بسم الله الرحمان الرحيم
السلام عليكم
娘への愛
ムハンマドの娘たちの話に戻ろう。兄もなく弟もなく育った四人の姉妹たちは、父親に見守られてみな結婚をしたのだが、三人は若くして世を去り、この父には末娘のフアーティマひとりが残った。ムハンマドと同時代に生きた人たちは、どんなにムハンマドに敵対心を燃やした人であろうと、ムハンマドが娘に寄せた愛情の深さを否認する者は誰もいなかった。それなのに近代の東洋学者の一部の人々はイスラームに敵意を持ち、ムハンマドの娘への愛の深さを推し量れぬばかりか、それこそ彼らはアブノーマルな愛と見たのだろう、殊にファーティマに寄せた愛については、これを伝える史料に攻撃を集中させて次のょうに評している・・・「創教後、時を経てシーア派が出現してから作り出された架空の話である!・・・」この件については、後ほどファーティマの章でもう一度見ることにしよう。今ここで慌てて、このような妄説に応答する必要もないだろうとりあえず、ムハンマドが四人の娘たちに注いだ深い父性愛について考える際、思い起こしておきたいのは彼がまだ父親となる以前に身近に接した心優しい婦人たちからの影響についてである。実母アーミナ・ビント・ワハブは彼の遠い日の記憶の中に生き続けている女性である。ハリーマ・ビント・アブーザウーブ・アッサイディーヤは幼少の彼を保育してくれた乳母であった。そしてファーティマ・ビント・アサド。この婦人はアブーターリブの妻で、母アーミナ亡き後に実質上彼の母親となった人である。この婦人のことを使徒はアブーターリプに次いで恩義を受けた人だと語った。そして最愛の妻であるハディージャ・ビント・フワイリド。過去の悲しみを癒して彼の人生に愛と希望と平安を与えてくれた、この上なき良き伴侶である。神は預言者として選んだ男が息子のない娘ばかりの父となって耐えることを学び、ひたすら男児にのぞみをかけることなく、模範的父性像として、当時の信徒たちの師となるべく導かれたのであろう。使徒が伝えた啓典には、今日の女性が期待する以上に多くの権利が女性のために定められている。
四人の姉妹
由緒正しいクライシュの家に生まれ、寛容な良き家庭に育まれた。当時としては例外的にムハンマド家は娘たちの誕生を快く受け入れた。彼女たちは十世代に遡って正しい血筋を継承した、愛と信頼で結ばれた幸せな結婚の結晶であった。娘たちの姿に父は愛する妻の姿を重ねていた。孤児の運命を背負ってすごした悲しい少年時代の境遇を愛といたわりの心で優しく癒し、その悲しみに代わる美しい温かい存在となった妻……。また母は娘たちの面立ちがつくづく愛する夫に生き写しであると思う。初めて言葉を交わしたときから自分の心を捉えてしまった人、その気高い人柄と美しい言動に魅かれて閉じていた心の扉が開き、新しい人生を迎えることが出来たのだ。四人の娘たちの子供時代は生活に苦労は何もなく、平和で幸福な家族であった。ごく幼い時期はクライシュの一名家の慣わしとして、赤ん坊の育児にふさわしい環境が求められた。マッカ市内の息詰まるような猛暑を避けて四人の姉妹もひとりひとり、ふさわしい環境の中に預けられた。そして離乳の時期を迎えると、最良の保育者である実母のもとに戻った。母は結婚後、交易の業務からすっかり手を引いていた。多大な資産の管理は夫に委ねて、この平和な家庭の外部に起きる様々な出来事に気をとられることなく自分の新しい生活を大切に守ろうと全力を傾けていた。以前の経験から、育児の技術も保育の知識も豊かな母であった。この母の理想的な保育を受けて娘たちはすくすくと育っていった。肥沃な大地に播いた花が開くごとくに、娘たちは若々しく美しく成長した。財産の多くが使用人の費用として使われた。実際にはこれらの使用人の仕事は育児に必要な様々な雑事の手伝いにすぎなかった。ハディージャ夫人はマッカでも屈指のこの娘たちを、それぞれの好ましい将来に相応しく育て上げようと自らの手で、この大切な任務を果たしていたのである。長女のザイナブが少女期に入ると、母は家事を分担させて生活の訓練を始めたいと思った。まだまだ若かったけれど、真面目に真剣に手伝わせた。彼女は同年齢の少女たちがまだ夢中になっている遊びから次第に遠ざかった。