三日月ノート

日々の出来事を気ままに。

居場所探しの旅『ニッチを探して/島田雅彦』

2013年09月18日 07時35分10秒 | 書籍
銀行員の主人公が、会社の不正をストップさせるために身体を張って?工作。
自分は妻子を残して失踪、所持金ほとんどなしのホームレス生活を始める話しです。

冗談抜きで、自分もいつかホームレスになる可能性がないわけじゃないと思うと、他人事ではなく、とてもリアリティのあるものに思えます。

話に出てくる場所も最初は下町ですが、すぐに多摩川近くに移り、よみうりランド、三沢川、そのほとりの湧水、登戸、宿河原など馴染みのある地名が出てきて、あたかも将来の自分をなぞるように読めました。

スーパーの試食コーナーを回り、時にはゴミをあさり、なけなしのお金で、つい馬券を買ってしまう。
近所の中学生たちにオヤジ狩りにあって所持金数百円を奪われた上、殴る蹴る、破魔矢で撃たれる場面は、過去にあった実際の事件を思い出します。

最低、屋根と壁のあるところで死ねれば御の字かなぁと近頃思う自分ですが、ホームレスになるにもある一線を越える必要があり、彼らはある意味その道のプロ。
そうそう簡単にはなれないようです。

「ニッチ」というのはよくビジネスで聞く意味とは少し違っていて、人間を含め、生き物が自然に生きるための適所、棲み分けといった意味です。

さして違和感なく自分の人生の居場所を受け入れることができる人もいれば、居心地の悪さを感じて、「ニッチ」を探している人もいるのでしょう。

「この世とあの世の棲み分け」というようなことも出てくるのですが、物理的な場所だけでなく、精神的なニッチも重要な気がします。
むしろその方が大きいかもしれません。

振り返ってみると、私もいつもニッチを探している気がします。
それがこの世にあるのかないのか。

本の主題とは関係なしに妄想が膨らむ小説でした。