『アーメーダバード観光・悪戦苦闘』
電車は30分ほど遅れてアーメーダバードに到着した。一昔前は、インドの電車は遅れて当たり前だったが、最近では(特にラージダーニー特急は)ほとんど遅れないらしく、30分たらずの遅れでも、面接に行く青年はかなりあわてていた。旅行者の私はのんきなもので、今晩泊まる宿さえまだ決めていない。リキシャーを拾って、ガイドブックにあるホテルの中からひとつ選んで行くように告げる。
「そのホテルは△△という名前に変更しました」
しばらく走ってから、運転手が言い始めた。出たな~。客を連れて行けば、マージンがもらえるように、どこかのホテルと契約しているに決まっている。
「変わっていませんよ。いいから、行って」
「でもマダム、本当にそこは違う名前になったんです。それに、もっときれいなホテルがありますよ」
駅から格安ホテル街までほんの10分足らずだ。そんなやりとりをしているうちにホテル街に着いてしまった。
「いいから、とりあえず、そのホテルに行ってみて」
「じゃあ、ちょっと戻ることになるけど…。試しに、僕のお薦めホテルを見てみれば?」
普段なら警戒してぜったい断って、最初のホテルに行かせるのだが、まだ昼前で明るかったし、そこらじゅうにホテルの看板もたくさんあるので、つい、OKしてしまった。ホテルの部屋を見せてもらうと、これがなかなかいいので、泊まることにする。
冷蔵庫、エアコン、バスタブはないけど、なかなかおしゃれな部屋。
毎朝新聞も入れてくれて、1泊、税込みRs430。
運転手に、「このホテルに私が泊まると、ホテルからいくらもらえるの?」と聞くと、「10ルピー」と答えたので、最初の取り決めから10ルピー減額してリキシャー代を支払う。
チェックインして、一休みしたあと、グジャラート州観光局に行くことにする。20年前に来たときに、観光の相談をした懐かしい所だ。「海が見たいんですけど…」と、漠然とした希望を言って、ソームナートという、日本語の観光ガイドブックには、載っていない場所を紹介してもらった。リキシャーを拾い、観光局までと言ったのだが、変な所で降ろされてしまった。20年前にも一度来ているけど、場所が変わったのかな?と、10分くらい歩いてようやく観光局が見つかった。…20年前と同じ場所だ。てきとーなところで降ろしたな…。
観光局でアーメーダバード市内と近隣の地図をもらおうと思ったが、「ない」という。アーメーダバードはグジャラート州最大の都市であるにもかかわらず、州観光局の主催するバスツアーも何もないのだそうだ。基本的に観光は、バスかリキシャーを使って自力でするしかないようなので、バス乗り場やバスの番号くらいしか聞くこともない。
翌日は早朝からキャリコ博物館をめざす。キャリコ博物館は入館料無料だが、見学するためには、午前と午後、それぞれ1回ずつある館内ツアーに参加するしかない。集合時間に遅れると入館できないので、かなりの余裕を見てホテルを出発し、リキシャーに乗る。
「キャリコ博物館、知っています?」
「ミュージアムだな?」
リキシャーワーラー(運転手)はうなずくが、不安なので念を押す。
「キャ・リ・コ・ミュージアム、ね、サヒーバーグにある。ちゃんと知っていますね?」
リキシャーワーラーは、めんどくさそうに「乗れ」、というように手を振るので乗り込む。ところが、少し走るとあちこちで止めて人に聞いている。本当に知っているのかな?またしばらく走って、止めて、「ここだ」というが、ミュージアムらしき建物はない。前の日に観光局から離れた所で降ろされたので、慎重になる。
「どこ?ここじゃないでしょ」
「道の反対側だ」
「じゃあ、あっち側に渡ってよ」
「道路が混んでいて大変だからここで降りて、自分で渡ってくれ」
ここは絶対違う…という気がしたので、そのへんにいる人に聞いてみると、案の定キャリコ・ミュージアムではなかった。
「違うじゃないの!あれは別のミュージアムよ!」
「あんたはミュージアムに行けと言ったじゃないか!」
「キャリコ・ミュージアムだって言ったじゃない!」
ギャーギャー大声を出して抗議していたら、人が大勢集まってきた。
「どうしたね、マダム」
「私はキャリコ・ミュージアムに行くように言ったのに、この人ったらここで降ろすんですよ!」
「だってミュージアムじゃないか!」
「このミュージアムじゃなくて、キャリコ・ミュージアムって言ったでしょ!」
「まぁまぁ、マダム、それであんた、どうしたいんだね?」
「これから急いでキャリコ・ミュージアに連れて行ってくれるんならお金は払いますが、場所を知らないんなら、他のリキシャーを拾います」
「あんた、じゃあ俺に、ここまでのリキシャー代をくれないっていうのか?」
「あったりまえでしょ?私はこのミュージアムには何の用もないのよ。キャリコ・ミュージアムの入館時間に間に合わなかったらどうしてくれるの?」
そりゃそうだよなぁ…マダムの言うとおり…なんて、寄ってきた野次馬は無責任にワイワイ言っている。
「知らねえよ、キャリコ・ミュージアムなんか!」
キー!となった私はプリプリしながら他のリキシャーを探しに歩いた。余裕を見て出てきたのに、こんなところで降ろされてしまい、集合時間まであと20分しかない。朝の交通ラッシュ時だったので、意外なことにリキシャーはなかなか見つからなかった。かなり遠くまで歩いてようやく見つけたリキシャーに値段交渉をして乗り込む。
ところがなんたることか、またさっきと同じ場所の、道路の反対側のミュージアム前に車を止められてしまった!
「だからこのミュージアムじゃなーい!」
英語も苦手なんで、インドではヒンディーで話すようにはしていますが…。交渉するときは、主に「顔」と「声量」「手」でしているような気がします。
こういうとき、とーこじーはヒンディーで
交渉しているのでしょうか?
尊敬~。