ザイナブは末の妹の小さなお母さん役であった。世話を引き受けて暇をつくっては一緒に遊んだ。五十歳を過ぎた高齢な母が忙しく働くときなど、幼い妹が母の邪魔をしないよう、母に負担をかけないよう、とりわけ気を配るのだった。そんなことからザイナブとファーティマはとりわけ親しい間柄であった。同じくルカイヤとウンムクルスームのふたりも年齢が近かったこともあって、いつも仲良く一緒だった。ふたりは同じ一つのベッドで眠り、性格や特徴までよく似ていた。ちょうど双子のようであった。姉妹たちはこのように心地よい生活を楽しんでいたが、長女ザイナブが結婚して抜けると部屋も淋しげになり、残された三人の姉妹は幾晩も空になった彼女のべッドをながめながら、悲しみと慶びの混じり合った重たい感情に戸惑うのだった。この期間の姉妹たちのお喋りは、もっぱら結婚に関してであった。少女がただひとりで生家を出て、家族でもない、よく知らない男の家に行ってしまう・・・。結婚の実状がよく分かって、姉妹をがっかりさせたのだった。末のフアーティマは年少の所為もあって結婚について最も無知で最も苛立った今まで一緒に遊び甘えてきた小さなお母さんを自分から切り離してしまったことが、大変に不満であった。家族はどうして結婚のために盛大な祝宴など催して祝ったりするのであろうかと、恐らく他の二人に質問したことだろう。ザイナブをこの上なく慕っていた彼女には祝宴などなしに、嫌々泣きながら別れればよかったのにと思われるのだった。ルカイヤは幼いファーティマの気持を察して安心させねばと思ったのだろう。「お父様とお母様があのように盛大にお祝いをしてザイナブを嫁がせるのですもの、きっと幸せで良いことがあるからなのよ」と言い聞かせてみたが、ファーティマの結婚への絶望感は癒せなかった。ウンム・クルスームは二人の姉妹にこう言うよりほかないと思った。「誰に分かることでしょうか、もしかしたら、結婚式のあの大騒ぎは生まれ育った家を離れて新しい人生を始める花嫁の心の不安をとり除いてあげるためかもしれないわね」と。妹のファーティマが納得した様子を見せたので、話を変えて姉妹の心を母に向けさせた。母はザイナブが嫁いでから淋しさを表情に出すまいとしているものの、その感情をコントロールできない様子だった。「お母様が何度もルカイヤのことをザイナブと呼んでしまってから、はっと夢から覚めたときのように、『ああザイナブはもうここには帰らないのを忘れていたわ……』と小声で漏らすのを聴いているでしょう!」ファーティマは深く同情して「ほんとうにそうね……」と頷く。ルカイヤは「あなたは考えすぎよ、ウンムクルスーム。お母様はザイナブの名前をロにするのが慣れっこになってしまったの、胸の奥に秘めた想いがロに出たわけではないのよ。ただ弾みで出てしまうのだわ」 ウンムクルスームは感じたままを話し続けた。「じゃあ、お父様についてはどう思うの? お父様はあれ以来、すっかり黙って独りで考え込むことが多くなってしまったと思わない? お父様は何かとても重大な問題に気をとられているように見えない?」ファーティマの胸は震えた。「ああ、お父様。ウンムクルスーム、あなたの言うとおりよ」ルカイヤは言った。「ザイナブがお嫁に行ったことと、お父様が独り考えごとをなさることと、何か関係があると思うの?」ウンムクルスームは頭を振ると、意味深長な様子で言った。「今度はあなたの番なのよ、覚悟なさいな」ルカイヤは表情も変えずに答えた。「そんなこと、あんまり重大じゃないわ」ファーティマが言った。「二人とも結婚なさいな、おめでとう。でも私はたとえ誰とでも、お父様やお母様と別れることなんかしないわ」ファーティマは、このとき口にしたこの言葉が彼女のなかば運命的な言葉となったのを、まだ知らない・・・。ザイナブが嫁いでから間もなく二人の姉ルカイヤとウンムクルスームが結婚し、ファーティマひとりが父の家に残った。彼女はたとえ誰とであっても、結婚したくなかった。さて、ここで四人の姉妹が両親と共に暮らした時期の話を終え、次の章からは彼女たちひとりひとりの跡を追って、姉妹がどのような生涯を過ごしたのか、その後半の生活の様子を見ていくことにしよう。
إن شاء الله
続きます
アッラーのご加護と祝福がありますように
و السلام
السلام عليكم
娘への愛
ムハンマドの娘たちの話に戻ろう。兄もなく弟もなく育った四人の姉妹たちは、父親に見守られてみな結婚をしたのだが、三人は若くして世を去り、この父には末娘のフアーティマひとりが残った。ムハンマドと同時代に生きた人たちは、どんなにムハンマドに敵対心を燃やした人であろうと、ムハンマドが娘に寄せた愛情の深さを否認する者は誰もいなかった。それなのに近代の東洋学者の一部の人々はイスラームに敵意を持ち、ムハンマドの娘への愛の深さを推し量れぬばかりか、それこそ彼らはアブノーマルな愛と見たのだろう、殊にファーティマに寄せた愛については、これを伝える史料に攻撃を集中させて次のょうに評している・・・「創教後、時を経てシーア派が出現してから作り出された架空の話である!・・・」この件については、後ほどファーティマの章でもう一度見ることにしよう。今ここで慌てて、このような妄説に応答する必要もないだろうとりあえず、ムハンマドが四人の娘たちに注いだ深い父性愛について考える際、思い起こしておきたいのは彼がまだ父親となる以前に身近に接した心優しい婦人たちからの影響についてである。実母アーミナ・ビント・ワハブは彼の遠い日の記憶の中に生き続けている女性である。ハリーマ・ビント・アブーザウーブ・アッサイディーヤは幼少の彼を保育してくれた乳母であった。そしてファーティマ・ビント・アサド。この婦人はアブーターリブの妻で、母アーミナ亡き後に実質上彼の母親となった人である。この婦人のことを使徒はアブーターリプに次いで恩義を受けた人だと語った。そして最愛の妻であるハディージャ・ビント・フワイリド。過去の悲しみを癒して彼の人生に愛と希望と平安を与えてくれた、この上なき良き伴侶である。神は預言者として選んだ男が息子のない娘ばかりの父となって耐えることを学び、ひたすら男児にのぞみをかけることなく、模範的父性像として、当時の信徒たちの師となるべく導かれたのであろう。使徒が伝えた啓典には、今日の女性が期待する以上に多くの権利が女性のために定められている。
四人の姉妹
由緒正しいクライシュの家に生まれ、寛容な良き家庭に育まれた。当時としては例外的にムハンマド家は娘たちの誕生を快く受け入れた。彼女たちは十世代に遡って正しい血筋を継承した、愛と信頼で結ばれた幸せな結婚の結晶であった。娘たちの姿に父は愛する妻の姿を重ねていた。孤児の運命を背負ってすごした悲しい少年時代の境遇を愛といたわりの心で優しく癒し、その悲しみに代わる美しい温かい存在となった妻……。また母は娘たちの面立ちがつくづく愛する夫に生き写しであると思う。初めて言葉を交わしたときから自分の心を捉えてしまった人、その気高い人柄と美しい言動に魅かれて閉じていた心の扉が開き、新しい人生を迎えることが出来たのだ。四人の娘たちの子供時代は生活に苦労は何もなく、平和で幸福な家族であった。ごく幼い時期はクライシュの一名家の慣わしとして、赤ん坊の育児にふさわしい環境が求められた。マッカ市内の息詰まるような猛暑を避けて四人の姉妹もひとりひとり、ふさわしい環境の中に預けられた。そして離乳の時期を迎えると、最良の保育者である実母のもとに戻った。母は結婚後、交易の業務からすっかり手を引いていた。多大な資産の管理は夫に委ねて、この平和な家庭の外部に起きる様々な出来事に気をとられることなく自分の新しい生活を大切に守ろうと全力を傾けていた。以前の経験から、育児の技術も保育の知識も豊かな母であった。この母の理想的な保育を受けて娘たちはすくすくと育っていった。肥沃な大地に播いた花が開くごとくに、娘たちは若々しく美しく成長した。財産の多くが使用人の費用として使われた。実際にはこれらの使用人の仕事は育児に必要な様々な雑事の手伝いにすぎなかった。ハディージャ夫人はマッカでも屈指のこの娘たちを、それぞれの好ましい将来に相応しく育て上げようと自らの手で、この大切な任務を果たしていたのである。長女のザイナブが少女期に入ると、母は家事を分担させて生活の訓練を始めたいと思った。まだまだ若かったけれど、真面目に真剣に手伝わせた。彼女は同年齢の少女たちがまだ夢中になっている遊びから次第に遠ざかった。ザイナブは末の妹の小さなお母さん役であった。