京大植物園TODAY

京都市左京区の京都大学北部キャンパス内にひっそり佇む現代の杜、京都大学理学研究科附属植物園の日々の風景を紹介します。

「大学植物園の観察会が学内および地域社会において果たす役割」(日本環境教育学会口頭発表)

2006年09月11日 14時59分13秒 | Weblog
先月8月20日、北海道・酪農学園大学で開かれた第17回日本環境教育学会大会で、観察会を中心とした「京大植物園を考える会」の取り組みについて、口頭発表が行われました。以下、大会要旨からの引用です。

【大学植物園の観察会が学内や地域社会において果たす役割~「京大植物園を考える会」の実践から~】

○坂本三和(京大フィールド研)、大石高典(京大院・理)、影山貴子、久松ユリ、今山稲子(京大理・生物系図書室)、中島和秀(京大理・附属植物園)、大月健(京大農・図書室)、京大植物園を考える会

キーワード:大学植物園、地域社会、身近な自然

【はじめに】 「京大植物園を考える会」では、京都大学理学研究科附属植物園(以下それぞれ、考える会、京大植物園と表記)において一般向けの観察会を毎月開催している。考える会は、京大植物園の管理運営方針をめぐる話し合いの場の提供と意見の発信を目的に京大の学生や職員、近隣住民の参加により設立され、研究・教育・憩いの場としての京大植物園の重要性を主張している。本講演では、この観察会の実践例を紹介・分析するとともに、観察会が学内外に対して果たしてきた役割および問題点・課題について考察する。

【実践の概要】 2003年4月より2006年6月現在までに、考える会主催の観察会は月1回、計41回開催された。うち31回は平日の昼休み約50分間に行われたが、休日に1~2時間の観察会も開催された。毎回1名のガイドが事前に予告したテーマに沿って解説を行った。ガイドは植物園を研究等に利用している研究者や大学院生、植物園の職員らが担当した。京大植物園は、植栽された樹木のほか、草本類やきのこ、昆虫や鳥などを観察できる生態植物園であり、季節により移り変わるこれらの生物の様子が観察会の主な対象となった。またこのほかに、園内に見られる染料植物や縄文遺跡の紹介および「街中との温度差を感じよう」「森で話ろう」といった企画も行われ、理系的な内容のみに偏らない多彩なテーマが展開された。参加者数は一回あたり平均30人前後で、主に近隣住民、京大の学生・職員から構成されていた。

【実践の特徴と課題】 大学植物園の観察会が、大学当局ではなく、学生や職員および近隣住民により運営され、すでに3年間継続していることは本実践の最大の特徴である。観察会開始当初の目的は、京大植物園の存在を広く学内外に知らしめることであり、必ずしも参加者への「教育」を意図したものではなかった。しかし3年間の継続の結果、植物園の存在認識が広まっただけでなく、参加者の感想からは、観察会が身近な自然に目を向ける契機になっていることも示唆された。また、参加者に占める地域住民の割合は高く、社会教育的な役割も大きいと考えられる。一方、ガイドをする側にとっても、植物園での自分の研究や経験を整理し、表現する場として機能したと考えられる。
今後の課題としては、学外者の参加と比較して低い学内者の参加を促進することがあげられる。また、単にガイドの説明を聴くだけでなく、参加者自身による発見を情報発信できるような企画を盛り込んでいくことも重要であると考えられる。