奈良その1
11月末、奈良を訪れました。
近鉄奈良駅前からバスに乗り、のどかな
田園地帯を約30分走ると、山の中に
正暦寺(しょうりゃくじ)があります。
(本堂)
正暦寺の創建は992年。菩提山真言宗
の本山。
往時には86坊の堂塔伽藍が、菩提仙川
の渓流をはさんで建ち並ぶ大寺院、「宗
教都市」でした。
平家による焼き打ちやたび重なる兵火に
より、殆どの堂塔は失われました。
現在は江戸時代建立の福寿院客殿と大正
時代再建の本堂などがわずかに残るのみ
です。
古来より「悟りの山」を意味する「菩提
山寺」と呼ばれ、深山幽谷のような趣が
あり、静かな宗教空間に包み込まれます。
ちょうど訪ねた時は、秘仏薬師如来像
(白鳳時代)の特別公開中でした。
福寿院客殿は1681年建立の数寄屋風
建築。
自然風景式庭園は、四季折々の景色を見
事に演出してくれます。
正暦寺で造られていた僧坊酒は、現在の
清酒造りの原点ともいわれます。
本来、寺院での酒造りは禁止されていま
したが、神仏習合の形態をとる中で、鎮
守や天部の仏へ献上する御酒として自家
製造されていました。
正暦寺で創製された酒母(もと)、「菩
提もと」は、酸を含んだ糖液で培養する
ため、その酸によって雑菌が殺され、ア
ルコールが防腐剤の役割を果たすという
巧妙な手法で、日本酒造史上の一大技術
革新といわれています。
1582年5月、織田信長は安土城に徳
川家康を招き、盛大な宴を設けました。
奈良から献上された僧坊酒「山樽」は、
「比類無シトテ、上一人ヨリ下万人称美
」したと記されています。
(「多聞院日記」)
(続く)