Don't Kill the Earth

地球環境を愛する平凡な一市民が、つれづれなるままに環境問題や日常生活のあれやこれやを綴ったブログです

譲渡担保を巡るエトセトラ(10)

2021年11月18日 06時30分40秒 | Weblog
 そんなにAを信用出来ないというのであれば、Xは初めからAに鋼材を売らなければよいのではないかと思える。
 だが、Xはそうしなかった。
 もちろん、そうしなかったのには訳がある。
 ここは、Xが商社であり、Aが卸売業者であること、つまり、両者とも(集合物である)「在庫」(ギールケの「キリストの神秘的な肉体」の一種?)を命とする業態であることがポイントである。
 そもそも在庫の経済的機能とは何だろうか?

市場の秩序学(塩沢由典)
在庫の基本的機能は連結するふたつのものを時間的に切り離すこと(decoupling)である。・・・もし在庫の保有が不可能であり、販売と産出、仕入れと投入との切り離しが不可能であるとすれば、・・・無駄のない生産を組織するには遠い未来の需要を正確に知らなければならないが、そのようなことはもちろんできない。
在庫に比べると貨幣はより手の込んだ仕組みであるが、その基本的機能はやはり切り離しにある。・・・貨幣はそこに一般的等価物という観念を持ち込むことにより、個人における売りと買いの分離を可能にしたのである。・・・貨幣の保持は決定の留保であるから、それは反面では消費や投入への緊急性の欠如を示している。・・・このとき他方に緊急性に直面している個人あるいは法人がいるとすれば、貨幣の貸借が起こりうる。これが信用である。」(p285~288)

 「在庫」は、「貨幣」と同じく、インプットとアウトプットとをdecoupling(時間的に切り離すこと)することによって、需要者に信用を与えることを本質的な機能としている。
 商社や卸売業者は、例えばメーカーにとっては「在庫」のアウトソーシングであり、これによって自らは在庫を抱えなくて済む(つまり資金負担がなくて済む)というメリットがある。
 ある意味では、我妻先生の所謂「客観的意義における企業」(ここでは在庫)が「法律関係の主体たる地位」(法人格)を獲得したものが、商社又は卸売業者なのである。
 だが、「在庫」を保有する側は、当然のことながら、それに伴うリスク(その最たるものが与信リスク)を引き受けることとなる。
 それゆえ、商社や卸売業者は、売先の信用調査を慎重に行うわけである。
 ところが、XはAに鋼材を売っておきながら、「お前の物は俺の物」と主張しているわけであり、そこに「ジャイアン」の論理はあるとしても、およそ信頼や「愛」はない。
 Xは、前述した与信リスクを(系列企業である)Aに押し付けることを図り、そのための手段として譲渡担保を用いたというのが真相ということになる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする