脳のミステリー

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新薬

2008-09-07 06:07:11 | Weblog
数十年前の事である。
鎌倉駅で仰天するような場面に出会った。
プラットホムに立っていた女性がいきなり風に巻かれるように一回転してストーンと倒れたのである。あまりにも瞬時な出来事で私は声も出なかった。
女性は一糸乱れた様子もなく、スクッと立ち上がると何事もなかったようにスカートを払う振りをした。ホッとする間もなく女性はまた同じようにスッ転んだ。何度も何度も小さなあくびをする女性に声をかける事すら私は忘れていた。やがて東京行の横須賀線がホームに滑り込んでくると女性は私に続いて乗り込んできた。昼間の事だったのでオフ・ピークで空席があちこちにあった。女性は私の真向かいの二人席に座った。座ると同時に隣の固い背もたれに自分の頭を預けて眠りに入った。
どういう事! 何という人! 未だ結構お若いのに・・・ 私は本に目を向けながら時折、前に座る女性を窺っていた。横浜を過ぎても目を覚まさない。私が降りる新橋駅でも女性は起きなかった。当時は総武線との相互乗り入れはなかったので、次の終点である東京駅では職員に起こされるだろうと思った。

今になって考えれば、女性は迂闊にも睡眠薬入りの薬を服用して外出したのだろうと思う。
今回初めて 服用上の注意書きとして「眠気を催す事がありますので注意してください」が私への注意事項だった事を知ったからである。
今年の夏は確かに異常気候だった。だから私の右半身も異常事態に陥ったのである。
一大決心で 一年ぶりに脳神経内科医を訪ねた。医師はたった一度の診療で出会った女医さんだが私を覚えていた。嬉しい! 本来ならば、それだけで痛みも痺れも軽減する筈なのに今回はそんなお呪いみたいな事ではダメだ。鬱陶しい梅雨が明ければと思って変化を期待していたが、そんな簡単なものではなかった。
先ず、I先生が薦めてくれたリボトール錠・・・働きは 痙攣や意識消失を抑えるとある。自分には意識消失の心配はないが、服用後の眠気が半端じゃない! 私はI先生に願い出る事もせず、一日朝夜という但し書きを無視して、夜、寝る前に飲もう、どうせ夜は寝るんだから、と勝手に変更した。患者が一番の医者になる事もあるんだ、という持論を私は常に隠し持っている。I先生の説明が「効き過ぎると思ったら減らしたらいい」だった記憶があったからである。
一年ぶりの診療の際、I先生が一週間後には疼痛専門医の予約までしたくれていたので、私は一週間後の午後、ペインクリニックのO先生を訪ねた。I先生とは全く違うタイプの女医さんだった。彼女は初対面の私の話をよく聞いてくれた。そして、I先生が出してくれている薬の私に相応しい飲み方を指導してくれた。
私が勝手にリボトリール錠を減らしたのは正解だった。O先生は「それはいいでしょう」と言ってくれた。

更に一週間後、I先生の予約をしようとしたら9月中はいっぱいで薬だけなら脳神経内科の他の先生でもいいだろう、と受付で言われた。私は急きょ行き先を外科に変更し、疼痛専門医のO先生の予約状況を聞きに行った。幸い、O先生の予約は希望する日に取れた。
そして、更に一週間後の月曜日の午後、私はO先生のところに再来患者として出向いた。
「I先生が出してくれた薬はホントによく効きます。これがこめかみより上だけでなく、右半身全部に効くと嬉しいんですがね・・・」
私の言葉に静かに笑ったO先生は暫く何か考えている様子だった。
「新薬を飲んでみましょうか?」
「新薬?」
「ええ、アメリカ辺りでは結構普及しているのですが、日本では許可にならなくてやっと・・・」
新薬の名前はガバベン! 何だか 赤塚漫画の主人公みたいな変な名前!
アメリカで販売され出した新薬だとかで、O先生は丁寧に説明してくれた。脳外科医から出されているエースコール錠は勿論、I先生のリボトリール錠との併用も問題なしという事である。丁寧なO先生らしく、服用の仕方が15日目で変わってくる。
何れにしろ、リボトリールとガバベンは私の痺疼痛には多少なりとも痛みと痺れをこれまでの程度の維持してくれる事になってくれているのは嬉しい限りである。

ただ、悩みは服用後のどうしようもない睡魔! そこで私は冒頭で、数十年前の鎌倉駅での女性を思い出していたのである。