世話を引き受けて暇をつくっては一緒に遊んだ。五十歳を過ぎた高齢な母が忙しく働くときなど、幼い妹が母の邪魔をしないよう、母に負担をかけないよう、とりわけ気を配るのだった。そんなことからザイナブとファーティマはとりわけ親しい間柄であった。同じくルカイヤとウンムクルスームのふたりも年齢が近かったこともあって、いつも仲良く一緒だった。ふたりは同じ一つのベッドで眠り、性格や特徴までよく似ていた。ちょうど双子のようであった。姉妹たちはこのように心地よい生活を楽しんでいたが、長女ザイナブが結婚して抜けると部屋も淋しげになり、残された三人の姉妹は幾晩も空になった彼女のべッドをながめながら、悲しみと慶びの混じり合った重たい感情に戸惑うのだった。この期間の姉妹たちのお喋りは、もっぱら結婚に関してであった。少女がただひとりで生家を出て、家族でもない、よく知らない男の家に行ってしまう・・・。結婚の実状がよく分かって、姉妹をがっかりさせたのだった。末のフアーティマは年少の所為もあって結婚について最も無知で最も苛立った今まで一緒に遊び甘えてきた小さなお母さんを自分から切り離してしまったことが、大変に不満であった。家族はどうして結婚のために盛大な祝宴など催して祝ったりするのであろうかと、恐らく他の二人に質問したことだろう。ザイナブをこの上なく慕っていた彼女には祝宴などなしに、嫌々泣きながら別れればよかったのにと思われるのだった。ルカイヤは幼いファーティマの気持を察して安心させねばと思ったのだろう。「お父様とお母様があのように盛大にお祝いをしてザイナブを嫁がせるのですもの、きっと幸せで良いことがあるからなのよ」と言い聞かせてみたが、ファーティマの結婚への絶望感は癒せなかった。ウンム・クルスームは二人の姉妹にこう言うよりほかないと思った。「誰に分かることでしょうか、もしかしたら、結婚式のあの大騒ぎは生まれ育った家を離れて新しい人生を始める花嫁の心の不安をとり除いてあげるためかもしれないわね」と。妹のファーティマが納得した様子を見せたので、話を変えて姉妹の心を母に向けさせた。母はザイナブが嫁いでから淋しさを表情に出すまいとしているものの、その感情をコントロールできない様子だった。「お母様が何度もルカイヤのことをザイナブと呼んでしまってから、はっと夢から覚めたときのように、『ああザイナブはもうここには帰らないのを忘れていたわ……』と小声で漏らすのを聴いているでしょう!」ファーティマは深く同情して「ほんとうにそうね……」と頷く。ルカイヤは「あなたは考えすぎよ、ウンムクルスーム。お母様はザイナブの名前をロにするのが慣れっこになってしまったの、胸の奥に秘めた想いがロに出たわけではないのよ。ただ弾みで出てしまうのだわ」 ウンムクルスームは感じたままを話し続けた。「じゃあ、お父様についてはどう思うの? お父様はあれ以来、すっかり黙って独りで考え込むことが多くなってしまったと思わない? お父様は何かとても重大な問題に気をとられているように見えない?」ファーティマの胸は震えた。「ああ、お父様。ウンムクルスーム、あなたの言うとおりよ」ルカイヤは言った。「ザイナブがお嫁に行ったことと、お父様が独り考えごとをなさることと、何か関係があると思うの?」ウンムクルスームは頭を振ると、意味深長な様子で言った。「今度はあなたの番なのよ、覚悟なさいな」ルカイヤは表情も変えずに答えた。「そんなこと、あんまり重大じゃないわ」ファーティマが言った。「二人とも結婚なさいな、おめでとう。でも私はたとえ誰とでも、お父様やお母様と別れることなんかしないわ」ファーティマは、このとき口にしたこの言葉が彼女のなかば運命的な言葉となったのを、まだ知らない・・・。ザイナブが嫁いでから間もなく二人の姉ルカイヤとウンムクルスームが結婚し、ファーティマひとりが父の家に残った。彼女はたとえ誰とであっても、結婚したくなかった。さて、ここで四人の姉妹が両親と共に暮らした時期の話を終え、次の章からは彼女たちひとりひとりの跡を追って、姉妹がどのような生涯を過ごしたのか、その後半の生活の様子を見ていくことにしよう。
إن شاء الله
続きます
アッラーのご加護と祝福がありますように
و السلام