの絵を沢山見た、「クロワッセの家主ラビット(カロリーヌが可愛がっている)」をカタログで探したが見つからなかった。
フローベールは手紙の最後で言う、? Adieu, mon pauvre loulou ; embarasse bien ta grand-mère.?
短篇Un cœur simple (邦題は「まごころ」(岩波文庫『三つの物語』)など)の老女フェリシテが可愛がる鸚鵡は、Loulouと呼ばれていた。
Lilinneからloulou, カロリーヌの愛称はKaro,Caro, Carolo あるいは bibi ( bichon, bichet, chat,... ) と入れ替わり、フローベール自身がTon vieuxやTon oncle qui t’aime にとどまらず、時には黒人(Tom, bon nègre) アラブの族長(Ton scheik) と、道化の仮面をつけかえるのを楽しむかの様子。この書簡集を追っていけばまだまだ見つかるだろう。
? Je m'ennuie de ta petite personne.? (手紙 IV)
「退屈」のs'ennuyerしかお目にかかったことがなく、辞書(atilf)で確かめると、
A. Vieilli. [Correspond à ennui A en partic.] Il m'ennuie de + subst. Avoir la nostalgie de quelqu'un/ quelque chose. Depuis que tu es venue ici, il m'ennuie de toi plus qu'auparavant (FLAUB., Corresp., 1880, p. 375).
また代名動詞 s'ennuyer de では例に
Il s'ennuie de ses parents qui habitent Mouron (RENARD, Journal, 1903, p. 843)
それは?Ressentir la nostalgie, le regret de quelqu'un/quelque chose.?(誰か・何かに懐かしさ、名残り惜しさを感じること)とされている。
Loulouから私はもう一つ、AutelさんのPlaisir de la langue 舌の快楽・言葉の快楽を思い出した。
繰り返しになりますが私にはこの時代の、大きな見取り図ができていません。大仕事は写原さんにお任せして、楽なことだけやっているような気がします。