・・・・・・あわぞうの覗き穴・・・・・・

気が向いたときに、覗いてご覧ください。
何が見えるかは、覗く方々のお眼め次第です。

隙間

2011年03月24日 | なんだいまあ(何だこりゃが念仏になった)

大地震災害の前のことだった。
1年ぶりぐらいにJRの中距離列車に乗った。次の駅で運よくがらがらになった。前に座る人がいないので、これは楽でよいと思っていたら、体つきのしっかりした小父さんがひとり座り込んだ。
やれやれと思う間もなく小父さんが首を伸ばしてきょろきょろし始めた。誰か連れを探しているのかと思ったがそうでもなさそうで、そのうちに座席の窓側の隙間に指を突っ込んで何か探し始めた。
指の力がものすごく、シートの端がたちまちめくれ上がってくる。座席の隙間には随分いろいろなものが詰まっている。菓子の小袋、ガムの皮紙、ボトルのキャップ。小父さんは、片手に持ったビニル袋に出てきたものを片端から入れている。
おやおやこの人はよほど掃除が好きなのかと見ていると、1枚の切符が出てきた。
おじさんは、その切符だけはだいじそうに埃をはたいてポケットに入れ、いったんあたりを見回してから立ち去った。
自分で落としたのに気付いたのか、だれかが落とした切符があるとわかっていたのか。
あるいは、今日は何枚とカレンダーに書き込むのを日課にしているのか。

小父さんのいなくなった座席を見ると、めくれ上がったシートの内側の布がはみ出したままだった。
列車はその出来事の間、特急の追い越し待ちで停車中だった。
発車直前、ホームで大声、誰かが叫んでいる。見ると切符掘りの小父さんがスタスタ歩いている。
もう一度乗る様子はなさそう、また次の列車を待つのだろうか。
走り出した列車の窓からチラと見えた小父さんの横顔が気になる。向こうは全く気にしていない。

窓も、隙間も、覗き穴も、ふだん反対側を気にするのはこちら側だけなのだ。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